【運輸・物流】
南部回廊での冷凍・冷蔵輸送、低温輸送を8月から開始した鴻池運輸の高林洋平氏は、「定温インフラに関しては、自社製品取扱業者や卸業者が自前の冷凍・冷蔵倉庫を持つのみで、物流業として冷凍車等を持つ企業はありませんでした。弊社ではホーチミンとタイではすでに拠点があるため、それぞれの国境までは既存ルートで運び、そこからプノンペンまでの低温輸送に新規事業として取り組みます。ベトナムとタイの顧客からプノンペンに運びたいとの要望もありました」と語る。従来の輸出入重視型の物流から、5年後、10年後を見据えた、低温輸送のカンボジア国内流通展開も視野に入れての新規事業参入と言えよう。
陸路が重要輸送手段の一つとなっているのもカンボジアの特徴と言える。タイとベトナムという高人口な経済大国に挟まれた立地条件にあり、さらにチャイナプラスワンやタイプラスワンとしての進出も活発で、在タイ国内工場の第二工場をカンボジアに作り、タイから運んだ部品をカンボジアの安い賃金で組み立て、それをタイに戻して最終組み立てをして製品として輸出する動きも加速している。また、ベトナム国境近くにあるバベットの工業団地内で生産し、陸路2時間で行けるベトナムのホーチミンの港から輸出。ベトナムの工業団地とほぼ変わらない立地条件で、カンボジアの安い労働力を使い製造し、日本への輸送をする日系企業も増えてきている。鴻池運輸の高林氏は「カンボジア単体としてはいまだポテンシャルの段階で、他国と比べるとまだ市場は小さいのですが、各企業がベトナムやタイの隣国と組み合わせて物流を考えているというのが興味深いです。来年にはネアックルン橋の完成も予定されており、ASEAN経済統合も控え、南部経済回廊を活用した物流は今後も益々加速していくと予想しています」と語る。道路自体の拡張工事も進められており、整備が進めばさらなる時間短縮も期待される。
日本のODAにより建設中のネアックルン橋は、ホーチミン・プノンペン・バンコクを結ぶ南部経済回廊の一部である国道1号線上に位置する。現在、屋根無しの大型フェリーにて、車両だけでなく人や動物も一緒に移動するカンボジアらしい光景が見られるが、乗り込みに時間を要し、運行速度も遅い。現在、渡河にはフェリーの待ち時間を含め30分から1時間程度、繁忙期には数時間以上を要している。また、夜間はフェリーの運航がなく、渡河できなくなる。この橋梁の開通により渡河時間が5分程に短縮される見込みで、南部経済回廊を通じた物流や交通等も円滑になり、カンボジア国内のみならず、メコン地域全体の経済も期待される。
※期待が高まる建設中のネアックルン橋。2015年完成予定。
カンボジアのもう一つの大きな特徴としてドライポート※5 が挙げられる。「基本的にドライポートには、広大な土地、倉庫、税関機能があります。これはカンボジア特有のものだと思います。他の国であれば、どの土地にも倉庫を建てられますし、そこからの輸出が可能です。カンボジアではこの限りでなく、輸出をするためには二つの手段しかありません。一つ目は関税手続きを工場で行うこと、もうひとつはドライポートで行うことです。ヨーロッパなどで一般的にいわれるドライポートとカンボジアのドライポートでは考え方が違いますね。カンボジアにいる多くの方もこの勘違いをしていてます。カンボジアのドライポートは、輸出に関する一連の業務が可能な場所というような意味しかないんです。これがユニークなのは、5、6社のドライポート管理会社にその独占権があるという点です。つまり、すべての工場は製品を輸出するためには、どこかのドライポートを使うしかないんです。もちろん管理会社にとってはいいですが、競合を育てるという面ではよくない点ですよね」とトーマスインターナショナルのトーマス氏は語る。工場側でドライポートを経由せずに直接輸出手配できるような環境になる日も待たれる。
※カンボジアの大きな特徴の一つであるドライポート。(写真提供:PPSEZ)