【人材・コンサル】
(082 カンボジアの通信&ITから続き)
多くの経営者はカンボジア人に対する共通した感想を持っている。彼らはフレンドリーで礼儀正しいが、上司に対する進言などは少ない。だからこそスタッフとよく話すようにするのが良いだろう。彼らは自ら話さないだけで仕事に対して想いやアイディアを持っており、それを引き出すことはとても有用である。また、一方で稚拙で短絡的な思考や言動が見受けられ、周囲に流され易くメンタル面が弱い。
2005年創業、100名以上のスタッフを擁し7万人の求職登録を誇るカンボジア最大の人材会社、HRインクのサンドラ・ダミーコ氏は、「カンボジア人は基本的に新しいことや学ぶことが大好きですし勤勉です。しかし教育システムが不完全なのでハンズオン支援が不可欠です。ただ機会を与えれば努力しますし能力を発揮します。日系企業は規律がきちんとしている分、カンボジアでは苦労するかもしれません。忍耐力とルールなどの明確化が必要かと思います。最初は日系企業の厳しさに付いて行くのが大変だと皆言います。しかし働いているうちにその良さが伝わるのか、働きたい企業の上位になっています」と語っている。
2008年から人材開発や労務コンサルタントを行うローカル人材会社、Aプラスのソー・キナール氏も、「多くのカンボジア人は会社の同僚や上司と仲良くフレンドリーな関係を好む文化があります。彼らは若く、行動力があり、新しいことを率先して学ぶ姿勢があります。彼らに継続して働いて欲しければ良い仕事環境と成長機会を提供することを忘れないで欲しいです」と語る。
カンボジア人の多くは家族や親戚、友人らと共同生活をしており、一人暮らしは稀だ。理由として生活費の節約が挙げられるが、むしろ精神的な支え合いに重点を置いている傾向が強い。親の進言で採用を辞退したり、職務より個人的な用事を優先するなど、親からの過剰な干渉や強い依存関係に起因した行動が会社運営にも影響を与えるため留意が必要だ。
カンボジアは祝祭日が年間27日程度とASEAN諸国の中では最多。プノンペン市民には地方出身者が多く、盆や正月などの連休には帰郷することが多い。できるだけ多くの時間を故郷で過ごすため、連休の前後に移動日として更に休暇を要求する一方で、会社の方針を尊重し、従業員間で休暇を調整するといった行動はまれである。そのため、飲食店などは休業せざるを得ない場合もある。
カンボジア人は帰属意識は低い反面、独立意識が強い。その背景として、主な働き先であるローカル系企業での極端な同族経営が挙げられる。なぜなら、このような会社で働く従業員は、努力しても昇進・昇給が難しいからだ。フリーランスで副業をする者もおり、顧客情報や技術・知識の流用が懸念される。就業規則や誓約書により同業他社への転職等を抑止する企業もある。
また、元厚生労働省出身で、日系の大手人材紹介会社クリエイティブ・ダイアモンド・リンクス(CDL)の鳴海貴紀氏は、「彼らは希望給与額を現職給与額より下に設定することはほとんどありません。転職が賃金アップの有力手段であると安直に考えている向きがある。成果を出せば昇進・昇給できるというロールモデルを社内で構築できれば、人材の流出を防ぎ、従業員は業務に集中することができます」と言う。
エグゼクティブクラスに特化したフランス系人材紹介会社、セイント・ブランカット&アソシエイツのオーモリー・デ・セイント・ブランカット氏は、「学校教育や職業教育が十分でなく、国際的な企業で働いた経験が少ないため、国際標準的な働き方に慣れていないといった問題もあります。また、良い点として、英語力の高さがあります。英語をとても良く喋れる方が多いです。彼らのことをよく知り、尊重し、彼らが働きやすい職場を作ることが何よりも重要です。カンボジアの人々にとって働きやすい職場とは、雰囲気のいい和気あいあいとした職場です。規律を作って正そうとするだけでなく、雰囲気をつくること、関係性をつくることが必要なのです。簡単なことではないが、とても重要なことです」と言う。
Aプラスのソー氏も、「仕事への考え方の違いを理解する必要があると思います。日本人は遅くまで残業したり、その日の仕事が終わるまでは家に帰らないという文化・気構えがありますが、カンボジア人は仕事時間が終わるとすぐに家に帰りたがる傾向があり、残業は顧客とアポイントがある時だけでしょう。理由の一つは日本のようにきちんとした仕事に対する教育を受けていないことがあります。また、女性スタッフは遅くまで働く文化がなく、遅い時間の帰宅はセキュリティの面からも危険です。また、家族との関係を最も大切にします。更には日本のように交通機関等のインフラが整備されておらず時間が読みにくい。ですので、まずカンボジアは違うということを理解する必要があります。カンボジア人の事を怠惰だとは言えません。なぜならそこには様々な文化的背景や要因があるからです。日本人はカンボジア人に日本の仕事文化や働き方を教え、仕事に責任を持って働いてもらう為にも、勉強・理解と辛抱強さが必要です」と語る。
HRインクのダミーコ氏は、「最大のチャレンジは低層の労働者に対応するときです。教育をまともに受けていなかったり、読み書きができなかったりしますがそのような人材のコントロールとマネジメントが課題になります。会社のルールや存在意義や目的を伝えないと後に大きな問題になります」と注意を促すとともに、「日本のやり方を理解するマネジメントを作り上げることはとても重要です。またスタッフに日本を体感させることも大事です。日本人が多すぎる等通訳を多く介在させている会社の場合、問題に直面するかもしれません。成功させるコツはカンボジア人中心のマネジメントチームを作り上げ、彼らにスタッフの育成をさせることだと思います。その際もスタッフに日本流を体感させることを忘れてはいけません」とアドバイスした。
(084 カンボジアのHR・コンサル②へ続く)