【金融・保険】
1990年代初め国連暫定当局の到着以降、カンボジア国内では米ドルとカンボジア通貨のリエルが流通しており、経済取引の約83%がドル決済である。近年、為替市場のリエル相場は1ドル当たり4000~4100リエルと安定的に推移しているが、現在、中央銀行をはじめとする公的機関によるリエルの促進活動が著しい。
カンボジア国立銀行(NBC)によると、リエルの流通量は2016年より11.4%上回っており、NBCはすべての商業銀行とマイクロファイナンス機関に、2019年末までに貸出ポートフォリオの少なくとも10%をリエルで保有するよう要求するなど、リエルの利用を促進するための規制をかけている。その一方でNBCは昨年、拡大する中国との貿易を受け、米ドル建ての際にかかる時間短縮と為替リスク回避のため、元-リエルでの為替レートを開始した。
2013年より日本人顧客窓口としてジャパンデスクを開設し、その他にも韓国人顧客向けのコリアデスク、中国人顧客向けのチャイナデスクを設けるなど、外国人顧客への取り組みに積極的なプノンペン商業銀行のシン・チャン・モー氏は、「カンボジアは長い間ドル化経済です。国にとっては自国通貨を使用するのが理想的ですが、NBCが1~2年のような短期間にリエル化の完了を目指しているとは考えにくいです。スムーズな移行のためには5年から10年はかかるでしょう。我々はリエルでの預金および融資のサービス促進を進めています。選択肢の拡大はお客様にとって有益なものになるでしょう。一方、とりわけ直接投資において、米ドルがカンボジア経済に恩恵をもたらしていること、カンボジアに競争力と魅力を与えていることも忘れてはいけません」と、リエル化の取り組みの一方でのドル化経済の重要性を述べた。
これまで銀行口座保有率の低さがデメリットだったカンボジア。しかしそれを逆手に取り急成長を遂げている分野がある。フィンテックだ。カンボジア信用機構(CBC)は、クレジットサービスの利用申請数が大幅に増加したと発表しており、取り分け、2017年のビザカードの使用率は昨年比65%上昇したという。電子決済の導入は、外国からの投資誘致と保護の面で外国人投資家を後押し、サービスの取り込みへの重要度は高い。
昨年6月に決済サービスアプリ『パイペイ(PiPay)』をローンチし、中国最大のオンライン決済サービスアリペイと提携するなど、業界で突出した成長を見せるパイペイのトーマス・ポコルニー氏は、「カンボジア人の大多数は銀行口座を持っていませんが、パイペイのようなピアツーピアでの金融サービスの認知度はどの近隣国よりもはるかに高く、統計的な数字だけで判断はできません。パイペイのアップデート版を導入した6月26日以降、AndroidとIOSの合計で16万件以上のダウンロード、1700店以上の加盟店との契約が成立しています。去年9月の取引額は500万ドルだったのに対し、最新の調査では4400万ドル以上に増加していることがわかりました」とアプリの凄まじい成長について話す。また、2020年までに年間200万人以上の中国人観光客を見込まれており、アリペイとの提携がその成長をさらに加速させると思われる。加えて、カンボジア最大のモバイル金融サービス企業のウィングと大手オンライン送金会社のワールドレミットも一部提携を開始し、ウィング利用者は世界中どこからでもカンボジアへ送金することができ、国内の利用者は、受け取った金額を、電子決済や現金で引き出すことが可能になる。
一方、デジタルプラットフォームの開発・採用に大きな可能性がある中、外資系企業の存在感も増している。国際NGOオックスファムカンボジアと国内の米輸出業者アムルライスは今年4月、ブロックチェーン技術を応用したスマートコントラクトに基づく地元農家向けのプログラムを開始すると発表し、香港のリスク管理会社カムネクストグローバルとカンボジア証券取引委員会(SECC)は、フィンテックの技術開発と協力を求める調査を行うと発表した。
しかしNBCとSECCは、暗号通貨に対して否定的で、高リスク商品への投資に対する危険性について度々警告している。NBCは、カンボジアでは暗号通貨は金融商品として認識しておらず、全ての商業銀行に対して取引しないよう指示を発表した。ほとんどの先進国市場において暗号通貨に関する法令がある一方、カンボジアは未だインフラが整っておらず、同分野の安定性の向上が今後期待される。
NBCの年次報告書によると、カンボジアの銀行資産は、過去16年間で41倍の増加を見せ、200億ドルに達した。現在カンボジアには39の商業銀行、15の専門銀行、7つの預金受入マイクロファイナンス機関、66の認可済みマイクロファイナンス機関があり、その成長の中で、2017年における銀行の外国資本流入は32%増加した。報告書によると、仏国第2位の金融グループ、BPCEグループの傘下銀行BRED銀行や日系第3位のみずほ銀行などの各国大手銀行の設立や、2017年に行われた外国銀行の最低資本要件の引き上げを要因として挙げており、資本流入の大部分は、中国、ベトナム、韓国、マレーシア、シンガポールなどのアジア諸国からだとしている。
プノンペン商業銀行のシン氏は、「カンボジアには約40の銀行があり、銀行サービスにおいて心配することはありません。プノンペン商業銀行は、当社の親会社でもあり、韓国で最も信頼の置ける銀行の一つ全北銀行の経験と資源を最大限に活用し、オンライン・オフライン共に進化の最前線に立っています。34カ国にわたる提携銀行ネットワークを駆使し、海外事業を行うビジネスマンの皆様にとって有益なサービスを提供できると確信しています。NBCの資格要件も厳しくなった今、強い銀行が生き残ることになるでしょう」と外資系銀行としての強みを見せた。カンボジアの金融機関における不良債権比率(NPL・支払いが30日以上延滞している融資比率)は、昨年の1%から2%へ増加したが、他国のNPL率が7~8%であるのと比較すると、カンボジアのNPL率は正常だといえる。