【人材・コンサル】
多くの経営者はカンボジア人に対する共通した感想を持っている。エグゼクティブクラスに特化したフランス系人材紹介会社、セイント・ブランカット&アソシエイツのオーモリー・デ・セイント・ブランカット氏は、カンボジア人の特徴として、「フレンドリーで勤勉、環境が気に入れば効率も上がり、成長も早いです。問題はスキルです。学校教育や職業教育が十分でなく、国際的な企業で働いた経験が少ないため、国際標準的な働き方に慣れていないといった問題もあります。また、良い点として、英語力の高さがあります。英語をとても良く喋れる方が多いです」と語っている。彼らは礼儀正しく、上司に対する進言などは少ない。だからこそスタッフとよく話すようにするのが良いだろう。彼らは自ら話さないだけで仕事に対して想いやアイディアを持っており、それを引き出すことはとても有用である。
また、カンボジア人の多くは家族や親戚、友人らと共同生活をしており、一人暮らしは稀だ。理由として生活費の節約が挙げられるが、むしろ精神的な支え合いに重点を置いている傾向が強い。親の進言で採用を辞退したり、職務より個人的な用事を優先するなど、親からの過剰な干渉や強い依存関係に起因した行動が会社運営にも影響を与えるため留意が必要だ。
カンボジア人は帰属意識は低い反面、独立意識が強い。その背景として、主な働き先であるローカル系企業での極端な同族経営が挙げられる。なぜなら、このような会社で働く従業員は、努力しても昇進・昇給が難しいからだ。フリーランスで副業をする者もおり、顧客情報や技術・知識の流用が懸念される。就業規則や誓約書により同業他社への転職等を抑止する企業もある。
また、「彼らは希望給与額を現職給与額より下に設定することはほとんどありません。転職が賃金アップの有力手段であると安直に考えている向きがある。成果を出せば昇進・昇給できるというロールモデルを社内で構築できれば、人材の流出を防ぎ、従業員は業務に集中することができます」と、日系の大手人材紹介会社クリエイティブ・ダイアモンド・リンクス(CDL)の鳴海貴紀氏は言う。
「彼らのことをよく知り、尊重し、彼らが働きやすい職場を作ることが何よりも重要です。カンボジアの人々にとって働きやすい職場とは、雰囲気のいい和気あいあいとした職場です。規律を作って正そうとするだけでなく、雰囲気をつくること、関係性をつくることが必要なのです。簡単なことではないが、とても重要なことです」とセイント・ブランカットのブランカット氏は言う。
また、2008年から人材開発や労務コンサルタントを行うローカル人材会社、Aプラスのソー・キナール氏も、「カンボジアの文化への理解を深めてほしいと思っています。日本人は深夜でも本当によく働きますが、カンボジアの文化では家族が第一で、仕事と家族と過ごす時間のバランスをうまく保っているので、日本人のように仕事一筋という訳にはいきません」と語っている。
カンボジアは祝祭日が年間27~28日程度とASEAN諸国の中では最多である。プノンペン市民には地方出身者が多く、盆や正月などの連休には帰郷することが多い。できるだけ多くの時間を故郷で過ごすため、連休の前後に移動日として更に休暇を要求する一方で、会社の方針を尊重し、従業員間で休暇を調整するといった行動はまれである。そのため、飲食店などは休業せざるを得ない場合もある。
労働法では、労働時間は1日8時間、週48時間と定めている。残業は通常賃金の50%増しで、午後10時~午前5時までや休日は100%増し。有給休暇は1か月につき1.5日(年間18日)と定めている。
2013年12月、労働諮問委員会は縫製・製靴業の工場労働者の今後5年間の月額最低賃金を毎年引き上げると発表。本年4月1日から毎年適用される。最低賃金の引き上げにともない、残業代や休日出勤手当にも影響が出ている。
なお、JETRO海外調査部が発表した在アジア・オセアニア日系企業活動実態調査(2013年度調査)によると、月給は作業員で101ドル、エンジニア(中堅技術者)で315ドル、中間管理職(課長クラス)で694ドルであった。なお、CDLの調査によれば、中華系・欧米系企業も網羅した結果、エンジニアは338ドル、中間管理職は623ドルであった。統計が相違する点は留意する必要があるが、中間管理職の場合、日系企業は他の国籍企業よりも高い賃金で雇用していると思われる。