2018年1月24日
――カンボジアにおける会計制度や税制度の現状について、教えてください。また、その中で注目している新たな動きがあれば、教えてください。
菊島 陽子(以下、菊島) 最近の税務関連のトピックですと、二重課税防止のための租税条約締結が進んでいることが挙げられます。2016年にシンガポールと中国、2017年にはブルネイと締結しました。いずれもまだ発効されていないため締結内容は有効ではないものの、更にタイや韓国とも締結に向けて動いていると聞いています。租税条約が有効になると、カンボジアに進出している外資企業にとって税務上で大きなメリットが出てきます。日本との租税条約に関する協議はまだ進められていませんが、官民合同会議で租税条約のための協議開始が取り上げられていることから今後の動きが期待されます。
――会計・税務に関して、カンボジアで活動する企業が直面する問題は何ですか。
福田 せり(以下、福田) 源泉徴収税の納税額が高いことです。本来、サービス提供する側が源泉徴収税の負担者になります。しかし、カンボジアでは実務上、支払者が負担することがほとんどです。例えば、従業員の住宅について法人契約している場合、家賃に対して10%の源泉徴収税額を納めなければなりません。一方で、従業員に対して給与以外の経済的利益を提供した場合は、その経済的利益相当額に対して20%課税されます。当該従業員への家賃補助がこれに当たります。つまり、合計で家賃に対して30%課税されることになります。
また、税金は税務上、経費にはなりません。
――今後進出してくる日本企業が注意すべき点を教えてください。
福田 キャッシュフローを試算される際は、源泉徴収税のキャッシュアウトを反映しなければ、予算が大きく異なる可能性があります。
――カンボジアにおける会計人材の育成に際して、問題点や貴社が行っている取り組みがあれば教えてください。
菊島 弊社では会計税務の実務についてはOJTによりトレーニングをしています。アシスタントマネージャーやシニアアソシエイトが、入社したスタッフを直接指導します。カンボジア人はとても素直な人が多いので、特に他社で実務経験が無い人ほど会計や税務の実務の吸収が早く、また定着率も高いと感じています。
更に、会計税務人材と言っても定期的にお客様と接する機会が多いため、しっかり挨拶すること、円滑なコミュニケーション力をつけてもらうことも重要と考えています。それらの分野については外部の研修サービスを利用して人材育成に努めています。
――カンボジアにおける会計・税務業界への展望をどうお考えですか。また会計・税務業界の発展には、何が求められると考えますか。
菊島 税務調査における税務局員との対応において、従前は彼らが持つ税務の知識がまだまだ未熟であるため、彼らの指摘は税法に適っていない的外れな場合が殆どであり、彼らに対して税法を一つ一つ説明し指摘事項を減らしていかなければならないといったケースが多くありました。しかし最近は税務局員側も経験値が増えており、指摘事項が解釈の相違によるもの又は税法に規定されている細かい内容を指摘してくることが増えてきています。折衝において専門知識や経験値が益々必要になってきていると感じています。今後は更に高い専門性を持った折衝力のある会計事務所が求められるようになると考えます。
――貴社はどのような役割を担っていきたいですか?
菊島 弊社は2011年にカンボジアへ進出し、日系の会計事務所・税理士法人の中では比較的長く当地で事業を行っております。実績、経験は充分にありますが、税務局の税務に対する考え方や解釈が年々変わってきており、以前は課税対象外と考えられていた項目にも税務調査等で課税扱いと判断されることが多々あります。今まで以上に社内の経験値を高め、クライアント様の課税リスクを可能な限り低減し、日系企業が当地で長期に渡り円滑にビジネスができるようお手伝いできればと思います。
また、カンボジアにおける会計事務所の役割の一つとして、カンボジアでビジネスを行っていらっしゃる方々が本業に注力できるようお手伝いをすることだと思っています。現地責任者として当地に赴任される方は、本業については熟知されていらっしゃいますが、会計税務分野に関わった経験があまりないということが少なくありません。本業のビジネスに集中できるよう、会計税務分野を安心して任せられる存在でありたいと思います。
――最後に読者に対してメッセージをお願いします。
福田 もちろん、カンボジアの税制にはプラス面もあります。その1つは法人税率の低さです。日本の場合は現在、企業の規模により変動しますが、法人税の実効税率は約30~34%です。カンボジアの法人税率は一律20%と最大14%も低いです。カンボジアへ進出をお考えの企業様にぜひ知っていただき、一緒にカンボジアの経済を盛り上げていければ幸いです。(取材日:2017年8月)