――まずは自己紹介をお願いいたします。
久保 伸夫(以下、久保) サンインターナショナルクリニックの共同出資者の久保と申します。主となる専門分野は、耳鼻咽喉科、再生医療、核医学であり、大阪と東京でもクリニックを運営しております。5年程前に個人的にカンボジアに訪問し、その際にクリニックの開設を決意しました。しかし一度開設したものすぐに閉設となってしまい、その後ミャンマーへの進出を考えましたが許可が下りず、紆余曲折を経て2014年再びカンボジアにてクリニックを開設致しました。最終的にはASEAN全域への進出を目指しております。
――これまで幾度も困難があっても諦めずにチャレンジし続けられたんですね。なぜ海外でチャレンジしようと思ったんですか
久保 日本の医学研究や医療技術は世界最高水準なので、最先端でかつ費用対効果の点で海外でも通用する分野は内視鏡、再生医療、核医学、介護などです。患者に負担が少ない患者にとってやさしい治療が多く、高コストではありますが世界各国から導入を求められているんです。一方で、日本国内の医療は独自の公的健康保険制度に縛られていますけど、生産人口の減少、老人人口の増加、そして高コスト医療の普及もあって、財源面からは継続不可能な制度だと思います。また保険で認められた医療は世界最先端ですが、それ以外の治療は行われないといった矛盾があります。
――なるほど。日本の医療技術が海外で歓迎されるのは理解できますが、日本国内ではそのような矛盾もありますね
久保 はい。そこで、日本の医療の特徴である手厚い患者マインドに立った医療で、かつ費用対効果の面でも海外で通用する医療を確立するために日本の医師免許で医療が行えるカンボジアに進出しました。また2014年12月にカンボジアの医師免許を取得し、これは統合を控えるASEAN諸国への進出を考えた場合、非常に重要なものとなります。例えば、医療を国策としている隣国のタイですが、外国人医師への認可が非常に厳しいため日系企業はまだ進出できておらないんです。将来的にはタイへの進出も一つの目標です。
――ASEANの統合への流れは医療分野にも何らかの影響を与えそうですよね。先を予測して手を打つのはどんなビジネスにも共通していることだとは思いますが、医療分野も同じというわけですね。日本の医療を途上国で展開するという点について、いろいろと思うところはおありかと思いますが、いかがでしょうか。
久保 カンボジアの場合、富裕層ががんや重篤な疾患になると、最初はインドやタイ、シンガポールに行きますが、末期になれば行けなくなり、カンボジアでの在宅介護しかないんです。というのも、在宅での疼痛管理など非効率な医療が必要となるのですが、上場企業であり利潤追求第一のインドやタイ、シンガポールの巨大医療企業では行われないという現実もあります。例えば、認知症やうつ病治療でも同じことが言えるんです。
単純な短期利潤だけを求める海外の巨大医療産業にできない連立方程式を解きながら、おごらず、焦らず、あきらめず、内視鏡、幹細胞、核医学、介護などの競争力のある我が国の医療を輸出産業とし、保険制度のない海外でも通用するように費用対効果を見直すことで日本の医療を継続可能なものにしていきたいと思います。 (後編へ続く)(取材日/2015年9月)