【人材・コンサル】
日本語人材の給与相場は、30歳以下、プノンペン在住者の希望月給で、日常会話レベルで341.1ドル、ビジネス会話レベルで月給568.2ドルだ(CDL公表数値)。しかし、最終月給では日常会話レベルで339.0ドル、ビジネス会話レベルで555.9ドルであった。このことからも、カンボジア人は希望給与額を現職給与額より下に設定することが無いことを裏付けていると言える。また、この数値は日本語と英語以外の言語が話せる客体は除外しているため、中国語やタイ語などの第3言語の能力を有する人材であれば、さらに高額になることが予想される。
CDLの分析によれば、日本語人材の英語能力が日常会話レベルの場合とビジネス会話レベルの場合とでは、月給額に大差はなかったとしている。つまり、日本語人材の月給額を決定している主な要素は、あくまで日本語能力であると言える。日本語人材は就業未経験でも200ドル以下で採用することは極めて難しい。
なお、前述のJETROの実態調査によると、月給は非製造業の一般職で332ドルであった。また、同じくJETROが発表するアジア・オセアニア主要都市・地域の投資関連コスト比較(2014年5月)によると、ローカル企業の店舗スタッフはアパレルで80~150ドル、飲食店で80~120ドルであった。このことからも、日系企業で働く人材には日本語人材が含まれるため、スタッフの平均月給はローカル企業より高くなったと考えられる。
ローカルの日本語人材は、供給不足から英語人材と比較して賃金に倍の開きがあるといわれており、例えば、英語人材なら日常会話レベルで150ドル~、ビジネス会話レベルで250ドル~だ。日本語人材の給与の高止まりを背景に日本語の学習熱は高まっているが、労働市場に供給されるには1、2年先となるため、いびつな需給バランスはしばらく続くだろう。
一方、サービス業の現地採用日本人の給与相場は500~1,000ドル。ただし、職場が郊外だったり特殊な技能があれば1,500ドル以上になる。前述のJETROの実態調査によると、平均月給はマネージャークラスで1,184ドルとなっている。物価の安さを反映して、日本と比較して格段に安く日本人を雇用できる点は魅力的だが、英語能力が不足している場合も多いため、サポートのために日本語人材を併せて雇用する必要が生じることを留意しなければならない。
また、現地採用の日本人は、カンボジア人ほどではないものの離職率は高い傾向がある。CDLの鳴海氏は、「カンボジアで働くことを希望する日本人には、日本では得られない経験に魅力を感じて来られる若年層と、日本での活躍の場を失った技術者に大きく分けられます。前者の場合、経験と賃金がバーターの関係にあるため、希望給与額は低い傾向がありますが、比較的短い期間に倦怠期が到来し、当初の来訪目的を見失う場合があるようです。このような現地採用日本人に対するコーチングも今後は求められるでしょう」と言う。
求人方法にはラジオ、新聞、フェイスブックや求人サイトの利用、知人やスタッフからの紹介などの方法がある。
カンボジアで最大のプレビュー数を誇る求人サイト「カムHR(CAMHR)」では、求人情報の掲載だけでなく、データベースにアクセスして求職者データを閲覧することができ、求職者は直接応募することも可能。また、今年から隔月間の求人情報誌「ジョブジョブマガジン」も創刊されている。新聞にはクメール語以外にもさまざまな言語のものがあり、中国語人材を求めるなら中国語の新聞で求人するなどの使い分けも可能だ。求人の規模や予算により、ウェブサイトや求人情報誌での求人活動も検討したい。
スタッフの募集に際し、時間的な余裕がある場合には、市内で開催される就職説明会に有料で参加することもできる。やや郊外に位置するCJCC(カンボジア日本人材開発センター)では、定期的に日本企業向けの就職説明会を開催している。CJCCとは、JICAの協力により設立され、民間セクター開発を促進するための人材育成と情報交流の拠点となっている施設だ。就職説明会に参加を希望する場合には事前にCJCCへ所定の申込手続きと参加費の支払いをする必要がある。
また、募集や面接の作業には多大な労力と時間的コストを費やすため、人材紹介会社にアウトソースすることも有効だ。報酬は採用した人材の月給の2か月分。採用が決定して初めて課金される成果報酬制が主流で、紹介された人材が早期退職した場合は、手数料の返還や代替候補者の紹介などの保障がある。「人材紹介会社を利用するメリットとして、突発的な採用業務による平常業務の停滞防止や、不適合者の登用がもたらす人的リスクの排除などが挙げられます」とCDL鳴海氏は語っている。
意思決定の迅速化と現地市場の急変対応のため、進出企業の多くは調達の現地化、意思決定や実施方法の現地化を念頭に置いている。なかでも重要なのが人材の現地化だが、カンボジア人のマネジメント力の低さの要因として学校教育や職業教育が十分でないことが挙げられる。
CDLの鳴海氏は「多くの進出企業はあらゆる面で現地化を念頭におき、マネージャーや幹部候補などの役職にはカンボジア人を配置させる場合が多いです。そして将来はほぼすべての業務をカンボジア人だけでオペレーションするという理想を持っています。しかし人材面における現地化の妨げとして、カンボジア人材の社会人基礎力の低さが挙げられます。基礎力とは主に、考える力・行動する力・チームワークの三つです」と語っている。
スイスのダボス年次総会で知られる国際機関である世界経済フォーラムが、今年公表した国際競争力レポートでは、カンボジアでの事業に伴う主な阻害要因の一つとして、労働者の教育水準を挙げている。また、このレポートの人材に関係する詳細をみると、昨年の得点が高かった「労働市場の効率性」は、労働者と雇用者の協力関係や、雇用と解雇の柔軟性の点で評価を下げたため、27位から72位に後退した。また、他の東南アジアの後発開発途上国と同様に、初等教育の質(113位)、中等・高等教育(123位)は低迷したままであり、教育の質が及ぼす人材への影響が懸念される。
「日本人の場合、義務教育などを通してある程度の基礎力が自然と身につくものですが、カンボジアの場合は初等・中等教育が他のASEAN諸国と比べてかなり遅れています。カンボジア人の多くは社会人基礎力の素養が身につかぬまま、大学等では英語などの語学学習に勤しむため、「話せるだけの人材」などと揶揄されることもあります」とCDLの鳴海氏は語る。
教育や文化の発展などを目的に国際連合の専門機関として設立されたユネスコの統計によれば、政府支出に占める公的教育費割合は、カンボジアが12.4%と直近数値でASEAN中最下位だ。
また、教師一人当たりの生徒数は47.3人、初等教育での脱落率は34%であるなど、教育の質の指標となる数値のいくつかはASEAN中で最下位である。労働職業訓練省傘下のNEA(国家雇用機構)のコイッ・ソミエン氏も、「周辺国と比べ、労働力が安価であることなどが特徴ですが、欠点の一つとして、労働者の教育レベルが低いです」と語っている。