カンボジアに進出する日系企業のための
B2Bガイドブック WEB版

2015年11月10日
カンボジア進出ガイド

【法務・会計】

072 カンボジアの法務・税務・会計②(2015年10月発刊 ISSUE03より)

税務監査 Tax audits

071 カンボジアの法律・税務・会計①から続き
 当局による徴税体制強化の流れの中、外資企業向けの税務監査・税務調査は更にその厳しさを増している。

 アイ・グローカルの松村侑弥氏は、「最近では資金管理の部分に関しての指摘が増加しています。現地法人設立の際には資本金を払い込む必要がありますが、事業活動を行う上でキャッシュが不足し、親会社から追加で送金を受ける企業が多くあります。現地法人側では当該取引の処理として、増資手続きもしくは親子ローン契約を締結する必要があります。増資手続きは定款を変更する必要があり、商業省および税務局にて申請が必要となるため、変更完了までおよそ2~3ヶ月の時間と手間がかかります。また、親子ローンの場合は契約書を作成し、利息の設定を行い、管轄税務局へ通知を行う必要があります。これらの手続きを踏まえなかったばかりに、親会社からの送金が現地法人の売上としてみなされ、申告漏れを指摘されるケースなどが目立ちます。また親子ローンとした場合、税務局への通知を怠ったばかりに恣意的な利率を税務局より設定され、利息に対する源泉税の申告漏れもしくは過少申告を指摘されるリスクがある旨にも留意が必要です」と語った。

 辻・本郷税理士法人の松崎氏は、「現状顧問先のお客様の税務調査の中で多い指摘は、外国人の給与についてです。給与税は、税法上居住者に該当する場合は所得の源泉地や支払地にかかわらず全世帯所得に対して課税されます。税務調査において、税務当局が過少申告の疑いがある納税者に対してみなしの給与所得金額を提示し、反証がない限りそのみなし金額で課税するケースが増えています。更に、給与税やフリンジベネフィット税を含む源泉税の指摘が非常に多く、強引とも思える指摘がなされるケースがあります。例えば最近の事例では、親会社等の関係会社から事業用資産等の無償供与を受けたケースについて、税務調査担当官が有償とすべきである指摘し、みなしで当該資産の使用料を設定し、その金額に対応する源泉税及び延滞加算税、利息の支払いを要求するという事例が発生しています」と調査の現状について語った。

 カンボジアは法人税率が20%と諸外国に比べ低い水準にある事をアピールし外資誘致を促進しているが、強引な源泉税の適用など事業者にとって想定外の税負担が発生するケースが多発している。税制も職員の税務知識も不完全な状況の中で徴税体制強化のみが急速に進み、税務調査の現場では歪みが生じている。

規制が強化されている汚職防止や労働許可 Anti-Corruption and Working Permit

 従来はあまり厳しく規制されていなかった対象も昨今では厳しくチェックされるようになってきている。



 2005年に設立されたカンボジア弁護士会に所属する総合法律事務所で日本人弁護士・カンボジア人弁護士の常駐するジャパンデスクを設けているHBS ローのリ・タイセン弁護士は、「近時、労働許可に関する政府の規制が厳しくなっています。労働許可について規定する労働法は1997年から施行されていますが、その実施は必ずしも厳格ではありませんでした。そのため、多くのカンボジア及び外国企業は、厳格な規制の実施に戸惑って、現在、労働許可に関する対応に追われています」と語る。

 日系企業からの案件を多く扱っているマー&アソシエイツ ローオフィスの村上暢昭氏は、「昨年後半に、内務省と労働省は、入国管理法および労働法に基づく取締りを両省が共同して行うとの共同省令を出しました。労働法上、『外国人は、労働担当相が発行する労働許可(ワークパーミット)及び雇用票を所持していない限り、労働することができない。』と規定されています。この点、労働法はその目的をカンボジア王国内で実行される労働契約から生ずる労使関係を規律することであるとしていることから、個人事業主の取扱いが問題になります。実務上、個人事業主がワークパーミットを取得するためには税務登録する必要があります。税務登録をされていない個人事業主の方は、税務上のリスクに加えて、ワークパーミットに関するリスクを負うことになりますので、注意が必要です」と述べており、「現在のところカンボジアでは、ワークパーミットとビザは連動していませんが、今後はワークパーミットがなければ就労ビザを取得できない・更新することができないという運用がなされる可能性があります。今後規制は更に強まる傾向にありますので、ワークパーミットの問題についてはご留意頂くべきかと思います。」と付け加えた。



