【法務・会計】
(026 カンボジアの法務・税務・会計②からの続き)
従来はあまり厳しく規制されていなかった対象も昨今では厳しくチェックされるようになってきている。
2005年に設立されたカンボジア弁護士会に所属する総合法律事務所で日本人弁護士・カンボジア人弁護士の常駐するジャパンデスクを設けているHBS ローのリ・タイセン弁護士によると、「近時、労働許可に関する政府の規制が厳しくなっています。労働許可について規定する労働法は1997年から施行されていますが、その実施は必ずしも厳格ではありませんでした。そのため、多くのカンボジア及び外国企業は、厳格な規制の実施に戸惑って、現在、労働許可に関する対応に追われています」と語る。
日系企業からの案件を多く扱っているMAR&JBL ロー オフィスの村上暢昭氏によると、「昨年後半に、内務省と労働省は、入国管理法および労働法に基づく取締りを両省が共同して行うとの共同省令を出しました。労働法上、『外国人は、労働担当相が発行する労働許可(ワークパーミット)及び雇用票を所持していない限り、労働することができない。』と規定されています。この点、労働法はその目的をカンボジア王国内で実行される労働契約から生ずる労使関係を規律することであるとしていることから、個人事業主の取扱いが問題になります。実務上、個人事業主がワークパーミットを取得するためには税務登録する必要があります。税務登録をされていない個人事業主の方は、税務上のリスクに加えて、ワークパーミットに関するリスクを負うことになりますので、注意が必要です」と述べており、「現在のところカンボジアでは、ワークパーミットとビザは連動していませんが、今後はワークパーミットがなければ就労ビザを取得できない・更新することができないという運用がなされる可能性があります。今後規制は更に強まる傾向にありますので、ワークパーミットの問題についてはご留意頂くべきかと思います。なお、現状ではワークパーミットの取得に最長半年以上かかっていますので、この点につきましてもご留意下さい」と付け加えた。
カンボジアでの汚職に対する執行機関(Anti Corruption Unit,ACU)の活動も強化されてきている。HBS ローのリ弁護士いわく「ACUが発足して数年経ちます。汚職の蔓延する現状を打開するために設立されたのです。私はACUに対してクライアントを弁護した経験があります。私はACUは徹底的かつ緻密に事件を捜査しているし、その職員も十分な能力を持っているとの印象を持ちました。
ACUはその他の捜査機関と比べるとより組織的に機能していますし、適正のある職員が配置されています。さらにACUを監督する管理評議会は、上院、国民議会、政府、司法官職高等評議会及び法・司法改革評議会などにより任命された高官によって構成されています。ACUはホームページで情報を公開しています。今までのところ、ACUは数百件の告発を受理したと聞いています。汚職を取り締まる法令はありますが、一般市民が十分に理解してそれに従って行動するのは難しい部分もあります。そこで、ACUはそれらの法令を一般に普及する役割も担っているのです。私はACUに対する一般市民の信頼が向上していること、ビジネス関係者と一般市民双方から汚職に対する訴えが増加していることから、ACUが扱う事件はますます増えると予測しています。私はACUの活躍に期待し、ACUが汚職をより厳しく取り締まることを望んでいます。汚職は、我々のような法律事務所、その他のビジネスの両方に悪影響を及ぼすからです。汚職に関する内部告発は著しく増えていますし、公務員の考え方も徐々に変わってきているようです。なお、手続きについては、ACUに告発された事件はACUによって捜査された後、更なる捜査・起訴・裁判のために裁判所に告発されます」。
今年に入り、ACUと汚職に関する情報提供の協力などを内容とする覚書(MOU)を締結する企業が増加しているが、専門家からは、締結には十分な検討・準備が必要との声もある。MAR&JBLの村上氏によると「MOUの内容として、ACUはMOU締結企業毎に担当の職員を付けることになっていますが、ACUがMOU締結企業のためにどの程度協力してくれるのかは未知数です。他方、締結企業はACUに対して汚職・賄賂に関する通報義務を負いますので、MOUの締結に当たっては、社内での、これまでの汚職に関する調査や教育が必要になってくるのではないでしょうか」。
(028 カンボジアの法務・税務・会計④へ続く)