カンボジアに進出する日系企業のための
B2Bガイドブック WEB版

特別レポート(2016/11発刊5号より)
隠れた“フィンテック先進国”カンボジア ~スマホ・携帯による送金額は国内総生産の半額規模にまで到達、急速に普及する金融×IT先端サービスの行く先は?~ (4/4)

 最近の経済・ビジネス系報道で聞かない日はない流行キーワード「フィンテック」。英語の「ファイナンス(金融)」と「テクノロジー(技術)」を組み合わせた米国発の造語であり、最新IT(情報技術)を活用した決済や運用などの新しい金融サービスを指す。世界最高峰の頭脳がしのぎを削り革新的サービスを次々と繰り出し続ける、いま最もヒトもカネも集まる華やかなその世界とは、一見なんら縁のないように見える後発新興国カンボジアで、実は「フィンテック」の萌芽はむしろ先進国を上回る速さで芽生え、一部の分野では既に大きく成長している。
 新興国なのにもかかわらず一気に普及するカンボジア版フィンテックの現状と、新興国だからこそ急速に浸透するその理由を追う。

(3/4からの続き)

イスラム圏の送金システム「ハワラ」

 銀行を通さない国際送金は従来「地下銀行」と呼ばれ、明確な犯罪行為または極めてそれに近い所業と見なされてきた。最たる例はイスラム圏で中世の時代から広く利用されている「ハワラ(Hawala)」という独特の送金システムだ。これはイスラム信仰を通じた人的信頼のみに基づく仲介人を通した現金の遠隔受け渡しの仕組みである。外国に出稼ぎに出た夫が、同じ外国に住む仲介人に稼いだお金を預ける。その在外仲介人が、本国の仲介人に連絡し、その本国仲介人が夫の家族に同額のお金を渡す。ただ同じイスラム教徒であるという信頼のみで取引が行われ、約束文書も記録も一切残らないのが特徴だ。

 古くから世界に散らばるイスラム社会の人々を支えた独特な金融システムであるが、先進国当局からの監視の目は厳しい。例えばテロや麻薬の犯罪資金が某国に巨額に存在し、正規なルートでは国外に出せない状況にあるとする。仮に同国の出稼ぎ労働者が先進国でお金を正規に稼ぎ、その先進国に潜む同犯罪組織にお金を預け、某本国の組織が犯罪資金からそのお金を故郷の家族に渡す、という流れを組んだ場合、某国内にたまった犯罪資金は先進国での正規な出稼ぎ労働対価を原資とした綺麗なマネーとして先進国に移転される事になる。このマネーロンダリングを有効に防ぐ手立ては現在確立されていない。

 上記の例は極端だとしても、従来はグレーもしくはブラックとされてきた「地下銀行」や「無認可金融」と実質的に同じ仕組みが「フィンテック」の御旗のもとに革新的な正規サービスとして急速に確立・普及しつつあり、新興国カンボジアも小さく目立たないながら立派にその舞台となっている。

 

後発新興国ならではのメリット

 レガシーコスト (Legacy Costs) という言葉がある。過去のしがらみから生じる負担(いわゆる負の遺産)を指し、狭義には企業が退職者に払い続ける年金や、往年の大規模旧型システム投資のおかげで最先端の柔軟なシステムになかなか移管できないことにより削減が難しいコストなどを指す。先進国で成熟しすぎた既成産業や既得権益層が、それらの存在価値を一瞬で壊滅させてしまうような革新的な新サービスの普及に対して「抵抗勢力化」することも、ある意味でのレガシーコストと捉えられるが、後発新興国のメリットはそれらの「抵抗勢力」が極めて無力もしくは皆無であることだ。

 固定電話網が整備される間もなく携帯・スマホが普及し、有線インターネット設備投資がほぼ行われないまま当たり前のように無線WiFiの世界に突入したカンボジア。そしてケニアのMpesaと同様に一気にGDPの半分の規模になるまで送金流通額を伸ばしたウィング。両国とも、国民にとって便利だから一気普及したのは当然である一方、それを邪魔する過去のしがらみがなかったこともその普及スピードに奏功したのは間違いない。

 

先進国を抜きん出る将来のカンボジア

 他の東南アジア諸国の中で特色あるカンボジアの魅力の一つは、機能通貨が実質的に米ドルベースであることだ。いまだ銀行決済の97%以上が米ドルで行われ、どんな地方の小型露店であってもでも米ドルが使え、外国人による米ドル銀行口座も現状まだまだ容易に開設することができる。 この「米ドル天国」の環境において、レガシーコストを気にせず一気に拡大する「フィンテック」サービスが融合すれば、カンボジアが東南アジア諸国の中でも抜きん出て「金融的に居心地が良い」活動拠点になる可能性は十分にある。

 現在具体化・普及しているのはまだ国内送金サービス止まりだが、その小回りが効く柔軟性とスピード感に関していえば、各種規制に縛られた先進国を大きく抜きん出ている。金融× ITで完結する斬新な新サービスもありえれば、既存オールドエコノミーと「フィンテック」が結びついてより革新的な進化を遂げるケースも十分考えられる。カンボジアに在住する筆者としては、当国がいつの日か、目立ちはしないがエッジの効いた「隠れフィンテック立国」として知る人ぞ知る通な存在となる将来に期待したい。



JC Groupはカンボジアを拠点とする日系事業グループです。
“Made by Japan & Cambodia”をテーマに、カンボジア現地での農業を主軸事業とし、それに物流,金融,ITを複合させた「カンボジア版日本型農協モデル」を事業展開しています。
http://jcgroup.asia/

  髙 虎男
Ko Honam

早稲田大学政経学部経済学科を卒業後、日本の大手監査法人、戦略コンサルティング兼ベンチャーキャピタル(一部上場企業 執行役員)を経て、2008年カンボジアにて日系事業グループ「JCグループ」を創業。公認会計士。


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