【運輸・物流】
内陸国であるカンボジアは、陸路、海路、空路、水路それぞれの運搬手配が可能であり、更に、国内の経済発展や人口増加に対する需要をかなえるため、輸送手段は拡大している。
公共事業運輸省は、国内の物流インフラの拡大に関連した法案策定に向け、国際協力機関(JICA)や世界銀行と議論しており、特にコスト削減と輸送効率の向上を目指している。カンボジアは、過去15年間で物流部門の法規制の改革は進展がみられるものの課題は多く残っている。
世界銀行による物流パフォーマンス指標ランキング(LPI)でカンボジアは2016年に73位を獲得していたが、2018年は98位に下落しており、ASEAN諸国では9位にランク付けされている。公共事業運輸省の広報官は、「他国の業績上昇により相対的な評価が下がっただけあり、カンボジアの物流分野が貧弱だということを意味するものではない」と述べており、輸出入や貿易活動が引き続き増加し、インフラの改善などを図ればランキングは上昇するとしている。
米国商務省の報告によると、カンボジアの米国への輸出は、2018年初めの9ヶ月で前年同期比27%増の28億6000万ドルとなった。
カンボジア縫製業協会(GMAC)は2018年10月、海外のバイヤーからの先行予約から、2018年の残りの期間、衣料品や履物製品の輸出が好調に推移するとの見通しを示し、またカンボジア国立銀行(NBC)の報告でも、カンボジアの衣料品・靴の輸出は2018年上半期に約40億ドルと、前年同期と比較して11%増加しており、前年成長率6.9%から倍増している。
日本への輸出も増加している。JETROの公表によると、2008年の金融危機以来一桁台の成長にとどまっていたが、2018年上半期はカンボジアが7億ドル以上の輸出を行っており、19%の成長を記録したことが明らかとなった。
2018年4月に米国の一般特恵関税制度(GSP)の延長が認められ、また、カンボジアは世界銀行の分類により低所得国から低・中所得国へと“格上げ”されたものの、引き続き国連からは後発開発途上国として分類されており、GSP(一般特恵関税制度)に加え、今のところは先進各国からの特別特恵関税制度により輸出に対する特恵を受けている。こうしたことから、一般特恵のみが適用されている中国やベトナムと比較すると、カンボジアが有利になる品目は主要生産品である衣料品や履物など多岐にわたるため、関税や人件費を含むトータルコストを見たときに、近隣諸国と比較してコストメリットが出るという考えの下で進出する企業も多い。
これに加えて、米国での関税急騰に苦戦する中国の製造業者らが、生産拠点をカンボジアに移転する可能性があり、米中貿易戦争が長引くほどカンボジアは輸出の増加などの恩恵を受けると予想されている。
しかし一方で、EUとのEBA(EverythingButArms)協定による優遇措置の撤回手続きが開始されたとの報道もあり、海外のバイヤーに心理的な影響を与える可能性が指摘されている。多くの関係者はEBA協定の撤回の影響は小さいと分析しているが、いずれにせよカンボジアは今後にむけて新しいマーケットの開拓を模索する必要があるだろう。
世界最大のコンテナ船社・デンマーク企業のマースクラインを親会社に持ち、1992年にカンボジア法人を設立以来、トップを走り続けるマースクラインのトン・パン氏は、「昨今の物流コストの削減、汚職排除は、カンボジアの輸出製品をより競争力のあるものにし、常にカンボジア経済にプラスの影響を与えると考えています。2017年は、カンボジア政府のおかげで、インフラ整備の改善、非正規費用の廃止、物流費の調整など、多くの進歩が見られました。しかし、ASEAN諸国と比較して、カンボジアは依然として競争力があまり高くない。競争力を高めるため、港湾の生産性の向上、港湾・内陸部のインフラ整備、代理店システムの複雑さの軽減、物流手数料の調整、効率税関申告制度の強化に取り組むことが重要だ」と、今後の業界の発展について語った。
改善が図られる物流業界でも、政府が特に重要視しているのが、港湾と内陸水路輸送の開発だ。カンボジアの主要海路といえば、国内唯一の深海港シアヌークビル自治港が挙げられ、カンボジア全体の物量の約60%を扱う重要港だ。JICAの支援で2022年までにコンテナターミナルを拡張予定であり、新たに貨物輸送施設を備えると見られる。
一方、河川港であるプノンペン自治港は、メコン河経由でベトナムのホーチミン港やカイメップ・チーバイ港を結ぶ内陸水運航路として重要であり、コンテナ数は年々大幅に増加している。
海運業界について、マースクラインのトン・パン氏は、「2016年は過去最低の運賃率の記録や、当時世界ランク7位だった大手韓国海運企業、韓進海運の破産などがあり、合併や統合が加速しています」と、目まぐるしい変化について話す。
そんな中、水路輸送は他輸送経路に比べ安価だという利点から、カンボジアでも新しい取り組みが誕生している。
公共事業運輸省は、メコン川沿いの内陸部に韓国国際協力団(KOICA)と共に港湾網を建設する計画を明らかにしており、また交通渋滞緩和と人材輸送のため、メコン川での水上タクシーサービスを開始した。