【法務・会計】
税務コスト負担の軽減につながるいくつかの租税緩和措置がはかられている一方、税務手続はますます厳格化していく環境は、特にコンプライアンス意識が高いと言われる日系進出企業にとっては様々な経営リスクの主要原因ともなる。
SCSの宮田氏は、「日本企業が海外進出するにあたり、本社の経理財務部門の方が常駐することは滅多にありません。そのため会計税務の知見や素養のある日本人がいない中、資金繰りの繊細なスタートアップ期などにおいて自社で会計税務を試みるも、後々申告漏れや会計と税務の不一致、必要書類の紛失などといったトラブルが発覚し、結果的に追徴課税等でコストが余計に膨らむケースがしばしばあります。ここカンボジアにおいても法制度が頻繁にアップデートされ、それがビジネスリスクにもチャンスにもなりますが、いずれにしても常に専門性の高い知識が必要になります」と話す。
2016年後半から税務調査等を行う税務当局員の人員が人数およびその知見・経験値において更に増強され、更に従来まで不透明もしくは過度に負担が重かった税務についていくつかの緩和措置が図られた最近は税務局員側も経験値が増えており、細かい内容の指摘が増えている。折衝において専門知識や経験値が益々必要になっていることから、今後は更に高い専門性を持った折衝力のある会計事務所が求められる。
また、注目している新たな動きとして、アイグローカルのドゥク・ダリン氏は、「カンボジア法人の代表者もしくは本社からの長期出張者等がカンボジア法人にて勤務し、給与・報酬を受領しない場合であっても、税務調査の際に給与・報酬額を推定し、給与税が課税される事例が直近の税務調査で多発しています。税法上、代表者・出張者に対して給与等を支給しなければならないとの規定はありませんが、税務調査での当該指摘はトレンドとなっています。そのため、カンボジアでの給与額を設定する、或いは出張手当等を設定し、給与税を納税することをお勧めいたします」とアドバイスする。
会計税務の知見や経験を有する税務等局員が増強される事で、適正な税務を浸透させるための規制強化の流れが強まる傾向は変わらない一方、カンボジアの税制の煩雑さや企業にとって理不尽にも映る追加課税リスクは、しだいに進出企業に認知されるようになってきており、カンボジア政府は外資企業の進出インセンティブを過度に阻害することがないよう、対策を取り始めているようだ。
ルール整備・改正は更に続きながらも、その運用状況にはいまだ難あり、という一筋縄ではいかない法律環境だ。
条文や判例を机上で講釈する専門家よりも、いかに実践的に顧客の法律・会計実務や諸問題と向き合い、解決に向けて共に動いてくれるか。資格や肩書きよりも、リアルな実務経験と協業スタイルがパートナー選びにあたっての重要なポイントとなるようだ。
カンボジアには、日系会計事務所等が存在し、税務申告、記帳代行、登記関係業務等のサービスを提供している。また、SCSの宮田氏は、「カンボジアは目立った外資規制が少なく進出が容易な国のひとつです。しかしその進出の容易さから進出当初の管理が疎かになり税務調査で後から指摘をされるといったケースも多いので、事業計画の段階で注意すべき点を専門家に相談されることをお勧めします」と語る。
東京コンサルティングファームの西山氏は、「進出直後の企業にとって会計税務にかけられるコストは決して高くはありません。低コストで経験の浅い経理担当者を雇って業務を進め、結果として数年後の監査や税務調査等で会計原則からの乖離や計上漏れ等を指摘され、莫大な追徴金を請求されるケースも多くあります。会計税務や労務といった専門的業務は、リスク回避のためだけではなく未来につながる形で積極的に専門家を活用していくことが重要となります」と語った。