【人材・コンサル】
基礎力が低いとされるカンボジア人労働者のスキルや専門的知識について、Aプラスのソー氏は「カンボジアでは、総人口の70%が労働人口にあたります。つまり、市場には900万人以上の人々がいるということになりますが、課題としては彼らにはスキルなどがないため職業訓練が必要となります。スキルワーカーがいないのです」と語る。
2012年、JICAが行った産業人材育成プログラムの準備調査によると、日系企業はカンボジア人技術者の採用に際し、ポテンシャルや即戦力を重視しており、主に品質管理や工程管理に従事させたいとの回答が多かった。
カンボジアの産業人材育成にかかる政策は、企業が必要とする能力の基準(CBS)により策定されることが望ましいが、職業訓練技術教育(TVET)の一角を担う公立職業訓練校は、高校3年生から大学レベルまでの教育訓練を実施しているものの、CBSによる訓練コースを描き切れていないなど、職業訓練の機能が不十分であると言える。職業訓練校で企業労働者として育成できるかどうかは今後の課題である。
また、若者の習得するスキルや専門的知識の選択は、必ずしも労働市場の要求を反映しておらず、高等教育を受けた者の中でも労働の需供にミスマッチが生じている。人材教育サービスを行う3Gエージェントのンガイ・メンリー氏は、「若者は大学卒業後、お金が必要なために熟考せずに就職しがちです。大学では基礎しか学んでいませんから、本当は就職の前にもう少し専門的に学んだ方が良いと考えています」と言っている。
安価な労働力が主な進出メリットであるカンボジアでは、そもそも高度なスキルや専門知識を有する労働者の需要は少ない。NEAのコイッ氏は「NEAに登録されている求人者と求職者のデータから見ると、市場でミスマッチが起こっているということが確認できます。というのも、求人では工場労働者などの低スキルワーカーの需要が多いのに対して、求職ではオフィスワークなどの供給が大きくなっているからです。ここに需要と供給のミスマッチが見て取れます」と言う。また、オフィスワークの人材についても、スキルや知識が企業の求める水準に満たない場合には、社内において人材育成・人材開発を検討することとなる。Aプラスのソー氏は「3%しか資格のある人材、よい労働者がいないのが課題です。彼らを訓練し資格を習得させたりする必要があります。海外の投資家にとってこれは問題で、彼らに研修をさせないと仕事にならないのです。カンボジアでは他のASEAN諸国の労働力と比べ、生産性は高くないということも理解しておくべきです」と言うが、社内での人材育成は長期で従事することを前提としているため、離職率が高いカンボジアにおいては頭が痛い問題の一つだ。
2015年末にASEAN経済共同体(AEC)が発足する予定だが、域内での労働者の移動は熟練労働者に限定することとされている。すでに、専門性の高い分野では外国人の技術や能力に頼らざるを得ない現状にあり、Aプラスのソー氏は「法律では、外国人の比率はカンボジア人の10%以下に抑えること、との記述がありますが、この点についてはさほど厳格ではないので、申請すれば労働省も認めています。と言うのも、カンボジアはエキスパートが少ないので外国からの投資が多く必要という事情が考慮されているからです」と言う。カンボジア人の仕事を奪われることを杞憂するほど、熟練労働者の数は多くはない。
今年の国際競争力レポートでは、カンボジアは144か国中95位と、昨年より順位を落とし、ASEANの中では最下位であるミャンマーの134位に次ぐ下位だ。AECが発足すれば、国と国の関係というだけでなく、人材一人一人の競争力にも関わってくるが、現実を見るとあまり明るいとは言えない。
3Gエージェントのンガイ・メンリー氏は、「カンボジア人はのんびりしているので、今のところASEAN統合はさほど影響ありません。いざその時が来ると、急激に活発になるのではないかと考えています。おそらくさまざまな分野での企業進出が増え、求人も増えると思いますが、それにともないスキルアップする必要が出てくるでしょう」と語った。スキルアップは一朝一夕にはいかないものだが、個々の労働者の危機感はあまり強く感じられない。例えば、仮にこれから語学学校に通ったところで就学中にAECが発足してしまうだろう。