カンボジアに進出する日系企業のための
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2015年11月9日
カンボジア進出ガイド

【人材・コンサル】

085 カンボジアのHR・コンサル③(2015年10月発刊 ISSUE03より)

現地化を妨げる基礎力の低さ Obstacles to employing exclusively local staff

084 カンボジアのHR・コンサル②から続き
 意思決定の迅速化と現地市場の急変対応のため、進出企業の多くは調達の現地化、意思決定や実施方法の現地化を念頭に置いている。なかでも重要なのが人材の現地化だが、カンボジア人のマネジメント力の低さの要因として学校教育や職業教育が十分でないことが挙げられる。

 CDLの鳴海氏は、「多くの進出企業はあらゆる面で現地化を念頭におき、マネージャーや幹部候補などの役職にはカンボジア人を配置させる場合が多いです。そして将来はほぼすべての業務をカンボジア人だけでオペレーションするという理想を持っています。しかし人材面における現地化の妨げとして、カンボジア人材の社会人基礎力の低さが挙げられます。基礎力とは主に、考える力・行動する力・チームワークの三つです」と語っている。

 スイスのダボス年次総会で知られる国際機関である世界経済フォーラムが、2015年公表した国際競争力レポートでは、カンボジアでの事業に伴う主な阻害要因の一つとして、労働者の教育水準を挙げている。また、このレポートの人材に関係する詳細をみると、昨年の得点が高かった「労働市場の効率性」は、賃金決定の柔軟性や、賃金・生産性の点で評価を下げたため、29位から38位に後退した。また、他の東南アジアの後発開発途上国と同様に、初等教育の質(114位)、中等・高等教育(118位)は低迷したままであり、教育の質が及ぼす人材への影響が懸念される。

 「日本人の場合、義務教育などを通してある程度の基礎力が自然と身につくものですが、カンボジアの場合は初等・中等教育が他のASEAN諸国と比べてかなり遅れています。カンボジア人の多くは社会人基礎力の素養が身につかぬまま、大学等では英語などの語学学習に勤しむため、「話せるだけの人材」などと揶揄されることもあります」とCDLの鳴海氏は語る。



 2015年の全国公立高校の卒業試験の合格者割合は56%と、試験の厳格化を始めた前年の40%と比較し一応は伸びた結果だが低水準のままだ。例年は8割以上が合格する試験だったが、前年から政府が教師や生徒の不正を厳しく取り締まっている。労働職業訓練省傘下のNEA(国家雇用機構)のコイッ・ソミエン氏も、「周辺国と比べ、労働力が安価であることなどが特徴ですが、欠点の一つとして、労働者の教育レベルが低いです」と語っている。

職業訓練の現状と課題 Current trends and issues of vocational training

 NEAによると、2014年までに登録された求職者数は6万5千人に登る。基礎力が低いとされるカンボジア人労働者のスキルや専門的知識について、NEAのコイッ氏は、「田舎から出てきて本当に仕事を探している人を対象に支援していますが、きちんとした教育を受けておらずスキルのない求職者がほとんどです。面接で合格する確率はかなり低いです」と言う。

 また、Aプラスのソー氏も、「カンボジアでは、総人口の70%が労働人口にあたります。つまり、市場には900万人以上の人々がいるということになりますが、課題としては彼らにはスキルなどがないため職業訓練が必要となります。スキルワーカーがいないのです」と語る。

 2012年、JICAが行った産業人材育成プログラムの準備調査によると、日系企業はカンボジア人技術者の採用に際し、ポテンシャルや即戦力を重視しており、主に品質管理や工程管理に従事させたいとの回答が多かった。

 カンボジアの産業人材育成にかかる政策は、企業が必要とする能力の基準(CBS)により策定されることが望ましいが、職業訓練技術教育(TVET)の一角を担う公立職業訓練校は、高校3年生から大学レベルまでの教育訓練を実施しているものの、CBSによる訓練コースを描き切れていないなど、職業訓練の機能が不十分であると言える。このような現状や課題に対応するため、JICAは産業界のニーズに応える電気分野の標準訓練パッケージの開発等を行っているが、産業構造の多様化や高付加価値に対応できる人材を職業訓練校で育成できるかどうかは今後の課題である。 

