2018年1月11日
(前回の続き)――カンボジアにおける人事労務に関して、海外企業が気を付けるべき点を教えてください。
澤柳 匠(以下、澤柳) カンボジアではよく「労働生産性」が話題に上がります。カンボジア人の労働生産性を上げるための創意工夫は、企業が最も注力している仕事の一つと言えるでしょう。生産性とは、一定のインプットを使ってどれだけ大きなアウトプットを得られるかを示す指標のことです。(アウトプット÷インプットで表されます。)労働生産性とは、投入した労働時間や給与といったインプットがどれだけ利益などのアウトプットを生み出しているかを示します。
一般的にこの労働生産性という指標は、産業や企業の事業内容によって大きなばらつきがあります。しかし、市場平均よりも高い労働生産性を持つ企業では、実は人事制度に面白い共通点がありました。
それは「インプットのインプット」にお金をかけている、ということです。これではわからないと思うので、工場の具体例を使って説明します。
工場にとってのインプットは基本的に人、つまり技能職としての工場労働者が中心となります。一方でそのアウトプットは製品の生産数量や売上となります。ここでのインプットのインプットとは、工場労働者(インプット)自身が身につける現場での知識や技術、ノウハウなど(インプット)を指します。労働生産性の高い工場ほど、こうした工場労働者を育成することに手当や報奨金などを支給し、彼らが自らの意思でインプットすることにお金をかけています。
一方、労働生産性の低い工場ほどお金をかける場所はアウトプットになります。つまり製品1つ作ったらいくらといった成果報酬や年末の決算賞与などに力を入れていることが多いです。
なぜこうも差が出るのかはよく検証する必要がありますが、私の見解としては、工場労働者自身がそもそもどうすれば生産性を上げられるかわかっていないので、会社が報奨金などの形でどうしたら生産性が上がるのか、仕事がもっと上手にできるかの答えを導いてあげることが結果的に成果に繋がっているのだと思います。
カンボジアでは、会社の従業員となって仕事をするということ自体、つい最近から始まったライフスタイルなのです。そのような右も左もわからないカンボジア人にとって、お金をあげるからとにかく指示した通りに頑張れ、というよりも、仕事を上手に行うためにサポートするから頑張って、と言ってあげる方が簡単なのでしょう。
――カンボジアの、会計人材の育成に際して、問題点や貴社が行っている取り組みがあれば教えてください。
澤柳 カンボジアの会計人材に限る訳ではありませんが、会計の仕事以外やりたくないという人材が多いように感じます。
私の責任範囲はここまでだから、それ以外のことは私に頼まないでください、という姿勢の会計スタッフは、一概に成長が一定のレベルで止まってしまいます。自分の限界を自ら設定してしまうと、他のことを学ぶチャンスを逃してしまうのです。成長スピードの速いスタッフは、好奇心旺盛です。なんでも興味があり、自分の役職に関係なく熱心に与えられた仕事に取り組みます。
会計の仕事では、幅広い企業の情報を扱います。会計は企業の情報が集まる場所です。そのような幅広い情報を一つの財務諸表という形にまとめるのが本来の会計スタッフの仕事です。そういった幅広い情報を積極的に取りに行けるスタッフが、会計業界でリーダーとして成長していきます。自らの責任範囲を狭め、与えられた仕事を淡々とこなすスタッフはマネージャーにはなれるかもしれませんがリーダーにはなれません。私は、彼らには、会計スタッフや会社のマネージャーに止まらず、カンボジアの会計業界を引っ張っていくリーダーになって欲しいと考えています。
私は会計スタッフに対して会計以外の仕事もさせています。例えば、オフィスやオフィス周辺の掃除、社員旅行の企画、来社されたお客様の対応などが仕事として与えられます。普段、パソコンや数字とにらめっこのスタッフはなかなか自分が社会に貢献していることを実感しづらく、また、常に与えられた仕事をこなすことが働く目的になりがちです。こうした会計以外の仕事を通して、自ら考え誰かのために動くことで、リーダーとしての意識が芽生えてきます。初めは嫌な顔をされましたが、今はそれが通常業務の一部です。
(次回へ続く)