2018年1月11日
――会計・税務・法務に関して、カンボジアで活動する日本企業始め、海外企業が直面する問題は何ですか。
澤柳 匠(以下、澤柳) 表面的な問題はいくらでもありますが、本質的な問題は1つです。むしろ、「カンボジア特有の問題」に注目することで重要な問題が見えなくなります。多くの企業は、会計や法律に関する知識がないから知識をたくさん持っている専門家に話を聞きに行きます。そして、その専門家もその要望通り知識を与えるでしょう。
しかし、本当に重要なのは、知識そのものではなく、知識を実際に使い、企業が知恵として蓄積していくことです。知識は企業の成長を助ける肥料であり、知恵とは企業の生命力です。知識を外部から過剰摂取すると、企業の生命力は弱まります。そして外部からの知識に頼った企業経営となり、事業環境の変化に適応できません。
また、カンボジアでは法律と実務が乖離している現実がある以上、得た知識全てがそのまま使えるかどうかすら疑わしいものです。カンボジアの税務や法務は、常にリスクとの戦いの道具になっています。如何に企業へ利益をもたらすか、というよりは、如何にカンボジア政府に文句を言われないようにするか、という視点で捉えられます。
会計に関しても、本来財務諸表は企業にとって重要な意思決定のためのツールであるはずが、いつの間にか、本社や株主、監査人に文句を言われないか、というネガティブな視点になる傾向があります。だから、多くの企業では、会計、税務、法務に関しては、常に知識として扱われ、その知識はオフィスの棚の奥の方へ大切に保管されています。いざという時に使うためです。
しかし、実際にカンボジアで事業がうまくいっている企業は、知識は保管していません。知識を実際に使い、自ら改良を加え、知恵へと昇華させています。常に流動的です。知識のためではなく、学習のツールとして、専門家をどんどん使いましょう。そして、知識を知恵に変えられる企業文化を作りましょう。
――カンボジアにおける会計制度や税制度は改善されているのでしょうか?現状について、教えてください。
澤柳 会計制度には大きな変化はありません。税制には様々な変化がありましたが、企業が一番注目すべきは、移転価格に関する規制でしょう。移転価格の規制は多くの企業にとってあまり馴染みがないかもしれません。簡単にいうと、関連者間取引によってカンボジアで本来収めるべき税金を意図的に少なく調整してはダメですよ、というものです。
これまで移転価格に関する規制は0に等しく、唯一、税法第18条に関連者間取引に関する簡単な記載しかありませんでした。しかし、2017年10月に経済財務省より通達されたプラカス(Prakas No. 986. MEF.Prk)により、関連者間取引を行なっている企業は移転価格文書の作成、提出が今後義務付けられることとなります。
カンボジアに進出している外資企業のほとんどは、カンボジア国内だけでなく、国外とも売買取引をしています。その取引の価格が適切なものであるかの判断は、OECDで認可を受けた5つの計算方法によって行われなければなりません。
この辺りは高度な専門知識を要するため、該当する企業は専門家に依頼しなるべく早く移転価格文書を準備しておきましょう。
――今後進出してくる海外企業が留意すべき点を教えてください。
澤柳 こう思います、こう考えます、という意見を元に決断をしないでください。それは、どんなに信頼できる専門家の意見でも同様です。全ての専門家は、事実を元に意見を示すことには責任を持ちますが、その意見を元に企業が行動した「結果」に対しては責任を持ちません。それは明確に契約書にも記載されているはずです。
海外での事業、特にカンボジアでの事業を行う上で、「知らないことを知らない」ということが命取りになります。
ネットや書籍で手に入るカンボジアの情報もまだまだ限られていますので、カンボジアで事業をしている人や専門家から話を聞くことは非常に重要です。重要だからこそ、その一つ一つの話を事実と意見として聞き分け、事実を元に決断をしてください。思います、考えますといった意見は、参考までに留めておきましょう。
(次回へ続く)