(2016/5発刊4号より)
1956年生まれ。高知大学医学部卒。県立病院勤務、保健所長を経て、2003~2006年カンボジアのJICA結核対策プロジェクトで活動。2007年結核予防会入職。2008年~2010年ミャンマーで結核・エイズ・マラリア対策に従事。2010年から再びカンボジアと関わり、現在、同会国際部のマネージメントを行う。
1963年生まれ。東京医科大学卒業、同大学外科学第一講座入局、スウェーデン・カロリンスカ研究所留学、大学・民間の病院勤務を経て、国際医療福祉大学臨床医学センター准教授、山王病院呼吸器センター医長。さらに長崎大学熱帯医学研究所などで学ぶ。2009年カンボジア移住。2010年ケン・クリニック開業。
[聞き手] ココチカムデザインCEO 河内利成氏
専門分野である建築でカンボジアを盛り上げたいと、2013年にカンボジアに進出。コンドミニアムから公共施設まで幅広く手がけ、カンボジアを拠点に、ラオス、シンガポールなど、ASEANに活動の場を広げている。大阪府出身の45歳。
岡田: プノンペンのバタナックタワー向かいにあるカンボジア保健科学大学内に、一般の人たちが健康診断などを受診できる(仮称)UHS/JATA健康診断センター(以降センター)を整備しています。このセンターは、①来所健診、②集団健診(バスによる出張健診)、③尿や血液などの検体検査(他医療機関からの受託含む)、④人材育成(提携大学の学生やカンボジア人医師への教育)、⑤「調査・研究」の5つの機能を併せ持ちます。
日本クオリティーの高度な機材、検査、良質なサービスが提供できるので、これまで国外で健康診断を受けていた人たちも、カンボジア国内で受診することが可能になります。治療よりも疾患予防、早期発見をフォローすることを目的にした施設ではありますが、治療行為そのものは、信頼できる地元医療機関と連携して、フォローアップできるようにしていきます。
奥澤: 当院を受診される患者さんから採取した尿や血液などの検体検査を安心して出せる検査機関がこれまでありませんでした。プノンペンにも検体検査を行う機関はあるのですが、クオリティー・精度にばらつきを感じていたので、まず、当院としては、センターに対して尿や血液の検体検査を依頼しようと考えています。そのうえで、センターの受診者で加療の必要な患者が出てきた時に、密接に連携をして、治療を引き受けていける環境を作っていく予定です。
河内: 予防・早期発見・治療が、カンボジア国内で受けられる環境が整うのであれば、安心して暮らせますね。日本と同じようなメニューの健康診断を受診できるそうですが、もともとは結核の予防を目的にしてはじまったプロジェクトですよね。
河内: いい言葉ですね。環境から育てていって、たどりつけるんですね。
岡田: WHOでは、結核の多い国として世界の22の国を指定しています。カンボジアはそのなかでも世界で4番目に結核が多い国です。内戦の影響などで、医療システムが遅れたことが原因となっています。毎年カンボジアで6万人が発症していて、現在の日本でも毎年2万人は存在しています。私自身は2003年からカンボジアの結核対策プロジェクトに携わってきました。
河内: 大変困難な道のりだったのではないですか?
奥澤: 結核の治療には最低6ヶ月間の治療期間を要します。カンボジア人は病気が治りはじめると、薬を飲むのをやめたりして、継続して治療することほとんどできません。結局、悪化して再来院するということがあるので、どのように治療を継続させるように呼びかけていくかが問題だと思います。
岡田: 健康診断を受診していただく企業を含め、今後は普及活動と継続的治療のフォローにも力を入れていきたいと考えています。
岡田: 日本では昔は結核が、いまは生活習慣病ですが、カンボジアは双方が同時に顕在している、二重負荷の状態にあります。カンボジアの貧富の差が如実に表れている状況だと思います。
奥澤: : 日本人だけでなく、カンボジア人でも糖尿病の人がものすごく増えています。東南アジア全般的にそうなんですけれども。塩辛いものをおかずに、白米を食べすぎるのが原因の一つだと考えられます。多くのカンボジア人は、どういうものを食べて予防すればよいかわからないし、アドバイスできる人もいない。日本では、食品やビールにパン、スイーツなどで糖質オフやゼロの商品が、かなり増えています。そこで「低糖質」の啓発活動として、フランス料理の加茂シェフと連携して、美味しく・楽しく・幸せな低糖質食の食事会:ロカボクラブを定期的に開催しています。当初は日本人を対象に開催していましたが、今後はカンボジア人向けの情報発信もしていく予定です。
河内: 昨年、弊社でケンクリニックのデザインを手がけ、現在はセンターのデザインも行っています。同時に、KenClinicの近くに移転される、歯科のIwataDental Clinicのデザインも行っています。カンボジアの医療空間も大きく変わりはじめていると思いますが、どのような印象がありますか?
奥澤: 昨年、ヴィラをリノベーションして、バンケンコンエリアに移転しました。大きなアール状の和紙壁が特徴のエントランスが柔らかく、シンボリックで、居心地が良いと、日本人のみならず、欧米の方を含む多国籍な患者さんから褒めて頂きます。うれしいですね。患者さんの数も増え、スタッフもイキイキ働けるようで、とても満足しています。なかには、病気でない人までも、フラッと立ち寄ることがありますね…(笑)
河内: 医療空間に限らず、たくさんの「心地良い」をカンボジアでデザインしていきたいと考えています。社名が「ココチ」ですから。最後にカンボジアのこれからについて一言ずつお願いします。
岡田: : まず、当法人の目的であるカンボジアから結核を減らすこと。そのうえで、医療人材の育成や健診活動を通じて、人々の健康を守ることをやっていきたいと考えています。
奥澤: 低糖質もそうですが、2004年から取り組んでいるけがの治療方法の湿潤療法を普及させたいと考えています。けがでもやけどでも、早く・きれいに・痛くなく治せる療法です。カンボジアではまだ知られていないことを伝えていきたいです。
河内: 医療環境の充実は、カンボジアの暮らしの質が高まるので、今後が楽しみです。ありがとうございました。
[サポート]Cell Revise 代表 宮川広之氏
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