過去10年で、カンボジアは世界貿易ネットワークに統合し、衣料品や繊維などの伝統的な輸出品を超えて輸出の多様化を進めてきた。しかし、変化する世界貿易の中で、貿易の混乱や競争の激化などの課題に直面している。カンボジアがグローバルバリューチェーン(GVC)で上位に進出するためには、自国の強みを特定し、それを活かすことが重要である。
カンボジアの輸出構造は、製品や貿易相手国の面で変化している。繊維は依然として主要輸出品であるが、その割合は2011-2015年の70%から2020-2023年には40%に縮小している。一方、機械、プラスチック、ゴム、野菜製品といった新たな輸出品が増加している。また、米国やEU、中国に加え、ASEAN市場にも進出し、多様化を進めている。
カンボジアのGVC参加状況を詳しく見ると、進展と課題の両方が見られる。AMRO(ASEAN+3 マクロ経済リサーチオフィス)の2024年年次報告によると、カンボジアの輸出における国内付加価値(DVA)の割合は65%であり、特に最終製品に多く含まれている。しかし、製造業は輸入部品や材料に大きく依存しており、国内の製造能力を強化し、地元での調達を進める必要がある。
また、カンボジアの輸出品の多様性はベトナムやスリランカなどと比べて少なく、他国と重複する製品を多く生産しているため、競争が激しい。この点を改善し、グローバルな貿易ネットワークでの地位を向上させる余地がある。
カンボジアは既に労働集約型から多様で高付加価値の製品へと製造業を転換する構造改革の初期段階にある。しかし、どのセクターに焦点を当てるかが難題である。より高度な製造業に進出すれば長期的な利益が期待できるが、新技術の習得や外国投資の誘致、技術移転が課題となる。
製造業の高度化に向けた新技術の導入や国内企業への技術移転に関して、カンボジア政府はいくつかの明確な戦略を持っているが、まだ発展途上である。2020年に策定された「科学技術・イノベーション(STI)ロードマップ2030」に基づき、技術移転とイノベーションを促進する政策が進められており、このロードマップでは、農業、製造業、デジタルサービスなどの主要産業での技術進化を目指している。こうしたデジタル技術の導入や専門家の育成を進める一方で、即時的な労働力不足に対処するため、外国の専門家を一時的に受け入れる戦略も取り入れつつ、長期的には自国の技術力を強化する計画を持っている。
AMROは、カンボジアにとっては「バランス戦略」と「大きな飛躍戦略」という2つの戦略が検討できること指摘している。「バランス戦略」とは食品加工、衣料品、機械など既存の強みに基づき、徐々に多様化する方法であり、「大きな飛躍戦略」とは重機などの高度で複雑な製造業を目指すものであるがリスクが高い。現実的には、既存の強みを活かした「バランス戦略」が適しているとされ、安定した移行が可能である。
いずれにせよ、政府の強力な支援が不可欠であり、地元企業への投資、人材育成、長期投資を歓迎する環境作りが必要だ。また、環境への影響や外国投資への依存といったリスクにも留意する必要がある。