カンボジアに進出する日系企業のための
B2Bガイドブック WEB版

2017年6月29日
カンボジア進出ガイド

【法務・会計】

173 カンボジアの法律・税務・会計①(2017年05月発刊 ISSUE06より)

法律の整備と運用 Legal developments & application of existing laws

 日系企業を始め諸外国からのカンボジア進出企業がまず直面する法律面での課題や悩みの多くは、会社情報に関する登記を行うカンボジア商業省との対応、およびカンボジア経済財政省管轄の租税総局(GDT)および各地域税務署との納税申告に関する対応の2つに集約されている。

 日本は1999年からODAの一環である技術協力として裁判官・弁護士・司法書士などの法律専門家をJICAを通じて派遣し、カンボジアの民法・民事訴訟法を始めとする民事関連法令の起草・成立を支援している。従来はこのような外国からの支援に頼りきりであったカンボジアの法整備状況であったが、昨今はカンボジア当局独自の改正が頻繁に行われている。
 
 2016年後半から2017年前半にかけて見られる新たな傾向としては、税務調査等を行う税務当局員の人員が人数およびその知見・経験値において更に増強された事と、更には従来まで不透明もしくは過度に負担が重かった税務についていくつかの緩和措置が図られた事が挙げられる。



 カンボジアと日本の双方の規制に対応し、会計や税務を始め様々な支援サービスを提供している辻・本郷税理士法人の菊島陽子氏によると、「2016年、GDTは民間の会計事務所や監査法人に勤務経験がある人材を大量に雇用したと聞いています。従前は税務調査等で実務とかけ離れた論点による指摘も多々ありましたが、これによって実務を熟知している税務担当官が増加し、法令・実務両方の観点による税務調査の実施が予想されます。これまで以上に当地で経験のある税務専門家のサポートが重要になると考えます」と話し、税務調査に向け税務当局員の強化が図られていることを説明する。

 また近年、給与税に関して緩和措置が取られた。カンボジアの給与税の課税対象は給与所得とフリンジベネフィットであり、それぞれに別々の税率が適用される。給与所得税に関しては、2017年1月より納税対象者の最低月給額が変更されている。辻・本郷税理士法人の菊島氏は、「従前は80万リエル(約200USD)以下は0%の累進課税率が適用されていましたが、規定改正後は100万リエル(約250USD)に対して0%が適用されるようになりました。更に扶養控除額が7万5000リエル(約18.75USD)から15万リエル(約37.50USD)に引き上げられました。この改正により、若干ではありますが、給与税負担が減ることになります」と話す。


 またフリンジベネフィット税に関しても、2016年10月にGDTが、免除の適用範囲を拡大すると発表した。フリンジベネフィットとは、例えば出張手当・残業食事代・社員旅行など給与以外の経済的利益を指す。税金の免除は2015年1月に縫製業労働者に初めて適用されたものの、製造業のみ適用という不平等な規定に加え適用条件に曖昧な部分もあったため、不満の声が挙がっていたという。現在では免税対象が他の業種にも拡大している。

 カンボジア初の日系会計事務所として進出したアイグローカルのマック・ブラタナ氏は、「今回の免税規定では税務局へ福利厚生規定を届け出た上で、業務に関わらず適用を受けることができるようになりました。なお、免税対象となる手当は、通勤手当・家賃手当・社会保障基金への拠出金手当・育児手当及び一時解雇補償金等の労働法に規定のある手当、食事手当・全従業員が対象となる生命保険及び健康保険の企業負担分が挙げられます」と説明する。

 他にも、サブリース時に課されていた源泉税の改正が行われた。同氏は、「2016年11月3日、サブリースを受ける企業の源泉税(WHT)が免税となりました。これまでは、例えばアパートやオフィスのオーナーからリースを受ける場合及び当該リース物件をサブリースする場合にも、WHTが課されていました。しかし改正後は、オーナーから直接リースを受ける場合のみWHTの納税が必要となりました。実際、VAT登録事業者同士の契約では付加価値税(VAT)が発生するにも関わらず、さらにWHTも課される状況だったので、この改正により企業負担が減ることとなりました」と説明する。

 会計税務の知見や経験を有する税務等局員が増強される事で、適正な税務を浸透させるための規制強化の流れが強まる傾向は変わらない一方、カンボジアの税制の煩雑さや企業にとって理不尽にも映る追加課税リスクは、しだいに進出企業に認知されるようになってきており、カンボジア政府は外資企業の進出インセンティブを過度に阻害することがないよう、対策を取り始めているようだ。

会計事務所および会計サービス Accounting firms & Accounting services

 カンボジアには、KPMG、PWC、Ernst&Young等の国際的な大手会計事務所のほか、日系会計事務所等が存在し、税務申告、記帳代行、登記関係業務等のサービスを提供している。大手会計事務所にも日本人公認会計士が常駐し、日系進出企業にとってアドバイスが受けやすい環境が整いつつある。JETROプノンペンのコーディネーターを兼務するKPMGのマネージャー、田村陽一氏は、「カンボジアでは源泉徴収税やフリンジベネフィット税、ミニマム税といった日本では一般的でない税金がかかります。信頼できる専門家のサポートが無ければ、税金の仕組みを理解し税務リスクを十分に低減するのは簡単ではないでしょう」と述べている。



 また、日本とはかなり異なるカンボジアの税制事情から発生する課題を解決するため、ソリューションを提供する民間企業も現れ始めた。カンボジア税制に合わせたクラウド会計ソフト「EZ★CASS(イージーキャス)」を開発するカンボディアン・インプレス・サービスの安藤理智は、「初めは進出サポートをメインにしようとしていましたが、途中で税務という問題にぶちあたりました。とにかく、誰もが簡単に使えるような納税のシステムを作る必要があるなと。その後、旧知の仲であった日本のシステム会社と組み、カンボジア税務に特化した会計ソフトの開発に1年かけました。ローンチは2016年10月に行いましたが、まだ機能強化をしている段階で、2017年の5月末を完成目標にしています。またこの1年間、ローカルネットワークの構築に奮闘しており、会計士や税理士の有資格者の方々が、この開発に携わっています。税金に関わることなので、1つのミスも許されない。様々な方法で、デバックしています。現在は、韓国、中国、それ以外の国の方からも問い合わせがあり、この国でビジネスをする方々全てがお客様です」と述べる。

 従来型の会計税務サービスを提供する会計事務所に加え、クラウド会計ソフトなど比較的新しいシステムによるサービスを提供する企業の進出も始まり、カンボジア進出企業を税制・会計面でサポートする環境は更に整いつつある事は、カンボジア進出企業にとって朗報と言えるだろう。


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