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2017年6月29日
カンボジア進出ガイド

【金融・保険】

176 カンボジアの金融・保険①(2017年05月発刊 ISSUE6より)

金融 Finance

米ドルとカンボジア通貨リエル The US Dollar and the Cambodian Riel

 カンボジア国内では米ドルとカンボジア通貨のリエルが流通しているが、経済取引の大半がドル決済である。近年、為替市場のリエル相場は1ドル当たり4000~4100リエルと安定的に推移している。市中銀行や両替商ではその日の変動レートで通貨交換がなされるが、実際にドル建ての少額取引をリエルで支払う場合、便宜上、1ドル当たり4000リエルか、取引先が個別に定める固定レートで計算され、もっぱら現金による直払いがなされる。カンボジアに米ドルが使用されたのは1990年代初め国連暫定当局の到着後、1993年には経済取引の約36%を占め、2003年に70%に跳ね上がると、現在ドル取引はカンボジアの総金融取引の約84%を占めている。その要因は外国為替に関する規制がほとんどないことが考えられる。



 世界34の市場、900万人以上の顧客にサービスを提供しているANZグループ傘下、ANZロイヤル銀行のレオニー・レスブリッジ氏は、「低廉な労働コストと税制の改善の中で、市場でのドル使用は、投資家の経費削減に繋がり、依然として事業にとって重要であると考えられています。しかし、経済と金融システムが成長するにつれて、高度にドル化された経済は、特に経済危機において、効果的な金融政策を取ることができなくなります。企業にとっては、通貨リスクをヘッジする必要性とチャンスの両方の可能性があります」と語った。

カンボジア国立銀行による、リエルの利用促進 The Utilization promotion of Cambodian Riel by National bank of Cambodia

 一方、政府は自国通貨の利用を促進する動きを見せる。カンボジアにおける経済のドル化はカンボジア国立銀行(NBC)の外貨準備拡大の可能性を妨げ、カンボジアを近隣諸国よりも更に脆弱にするなど弊害もあるからだ。カンボジアの外貨準備高は1997年から年間15~20%の割合で増大し、現在では約68億ドル。これによって各国の中央銀行は為替レートや価格の安定を維持する力を持ち、外部からの衝撃やいかなる経済システムの危機に対しても対応できる。しかし、タイの外貨準備高は1711億ドル、ベトナムは約372億ドルと、未だに近隣諸国と比べると小さい。

 リエルが主要通貨になると、NBCはその供給量を調整するなど、価格変動に対してより効果的に対応することができ、カンボジア経済に利益をもたらすよう、為替レートの調整も可能だ。NBCは2016年12月現地通貨リエルの利用促進のため、商業銀行やマイクロファイナンス機関にリエルでの融資を行う省令を発行し、全ての金融機関のローン・ポートフォリオの最低10%はリエルであるべきだと述べている。





 マレーシアに親会社を持ち、カンボジアの外資銀行で最大の資本規模であるカンボジア・パブリック銀行のパン・イン・トン氏は、「当行は、すべての種類の税金を徴収するため、特にリエルでの預金口座の促進により、他の銀行との取り組みに着手しました。加えて、特に中小企業向けに、魅力的な金利や利益率の高さでリエルでの融資を促進しています。また、2016年にNBCが、リエルでの銀行間取引の即時決済を可能とする、FASTシステムを開始しました。参加金融機関である当行では、顧客が別の参加金融機関を通し、数分以内に資金を別の顧客に送金することもできるようになりました。今後は、水道料金の回収など、リエルを使用した多くの金融サービスを導入する予定です」と話す。

 依然として賃金や国際取引など多くの場面で米ドルの需要は高いが、政府主導の自国通貨の利用促進により、リエル使用率の上昇が予想される。

フィンテック Fintec

 アジア開発銀行(ADB)などによる報告書によると、デジタルファイナンスがカンボジアの国内総生産(GDP)を6%押し上げる可能性がある。カンボジア電気通信規制機関(TRC)によると、今年9月末までのモバイルインターネットユーザー数が700万人にのぼり、家庭でのインターネット利用数は9万件。多くの金融機関はインターネットバンキングやモバイルバンキングに投資をし、また他のソーシャルメディアや電子ウォレットを通じて行われるオンライン決済や送金も、今後市場に導入される見込みだ。




 各社における技術開発が激化する中、銀行口座を持たないカンボジア人の金融取引も盛んだ。カンボジアにおけるモバイル金融サービスのリーディング・カンパニー、ウィング専門銀行のジョジョ・マロロス氏は、「カンボジア人の約80%が銀行口座を持っておりません。しかし我々のサービスを利用すると、公共料金の支払いや親戚への送金、また納税や政府機関への支払いなど、全ての金融取引をウィング上で行うことが可能となります。現金を使用すると、例えば、引出手数料や送金手数料。買い物に行く際のトゥクトゥク代など、全てにおいて料金がかかります。しかし、それを電子マネーに変換すれば、現金決済と比較した際、コスト削減につながります」と述べる。

 このような動きついて、カンボジア最大の銀行としてマーケットリーダーの地位を維持しているアクレダ銀行の副社長、ソー・フォナリ―氏は、「各銀行もネットバンキングやモバイルバンキングなど様々な付加価値を提供し始めており、今後は対応が拡大していくでしょう」と話す。アクレダ銀行は、2015年末に電子商取引決済“ゲートウェイ”を始めてから、月間のオンライン取引額50万ドルの急成長を見せており、アナログだった決済も益々変化する。

 一方、ウィング専門銀行のマロロス氏は、「カンボジア人の約50%、約800万人がスマートフォン保持者であり、さらに多くの新製品やサービスが登場するでしょう。今後は銀行業務のうち、必要だとされていたものが減り、中には預金を預け入れるだけで、残高を維持しない、と考え始める人も出るかもしれません。しかし一方で、ハッキングなどを防ぐため、かなり集中的なセキュリティ対策が必要です」と話す。

 また、金融取引の未来として賞賛されたデジタル通貨『ビットコイン』が世界的に普及している中、 カンボジアでのビットコイン普及は苦戦を強いられている。暗号通貨であるビットコインの仕組みを理解することは、ほとんどのカンボジア人にとって難しいうえ、オンラインによる金融取引がまだ十分に普及していない。今後は、セキュリティと実用性の強化が課題となるだろう。


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