【医療・医薬】
外国人がより安心して生活できる医療環境が整いつつある。プノンペンを中心に外国人医師・歯科医師が診療にあたる医療機関が複数存在し、一般内科・外科に限らず、耳鼻科・消化器外科・整形外科・脳外科など様々な専門科の外国人医師が診療を行なう。また、2016年10月にはプノンペン都内に24時間365日の救急対応を行う日系病院が開設され、カンボジアにおける高度医療と救急医療水準の向上への寄与も期待されている。今後も新たな医療機関・薬局等の開設が計画されており、さらに外国人が安心できる環境が整っていくものと見られる。
医師の水準に関しては、2012年にようやく医師国家試験が一部導入された。カンボジアはその他の国と比べて圧倒的に専門医の数が少なく、医師の水準も低い。カンボジア初の日本人開業医である ケン・クリニックの奥澤健医師によると、「カンボジアは日本のように医師国家試験がなく、医学部を卒業すれば医師資格が得られます。また、カンボジア人医師との認識のズレはよくあります。例えば、結核の検査で「QFT」という血液検査がありますが、存在自体知らない医療関係者もいます。また、糖尿病と診断を受けた患者で、日本では必須のHbA1cという血液検査が実施されていないことがありました。検査自体はカンボジアにも存在しており、彼らも検査できるはずなのですが、しっかりと認識できていないためにこうしたケースが発生するのだと思います」と語る。しかし、同氏は、カンボジア人医師の知識やレベルについて、「益々海外から情報が入ってきますし、今後良くなっていくと思われます。また、カンボジア人の優れた医師は海外での医療経験を積んだ人がほとんどです。海外での経験は、この国の医療に重要です」と付け加えた。
国内の主な私立・公立の病院で救急治療を受けられる所もあるが、質にはばらつきがある。2次又は3次救急では、バンコクやシンガポールといった国外の医療適格地へ搬送される場合もある。(参考:専用機での搬送費、約2~4万ドル。入院費、手術費等別途。)
2015年に世界保健機関(WHO)が世界180の国と地域を対象に人口10万人あたりの交通事故の死者数を調査したところ、日本の4.7人に対しカンボジアは17.4人と、交通事故で命を落とすリスクが日本の約3.7倍もあることが示唆された。万が一に備え、カンボジアの救急搬送手段をあらかじめ理解・確保したい。
外国人にとって当地では母国とは違う環境であることを踏まえた健康管理が必要になる。衛生環境への配慮は欠かせない。カンボジアで多い病気は、気候や風土に特有するもの、生活習慣に特有するものに大別され、気候や風土が原因で発生する病気は、一般的な風邪やデング熱といった感染症、伝染性の疾患、食あたりに伴う腹痛・下痢も多いという。生活習慣は、糖尿病、高尿酸血症、高血圧、中性脂肪やコレステロール値が上昇する脂質異常症などだ。
ケン・クリニックの奥澤医師は、「カンボジアで体重が増加したという外国人を多く見ますが、その原因は主にカンボジアでの食生活にあると考えられます。カンボジア人の食生活は、おかずが少ないのにも関わらず白米を異常に多く摂取する傾向があり、おかずと白米の割合が外国とは異なります。肥満、糖尿病、高血圧の主な原因は白米などの炭水化物であり、カンボジア人同様の食生活を送る中でこういった病気にかかりやすくなっています」と警告している。カンボジアの飲み物には、多くの糖分が含まれており、牛乳でさえも砂糖入りのものが売られているので、糖分の過剰摂取には気をつけたい。
しかし、プノンペンの在住外国人の多くはビジネスパーソンであり、忙しさゆえに不摂生に陥ることも多いだろう。日本人医師、看護師が在籍するサンインターナショナルクリニック(以下、SIC)の野々村秀明医師は生活習慣病について、「カンボジアの在留邦人の年齢層は比較的若いことが想定されることから、生活習慣病といった慢性疾患の有病率は低いかもしれません。しかしながら、発展途上国に長期滞在する外国人の受診病名を追跡した調査によると、呼吸器疾患や消化器疾患、感染症などといった急性疾患が多いです」と語る。日々の自己管理のほか、年齢に関わらず体調に異変を感じた場合は重症化しない内に医療機関を受診することが大切だ。
気をつけなければならないのは病気だけではない。ケン・クリニックの奥澤医師は、「バイク乗車中に発生する事故によるものが多いです。車や他のバイクとの接触、スリップ、ひったくりに遭って引きずられるといったケースです。ひったくりは歩行中やトゥクトゥク乗車中にも発生しています。最悪の場合、肩鎖関節脱臼という鎖骨と肩甲骨の靭帯が完全に切れて深刻化してしまう方もいます」と語る。同氏によると、ひったくりの被害は確実に増えているという。