カンボジアに進出する日系企業のための
B2Bガイドブック WEB版

2017年1月4日
カンボジア進出ガイド

【法務・会計】

142 カンボジアの法律・税務・会計①(2016年11月発刊 ISSUE05より)

法律の整備と運用 Legal developments & application of existing laws

 日系企業を始め諸外国からのカンボジア進出企業がまず直面する法律面での課題や悩みの多くは、会社情報に関する登記を行うカンボジア商業省との対応、およびカンボジア経済財政省管轄の税務総局および各地域税務署との納税申告に関する対応の2つに集約されている。

 日本は1999年からODAの一環である技術協力として裁判官・弁護士・司法書士などの法律専門家をJICAを通じて派遣し、カンボジアの民法・民事訴訟法を始めとする民事関連法令の起草・成立を支援している。従来はこのような外国からの支援に頼りきりであったカンボジアの法整備状況であったが、昨今はカンボジア当局独自の改正が頻繁に行われている。

 2015年から2016年前半にかけての大きな変化は、関連省庁における企業情報登録の電子化の流れと言える。2015年にカンボジア経済財政省管轄の税務登記が電子登録システムに移行し、2016年にはカンボジア商業省における会社情報登記の電子システム化が実施された。しかし関連当局が想定しているようなスムーズな移行が行われているとは言い難い状況となっているようだ。



 日系企業からの案件を多く扱っているマー&アソシエイツの村上暢昭氏は、「電子登録化には、直接省庁職員と顔を合わせないで済むことによる賄賂廃絶の効果や、各手続きの進行がスムーズになるなど、本来はいくつかのメリットが考えられます。しかし、システムの利用が開始されたばかりであるため、担当職員がシステムを十分に理解できているとはいい難い状態です。そのような状況下で、商業省には、カンボジア中の会社からの新システムへの移行手続申請が集まってきているというのが現状です」と話す。

 また、電子登録システムの問題点として同氏は、「システムの管理は極少人数に限られていると聞いています。ですので、システムの内容にエラーがある場合であっても、これを修正したい場合はその管理者を経なければならないことから、これによって手続きが進行しないという事態が懸念されます。また、本システムに関する手続きは、輸入関税手続きなど様々な行政手続に関連しうるものですので、手続きが成熟し安定するまでは、投資家のビジネスにも影響が少なからずあるものと思われます。もっとも、このようなシステムも、省庁内でのトライ&エラーを繰り返すことで少しずつ安定していくものと思われます」と付け加えた。

会計事務所 Accounting firms

 カンボジアには、KPMG、PWC、Ernst&Young等の国際的な大手会計事務所のほか、日系会計事務所等が存在し、税務申告、記帳代行、登記関係業務等のサービスを提供している。大手会計事務所にも日本人公認会計士が常駐し、日系進出企業にとってアドバイスが受けやすい環境が整いつつある。JETROプノンペンのコーディネーターを兼務するKPMGのマネージャー、田村陽一氏は、「カンボジアでは源泉徴収税や付加給付税(FBT:Fringe Benefit Tax)、ミニマム税(最低税)といった日本では一般的でない税金がかかります。信頼できる専門家のサポートがなければ、税金の仕組みを理解し税務リスクを十分に低減するのは簡単ではないでしょう」と述べている。会計事務所の中には、日本語スタッフが定期的に顧客を訪問し、記帳代行やトレーニングを行うといったきめ細かなサービスを用意しているところもある。



 ベトナム・カンボジアのビジネスに精通した会計事務所系コンサルティングファーム、アイ・グローカルの本庄谷由紀氏は、「日本から進出される場合で一番驚かれるのが、最低税制度だと思います。単純化してご説明すると、カンボジアの法人税率は20%ですが、収益の1%と比較して高いほうを納税すると定められているため、赤字であっても少なくとも収益の1%を納税しなければなりません。またカンボジアでは、個人所得税に該当する給与税のほかに、付加給付税という諸手当を課税対象とした税金があります」と話す。

申告手続 Tax Declaration

 カンボジアの税務申告業務は近隣他国に比べて煩雑であるのが特徴だ。毎月、月次ベースでの税務申告書類の作成・提出が義務化されており、また年間の法人税額が確定する前段階で毎月納付すべき税金もある。

 日本国内最大規模の税理士法人のカンボジア法人である辻・本郷税理士法人の坂本征大氏は、「申告制度の未整備による課税リスクがあります。源泉徴収税は規定の税率を差し引いて残りをサービス提供側に支払い、納税する税金になります。一方で、サービス提供側は差し引かれた税金が年次申告の際に法人税と相殺されますので、源泉税はサービス提供側にとって収益を圧迫する税金にはなりません。ただ実務上、トゥクトゥクや個人業者等のサービス提供側が実態に基づいて申告、納税していることはないためサービス料から源泉することは難しくなります。そのため本来はサービス提供者側が負担しなければならない源泉税が、全て消費者側の負担となってしまいます。納税義務そのものはサービスを受ける側にあるため、消費者側が税務上不利な状況にならざるを得ないことが申告制度の未整備なカンボジアの現状です」と語った。

 また、付加価値税(VAT)の支払と源泉徴収義務との兼ね合いも複雑だ。支払ったVATを申告するにはVATインボイス(VAT登録者からの規定フォーマットに基づくインボイス)が必要とされ、それがない場合は源泉税を追加で課税されるケースもある。辻・本郷税理士法人のダイレクター、菊島陽子氏は、「税法上はVAT非登録者である個人等から受けた役務提供の対価に対して15%の源泉徴収義務とありますが、サービス提供側がVAT登録者であるにもかかわらず、VATインボイスが未発行の場合、源泉税を求められることになります。この点については源泉徴収不要な要件としてVATインボイスが備わっていなければ認められないとする明確な規定はなく、税法上は「個人への支払は15%」とされておりますので、サービス提供側が法人である場合、個人でないことは請求書の内容からも明確なため、源泉徴収の義務はないと考えられます。一方サービス提供側が法人であることを主張する場合、正しい証拠書類を用意する必要があり、この場合VATインボイスがあたります。無い場合は法人という証明ができない、即ち個人と看做され、源泉徴収の義務が発生することになります。そのためVATインボイスが備わっていない場合、消費者側はVATの税額控除が認められないだけではなく、源泉税も納めざるを得なくなり、おまけに経費計上できずに法人税計算上も不利になるという税務上のリスクを負うことになります」と話す。

 煩雑であると共に制度自体にも未整備な点も多く、進出企業にとってはリスク要因ともなるようだ。カンボジアの税務の問題点については対応が難しい部分があり、正しい知識を持った専門家に意見を聞くことが大事になるだろう。


その他の「法務・会計」の進出ガイド

法務・税務・会計
法務・税務・会計
法務・税務・会計