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業界別インタビュー

カンボジアで活躍する日本人に捧ぐ、値決め戦略(後編) - 「値決めの哲学」を持とうではないか -[法務・税務・会計]田中靖浩 (2/2)

法務・税務・会計

田中靖浩公認会計事務所
所長: 田中 靖浩 Tanaka Yasuhiro
公認会計士でありながら、執筆、講演、コンサルティングを行う一方、落語家・講談師とのコラボイベントも手がける、田中靖浩氏。難解な会計・経営の理論を笑いを交えて解説する「笑いの取れる会計士」として活躍している。CBP特別企画で開催された、「値決め戦略勉強会 『良い値決め 悪い値決め』」を終え、田中氏に独占インタビュー。日本が閉塞感から脱却するには?常識を打ち破る鍵となる「リベラルアーツ」とは?どうしたら高価格でも売れるのか?本誌に熱く語る。
現代人に必要な能力

前編からの続き
田中靖浩(以下、田中) 私は公認会計士の資格を持っているわけですが、細かいことが嫌いで、数字も嫌いでゼニ勘定も嫌いなんですよね。それとは対極の本書いたり話したりすることが好きです。でもこうした幅にようなものは強みです。専門性とは逆の「幅」という強み。若い時は自分が思ったことのむしろ逆を行ってみて、だめなら戻れば良い。そこから生まれる幅はこれからの時代、大きな強みになるかもしれません。


―――わかります。それでもその幅を武器にすることができる人にはまた違った能力が必要なんじゃないかという気もします。繋がらない経験を自分の中で繋げて強みにするための能力みたいな。

田中 それコンピュータ時代の具体化の逆で、共通点を見出してひとつ上を模索する「抽象化」だと思います。例えば身近なチームの中で対立があったときに、こういう点で意見が合っていないけど、この点に関しては共通しているから喧嘩する必要ないのではないかと。この「抽象的能力」こそがコンピュータ時代の真の頭の良さだと思います。

日本はデフレも輸出している

―――今度は、2015年7月に発刊された「良い値決め、悪い値決め きちんと儲けるためのプライシング戦略」という本のことについて少し触れたいです。このテーマにしたいきさつや、事業主にどうしてもらいたいとお考えですか。

田中 ここまで執筆・講演、その他コンサルティング等、会計士として前例がない商売を突き進み、価格交渉の難しさを痛感しました。サービス業は値段を上げないと時間が奪われるんですよ。単価の低い仕事を減らせばいろんなことを吸収してアウトプットする時間ができる。自分自身の質を高めるには時間がないとだめですね。バンコクとプノンペンを見ていかんなぁと思ったのが、日本人はデフレも輸出しちゃっている。本来メイドインジャパンは良いものなのに、値段をローカルに合わせて値引きをしている。技術がちゃんとしているなら、自信をもって高い値段で売らないと。

一生懸命頑張っているのに儲からない会社には共通点があります。それが「売上重視」です。売上には良い売上げアップと、悪い売上アップがあり、間違った「売上重視」に正しい答えを出すと会社が潰れます。ほとんどの値下げが失敗に終わるからで、単純な値下げは成功しないと思ったほうが良いです。値下がりしやすいビジネスを見ると、その共通点は固定費体質であることがわかります。変動費が少ない固定費ビジネスは値下げ幅が大きく、特に人そのものに依存して商売をする情報・サービス業は値下げしてはいけない商売です。

「かたちのないもの」だからこそ慎重に値決めをしなければならない。


―――ターゲットをどこに置くのかが重要ですね。少数派の富裕層を対象に単価を高くしていくか。それとも、一般的なカンボジア人を狙うために値下げして売るか。月給最低賃金が2万円弱の国では値決めが難しいのかもしれません。

田中 カンボジアの変化するスピードは結構速いので、日本以上に状況を読んで対応していくことが重要ですね。特に状況が変化する中で重要な点が値決め。日本はデフレに慣れ過ぎているので、その感覚で値決めせず、むしろ値段を上げることを考えることが大事です。価格は回りに合わせて決めるのではなく、自分で決めるものなんです。悪い値決めとは、「価格の哲学」なく流されて行う値決めです。

日本の高度経済成長期に築かれ、従来の常識が残ったままになっている「良いものを、より安く」の前提にはコスト・プライシングがあります。「コスト+利益=売価」という式に基づく値決めです。「良いものを、より安く」というのは、どっからどう考えても間違いです。悪いものは安いし、良いものは高い。これが商売の道理であって、「良いものを、より安く」はたまたまそれが上手くいった時代の亡霊にすぎません。

アメリカでは既に「良いものを、より高く」の事例がたくさん出てきています。「売価ー利益=コスト」という売価からはじまる値決め式です。顧客はどのくらいの価格でなら買ってくれるのか、どれだけの価値を認めてくれるのか、つまり顧客中心の値決めであり、私はこれをバリュープライシングと呼んでいます。


―――なるほど。これからは価格の哲学を持たなければなりませんね。日本も「良いものを、より高く」という考え方で値決めをすると、値上げ競争が始まるのでしょうか?

田中 望ましいですね。みんなができるとは思いませんが、実力のあるやつが値上げできる。下のやつはできないけれど、中間のやつは値上げをするために努力をする。それがマーケットの理想です。値上げをするには自信を持たないといけない。かなり時間がかかりますけど。


―――一方でカンボジア人の消費者の場合は目が肥えていないので、見た目が同じなら価格は安い方に行くと思いますが。

田中 自分のサービスを通してお客をどう変えるか。最終的に地域や社会をどう変えていくかというところまではっきりさせるべきだと思います。この本を書いていろんな人に会って確信しました。商売は意思を持たないと。何を変えたいのか、高価格の秘訣、自分の中でピースがはまったときは、自信をもって高価格を提示できます。

アップル製品のようにコストが安くても高い価格を付けていいのです。逆に、顧客が満足してくれないものは、どれだけコストを削って安くしても買ってもらえないと自覚した方がいい。


―――確かに、給料からみたらかなり高額な価格のはずなのに、なぜかカンボジア人はiphoneを持っていたり、お洒落なカフェで過ごしていたりしていますね。最後に読者へのメッセージをよろしくお願い致します。

読者へのメッセージ

田中 広い意味でのリベラルアーツかもしれませんが、カンボジアに来てみて日本って低成長だと思います。カンボジアの人たちは必ずしも豊かでないかもしれませんが、基本的に笑顔が明るいですよね。多分根本には未来が明るいと信じているからでしょう。これが成長している国の強みだと思います。日本は全く真逆でうつ向きがち。頭の良いやつもリスクリスクって言うし、カンボジアに来られる人がいたらすごく羨ましいです。頑張ってほしいと言うよりは、羨ましいなぁと思います。


―――本日はどうもありがとうございました。(取材日/2016年1月)


田中靖浩公認会計事務所
事業内容:主に中小企業向け経営コンサルティング、経営・会計セミナー講師、執筆
URL: www.yasuhiro-tanaka.com

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