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2017年1月4日
カンボジア進出ガイド

【人材・コンサル】

158 カンボジアの人材・コンサル③(2016年11月発刊 ISSUE05より)

現地化を妨げる基礎力の低さ Obstacles to employing exclusively local staff

 意思決定の迅速化と現地市場の急変対応のため、進出企業の多くは調達の現地化、意思決定や実施方法の現地化を念頭に置いている。なかでも重要なのが人材の現地化だが、カンボジア人のマネジメント力の低さの要因として学校教育や職業教育が十分でないことが挙げられる。

 CDLの鳴海氏は、「多くの進出企業はあらゆる面で現地化を念頭におき、マネージャーや幹部候補などの役職にはカンボジア人を配置させる場合が多いです。そして将来はほぼすべての業務をカンボジア人だけでオペレーションするという理想を持っています。しかし人材面における現地化の妨げとして、カンボジア人材の社会人基礎力の低さが挙げられます。基礎力とは主に、考える力・行動する力・チームワークの三つです」と語っている。

 スイスのダボス年次総会で知られる国際機関である世界経済フォーラムが2016年9月に公表した国際競争力レポートでは、カンボジアでの事業に伴う主な阻害要因の一つとして、腐敗に次いで労働者の教育水準を挙げている。また、このレポートの教育に関係する詳細をみると、初等教育の質(110位)、中等・高等教育(124位)は過去のランキングと比較しても低迷したままであり、他のASEAN諸国と比較してもレベルが低く、ランキング対象外のミャンマーを除けば最低だ。隣国ラオスの初等教育ランキングは89位、ベトナムでは92位、タイは90位だった。



 「日本人の場合、義務教育などを通してある程度の基礎力が自然と身につくものですが、カンボジアの場合は初等・中等教育が他のASEAN諸国と比べてかなり遅れています。カンボジア人の多くは社会人基礎力の素養が身につかぬまま、大学等では英語などの語学学習に勤しむため、『話せるだけの人材』などと揶揄されることもあります」とCDLの鳴海氏は語る。

 依然として教育の質が及ぼす人材への影響が懸念される一方で、カンボジア政府の教育システム改善の動きに一定の結果が現れ始めている。2014年から全国公立高校卒業試験の監査が厳格化されて以降、2014年の合格者数は40%、2015年は56%、2016年には62%と、年々改善されている。カンボジアの教育システム改善には様々な根深い問題点を解決する必要があり、今後とも革新的な取り組みが求められる。

職業訓練の現状と課題 Current trends and issues of vocational training



 労働職業訓練省傘下のNEA(国家雇用機構)によると、2014年までに登録された求職者数は6万5千人に登るが、基礎力が低いとされるカンボジア人労働者のスキルや専門的知識について、NEAのホン・チユン氏は、「カンボジアは質の低い教育を受けた人たちが大勢います。しかし、例えばただ組み立て作業をするワーカーを雇いたいだけなら、スキルのない労働者は供給に余剰があります。必要なトレーニングは少しだけです。しかし中間層のスキルワーカーは供給が追い付いていません。特に中間層に対するスキルトレーニングの提供について政府が努力しています」と語った。日系企業はカンボジア人技術者の採用に際し、ポテンシャルや即戦力を重視しており、主に品質管理や工程管理に従事させたい想いがある。

 トップリクルートメントのブリテン氏は、「あらゆる分野のエンジニアが不足しており、よりクオリティが高く、より幅広いエンジニアスキル人材が必要です。生産工学, 機械工学, どの分野のエンジニアももっと必要です。構造的な問題でいえば、カンボジアにはエンジニアの学校がありません」と語る。

 カムHRの温氏は、「将来は、より技術職が求められると思います。すでに多数の外国企業がカンボジアに投資をしていますが、業況を見るとこれから益々、インフラの部分、高速道路等に投資をする人が増えるのではないでしょうか。市外の住宅地や商業施設を見ても、市内と市外を結ぶ動きは今後2-3年で更に加速するでしょう。そうなった場合、建設部門の技術者需要は拡大しますよね」と話す。

 カンボジアの産業人材育成にかかる政策は、企業が必要とする能力の基準(CBS)により策定されることが望ましいが、職業訓練技術教育(TVET)の一角を担う公立職業訓練校は、高校3年生から大学レベルまでの教育訓練を実施しているものの、CBSによる訓練コースを描き切れていないなど、職業訓練の機能が不十分であると言える。このような現状や課題に対応するため、JICAは産業界のニーズに応える電気分野の標準訓練パッケージの開発等を行っているが、産業構造の多様化や高付加価値に対応できる人材を職業訓練校で育成できるかどうかは今後の課題である。

定着促進と人材育成 Human resources development

 スキルや知識が企業の求める水準に満たない場合には、社内において人材育成・人材開発を検討することとなる。人材育成に多額の投資をする欧米系企業もある中で、日系企業がこれまでOJTが中心であった理由は、育成しても直ぐに辞めてしまうことが要因の一つだ。

 また、CJCCの伴氏は、「国全体の経済発展に乗り、順調にビジネスが拡大するのに、多くの中小企業で組織作りが追い付いていません。特に中間管理職が育たず、トップだけが優秀という感じです。

 次の人を育てられないと、その企業は大きくなれません。ビジネスが発展すればするほど企業経営者は体がいくつあっても足りない状態になります。そうならないように、組織として事業が回る、組織として人も育つという形にもっていく必要があります。よく3年持たない企業がたくさんあると言うように、3年後、5年後あたりで組織化の壁が出てきます。人数でいうと、30人を超えるサイズになると企業は組織的な経営に移行しないとその先の発展はありません」と中間管理職の育成について語った。


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