カンボジアの後発開発途上国(LDC)卒業は、国内総生産(GDP)成長率を最大1.5%減少させ、16万5000人の雇用を失う可能性があると、国連開発計画(UNDP)カンボジア代表のアリッサー・チャカー(Alissar Chaker)氏が警告した。
カンボジアは2029年12月19日にLDCを卒業する予定であり、国連総会は2024年12月に5年間の準備期間を付与する決議を採択した。同氏は、特に衣料産業に従事する女性が最も大きな影響を受けると指摘し、対策を講じなければ長期的な発展目標や社会的安定が脅かされる可能性があると述べた。
UNDPとカンボジア計画省の調査によると、LDC卒業により貿易の柔軟性と関税優遇措置が失われ、特に欧州連合(EU)、カナダ、英国向けの主要輸出品である衣料品、米、自転車に影響を及ぼすとされる。他のLDC卒業国と比較すると、カンボジアは産業の多様性が不足しており、特に輸出依存の高い衣料産業への影響が大きい点が課題である。
チャカー氏は、カンボジアが過去20年間で顕著な社会経済的発展を遂げたことを評価しつつも、貿易支援や国際的な財政・技術支援の段階的廃止といった新たな課題が生じると指摘した。一方で、LDC卒業により信用格付けの向上、投資誘致の可能性、経済の多角化といったメリットも期待される。特に、国際市場での信用力が増すことで、外国直接投資(FDI)の拡大や、高付加価値産業の成長を促進する機会が広がる。
また、保護主義政策の新たな波や貿易摩擦、パンデミック、気候変動、安全保障問題といった国際的・地域的な不確実性が、カンボジアのLDC卒業後の道のりを複雑にするとも述べた。このため、安定した移行を実現するために、資源の事前投資や政策改革が求められる。
過去にLDCを卒業した国として、ボツワナ(1994年)、モルディブ(2011年)、サモア(2014年)、赤道ギニア(2017年)、ブータン(2023年)がある。カンボジアはこれらの国と異なり、製造業、とりわけ衣料産業への依存度が高いため、輸出市場の多角化や国内産業の競争力向上が急務となる。
LDC卒業プロセスは、国連経済社会理事会(ECOSOC)の勧告を国連総会が承認することで正式に開始される。卒業決定後も3年間はLDCとしての特別支援を継続して受けられる。