【金融・保険】
(111 カンボジアの法律・税務・会計②から続き)
カンボジア国内では米ドルとカンボジア通貨のリエルが流通しているが、経済取引の大半がドル決済である。カンボジア経済は1990年代初め国連暫定当局の到着後にドル化し、1993年には経済取引の約36%を占め、2003年に70%に跳ね上がると、現在ドル取引はカンボジアの総金融取引の約83%を占めている。その要因は外国為替に関する規制がほとんどないことが考えられる。
世界で10数行しかないAA格付けを持つ国際的金融機関、ANZロイヤル銀行のレオニー・レスブリッジ氏は、「中央銀行にとっては、現地通貨の普及は安定した経済を保つ為の金融手段になります。安定した経済を実現していく上で、貨幣量と対外投資などの資本収支のコントロールがポイントになります。しかしドル化経済では、政府が経済をコントロールする力が十分に発揮されません。ですので今後、自国通貨のリエルをどう位置付けていくかを考える必要が出てくるでしょう。ただしリエルを基軸通貨とした場合、経済活動がどのような姿になるか理解しなくてはなりませんし、また投資家や市場からの理解と協力が不可欠です。」と語った。
カンボジア最大の銀行としてマーケットリーダーの地位を維持しているアクレダ銀行のソー・フォナリ―氏は、「リエルはここ5年間、ほぼ1ドル4000リエルを保っており、国際貨幣に比べても安定しています。ドル使用の制限がないため、リエル紙幣の循環はまだ低いですが、人々はここ数年でリエルを使う機会が多くなっていると思います。政府はドル使用の制限こそしていませんが、税金や水道料金の支払いをリエルでするなどリエル使用の動機付けをしています」と語る。また、完全にリエル化に移行した金融機関も現れ始めた。政府主導の自国通貨の利用促進により、リエル使用率の上昇が予想される。
近年、為替市場のリエル相場は1ドル当たり4,000~4,100リエルと安定的に推移している。市中銀行や両替商ではその日の変動レートで通貨交換がなされるが、実際にドル建ての少額取引をリエルで支払う場合、便宜上、1ドル当たり4,000リエルか、取引先が個別に定める固定レートで計算され、もっぱら現金による直払いがなされる。しかし、法人のように取引額が高額になる場合などは小切手が比較的頻繁に利用される。
ANZロイヤル銀行の山口紗世氏は、「カンボジアは、まだ多くの決済で現金と小切手が使用されています。多くの法人のお客様は小切手振出ができる口座をご利用されますが、ただこの口座は、日本でいう当座預金口座と全く同じものではありません。日本で行われる審査や当座預金開設約定といったものはありませんし、小切手を切らずに現金引き出しが可能です。また利子はつきません」と述べる。
今後の動きについて、アクレダ銀行のソー氏は、「各銀行もネットバンキングやモバイルバンキングなど様々な付加価値を提供し始めており、請求書の支払いや口座間の資金移動を簡単に行う事ができます。今後はさらに対応が拡大していくでしょう」と話し、アナログだった企業間決済も変化すると予想している。
(113 カンボジアの金融&保険②へ続く)