 Aプラスのソー氏は、「3%しか資格のある人材、よい労働者がいないのが課題です。彼らを訓練し資格を習得させたりする必要があります。海外の投資家にとってこれは問題で、彼らに研修をさせないと仕事にならないのです。カンボジアでは他のASEAN諸国の労働力と比べ、生産性は高くないということも理解しておくべきです」と言う。

定着促進と人材育成 Human resources development

 スキルや知識が企業の求める水準に満たない場合には、社内において人材育成・人材開発を検討することとなる。人材育成に多額の投資をする欧米系企業もある中で、日系企業がこれまでOJTが中心であった理由は、育成しても直ぐに辞めてしまうことが要因の一つだ。

 HRインクのダミーコ氏は、「難しい面は様々ありますが、一番の悩みは仕事が長続きしないこと、給料の提示次第ですぐ他へ移ることです。企業は人材が飽きないよう様々な努力が必要ですし、人材育成の手段が社内にあるかないかでずいぶん変わると思います」と語り、CDLの鳴海氏は、「外国人労働者に頼らず現地スタッフの育成に原点回帰しても今までと同じOJTでは結果は変わらないです。どんなことをやっても一定の離職者が出てしまうことは摂理として受け留め、成長を自覚できる良質な訓練を企業が提供して社員の定着率を向上していくほかに現地化の道は無いでしょう」と語った。

 また、Aプラスのキナール氏は、「多くの会社が従業員のモチヴェーション維持と生産性の向上の為の教育に力を入れ始めています。これはスタッフに長く働いてもらう為のモチベーションに関連しますが、雇用者は自身の経験だけにとらわれず、専門家の意見に耳を傾けることが大事だと思います。スタッフ教育とスタッフにキャリアを示すこととも大事です。これによってスタッフの企業文化に対する理解が深まり、生産性が高まるでしょう」とアドバイスした。




 2004年から企業向けの人材育成プログラムを提供するAAAカンボジアのスザンナ・コーグラン氏は、「人材開発プログラムを導入している企業は一定の規模に成長したところが多いです。一定の規模になると人材がカギになってくるのでそこに投資をするようになります。企業のバックグラウンドも様々な国がありますね、近年はカンボジア系の企業の人材開発意識も高まっています」と語り、特に進出する企業に対してのアドバイスとして、「人材に時間とお金をかけること。たいていの方は会社を作り上げるのに急いでいることが多いです。目標達成にはそれも必要かもしれませんが、必要な人材を育て上げるには時間もかかります。技術職でない場合は、経験やスキルよりも仕事に対する態度ややる気が重要だと思います。カスタマーサービスや販売職の場合は、その仕事のコンセプトを理解してもらうことに時間をかけるべきです」と語った。

 また、CDLの鳴海氏は「日系企業特有の挨拶や礼節等の研修は文化的側面が強く社風を左右するため外部委託はできる限りしない方が良く、必要なのは会社の収益に直結する専門的・実践的な訓練で、特にプレーヤーからマネージャーへ育成する養成訓練です。1回やったからといって習得できるものではなく、年間を通じて定期的・計画的に実施すべきです」と言う。



 民間企業や政府機関などで長年の経験があり、カンボジア人講師が多数在籍するMRTSのコーン・チュー氏は、「企業から報酬を頂戴する以上は、個人の訓練に留まらず、企業に恩恵がなければなりませんから、人材のスキルの向上によるアウトプットが企業の利益に繋がらなければなりません」と語る。同氏は、「私たちはセールス、マーケティング、リサーチの3点に特化していますが、特に全ての企業の収益を牽引する主たる要素はセールススキルです。セールススキルが無ければ企業の商品やサービスは市場で受け入れられませんし、営業部門とは無関係な職種であろうとも、日々の業務に営業的要素はたくさん存在します。したがって企業のセールススキルを支援するのは大変重要なことです」と語る。

  CDLの鳴海氏は、「社会人的基礎力はマネジメント能力と切り離せない関係にあり、例えばリサーチ能力、情報をシェアするスキルやセールスマーケティングなど、さまざまな訓練を通じて基礎力のベースアップを図る必要」としている。
086 カンボジアのマーケティング・メディア①へ続く


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