 カンボジアでの汚職に対する執行機関(Anti CorruptionUnit, ACU)の活動も強化されてきている。HBS ローのリ弁護士は、「ACUが発足して数年経ちます。汚職の蔓延する現状を打開するために設立されたのです。私はACUに対してクライアントを弁護した経験があります。私はACUは徹底的かつ緻密に事件を捜査しているし、その職員も十分な能力を持っているとの印象を持ちました。ACUはその他の捜査機関と比べるとより組織的に機能していますし、適正のある職員が配置されています。さらにACUを監督する管理評議会は、上院、国民議会、政府、司法官職高等評議会及び法・司法改革評議会などにより任命された高官によって構成されています。ACUはホームページで情報を公開しています。今までのところ、ACUは数百件の告発を受理したと聞いています。汚職を取り締まる法令はありますが、一般市民が十分に理解してそれに従って行動するのは難しい部分もあります。そこで、ACUはそれらの法令を一般に普及する役割も担っているのです。私はACUに対する一般市民の信頼が向上していること、ビジネス関係者と一般市民双方から汚職に対する訴えが増加していることから、ACUが扱う事件はますます増えると予測しています。私はACUの活躍に期待し、ACUが汚職をより厳しく取り締まることを望んでいます。汚職は、我々のような法律事務所、その他のビジネスの両方に悪影響を及ぼすからです。汚職に関する内部告発は著しく増えていますし、公務員の考え方も徐々に変わってきているようです。なお、手続きについては、ACUに告発された事件はACUによって捜査された後、更なる捜査・起訴・裁判のために裁判所に告発されます」と語った。

 今年に入り、ACUと汚職に関する情報提供の協力などを内容とする覚書(MOU)を締結する企業が増加しているが、専門家からは、締結には十分な検討・準備が必要との声もある。マー&アソシエイツの村上氏は、「MOUの内容として、ACUはMOU締結企業毎に担当の職員を付けることになっていますが、ACUがMOU締結企業のためにどの程度協力してくれるのかは未知数です。他方、締結企業はACUに対して汚職・賄賂に関する通報義務を負いますので、MOUの締結に当たっては、社内での、これまでの汚職に関する調査や教育が必要になってくるのではないでしょうか」と語った。

法務顧問会社の役割 The role of legal advisory firms



 ルール整備はされていて、更に改正は続きながらも、その運用状況にはいまだに難あり、という一筋縄ではいかない法律環境において、ヴィーディービー・ロイのエドウィン・ヴァーダーブルッゲン氏は、企業のパートナーとなる専門家のあるべき姿についてこう語る。「法律によればこうですよ、と言うだけなら簡単で誰にでもできます。困り果てたクライアントが来るのを待って、法律に関する質問に答える。小さな調査書を渡し、法律ではこうなっていますよと助言して、あとは幸運を祈るだけ、そして請求ですね。こんなやり方では、カンボジアの企業法務の問題を解決することはできません。より踏み込んだ手法が必要となるんです。問題を解決するためには、具体的にどの省庁と、いつ、どうやってやりとりして、いくらぐらいで済ませるべきかといったような 、極めて実践的な経験と知見が必要とされるのです」と語る。

 カンボジアで20年以上の歴史を持つ、シャーロニ&アソシエイツのシニアパートナー、ブレットン・G・シャーロニ氏も実践的なアドバイスとしてこう語る。「法律を順守すると決めた以上は、よくありがちな“政府関係の親族です”と言い寄ってくる仲介人などは相手にしないことです。問題に直面した時、彼らは安易な提案をしてくるでしょうが、その関係者が抜け、万が一あなたがやるべきことを手順通りやっていないということが表面化した時、あなたは大きな代償を払うことになるでしょう」。法律条文や判例を机上で講釈する専門家よりも、いかに実践的に顧客の法律・会計実務や諸問題と向き合い、解決に向けて共に動いてくれるか。専門家としての資格や肩書きよりも、リアルな実務経験と協業スタイルがパートナー選びにあたっての重要なポイントとなるようだ。
073 カンボジアの不動産①へ続く


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