カンボジアに進出する日系企業のための
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2016年6月10日
カンボジア進出ガイド

【IT・通信】

122 カンボジアの通信&IT(2016年5月発刊 ISSUE04より)

携帯通信事情 The situation of the mobile phone sector

121 カンボジアの建築・内装③から続き
 カンボジアの携帯通信市場の特徴といえば、市場規模の小ささに対して参入・退出・合従連衡が極めて頻繁に繰り返されている事と言える。2013年には人口約1500万の小国カンボジアにおいて8社もの通信キャリアが移動通信サービスを提供していたが、この年から合従連衡の波が一気に押し寄せた。

 2013年1月~3月までの間にタイとカンボジア政府との合弁キャリアであるエムフォンの経営破綻(モビテルが吸収)とハローアクシアタ及びラテルスの経営統合(スマートアクシアタ)が起こり2社減少、その後新規参入1社が加わって2013年末には合計7社となり、2015年3月には業界4位のビーラインが1位のメットフォンに買収された。ビーラインの買収以降、現在に至るまで大きな再編は起きていないが、この合従連衡のさなかに大きなシェアを築いた通信キャリアといえば、ベトナム系キャリアであるヴィッテル(Vittel)を母体とするメットフォン(加入者数約740万、シェア約45%)、マレーシア系キャリアであるアクシアタを母体とするスマート(契約者数約470万、シェア約30%)、カンボジア有力財閥ロイヤルグループとルクセンブルグ系MCIの共同出資によるセルカード(契約者数約310万、シェア約20%)の3強キャリアと言える。

 新興勢力である中華系キャリアも勢強い。Cootel ブランドを展開する中国の信威通信産業グループは世界的に採用事例の少ないMcWiLL方式に対応した端末の販売を手掛ける。端末のラインナップはスマートフォン、タブレット、フィーチャーフォン、据置型電話、データ通信専用端末まで揃え、カンボジアでは通信サービスから端末の開発・販売まですべて同グループで手掛けている。

 ExcellブランドのGT-TELLを買収してカンボジアの移動体通信事業に参入したシンガポール系South East Asia Telecomグループは2015年7月からSEATELブランド(中国語ブランド名は東南亜電信)として4G LTEサービスの提供を開始。カンボジア初のVoice Over LTE(VoLTE)による通信方式を導入するという。



 小さな市場で競争が激化するなか、各通信キャリアは進化する顧客ニーズの取り込みに必死の様相だ。2009年4月に8番目の通信キャリアとしてスタートし、その後積極的なM&Aにより業界2位にまで駆け上がったスマートアクシアタのトーマス・ハント氏は「我々の業界は常に投資が必要で顧客の変わるニーズに対応する必要があります。最近は2Gだけの提供では生き残れませんし、4Gだけの提供でも生き残れません。近年は通話やSMSよりもLINEやフェイスブック等データネットワークの需要がどんどん増えているので会社としては顧客の要求に応える必要があるのです」と語っている。

 「弊社はデータネットワークの投資に力を入れてきました。4Gの導入もしました。それ以外ではスマートミュージック等のエンターテインメントコンテンツや保険のサービスを開始しました。保険はこの1年で加入者が10万人となりました。基本的なテレコムサービス提供以外にコンテンツを増やす努力をしているところです」と続けた。

インターネット環境 Internet services in the Kingdom

 インターネット環境も良好だ。主要市内の主な飲食店やホテルでは無料WiFiが当然のように設置され、ほぼどこでも当たり前のように高速インターネットが利用できる。

 インターネットサービスプロバイダー(ISP)の競争も苛烈だ。データ通信サービスが自由化された2002年以降、新規参入は増え続け、2015年初頭時点で許認可を受けたISPは39社にのぼるが、実際にサービス提供しているのは15社程度と言われる。

 業務用ISPに特化し法人顧客基盤を拡大しているイージーコムのポール・ブランシュ・ホルゲン氏は、「テレコミュニケーション業界は健全なペースで発展していると感じます。カンボジア人も新たなサービスやテクノロジーに素早く適応しています。例えばEzecomでは今年の初めにカンボジア初となるクラウドマネジメントシステム、ibizCloudをビジネスユーザ向けにリリースしました」と語る。また自社でも毎年投資しているという海底ケーブルについて同氏は、「MCT(マレーシア・カンボジア・タイ)海底ケーブルプロジェクトでは当社もパートナーを勤めますが、シンガポールで開催された2015年海底ケーブルネットワーク世界会議をもって正式に締結されました。この完成はその接続域とこれまで以上の選択肢の拡大が、通信業界にとって大きく流れを変えるものになると思います」と語っている。



 イージーコム子会社のテルコテックが、アジアとアメリカを結ぶAAG(光海底ケーブル網の名称)への接続を、シンフォニーコミュニケーション(タイ)とテレコムマレーシアとの間で締結している。共同で3か国間に渡る1,300kmに及ぶケーブルシステムを施設し、完成は2016年末。また、ネットプロバイダであるチュアンウェイが、アジア主要都市をASEへの接続を、PLDT(フィリピン)、スターハブ(シンガポール)、テレコムマレーシア及びNTTコミュニケーションズと提携し、こちらも完成は2016年末の見込みだ。

 さらに、3月2日、カンボジア郵便電気通信省は、カンボジア光ファイバーケーブルネットワーク社(CFOCN)とアジア、アフリカ及びヨーロッパ諸国を結ぶAAE-1への接続を発表。シアヌークビル沖の海底で接続し、完成は2017年末の見込みだ。政府関係者の話では、2020年に全人口の80パーセントが使用しても対応できるように進めて行くとのこと。経済成長が進むカンボジアの中で、インターネット環境も劇的に変化の兆しを見せている。

 また、そのような中で、カンボジアのISP市場は先進的でありながら競争環境は厳しい。通信設備の普及が近年急速に進んだため、比較的新しい設備・技術が導入された事も特徴として挙げられる。しかし、ネットへの繋がりやすさは事業者によって大きな違いがある。何メガというようなプランを契約しても、最寄りの通信局までの速度であって、そこから先のネットワークの設備によって速度は変わるため、数多くのISP事業者から選択する場合は留意が必要だ。

IT・システム開発関連サービス Information Technology & System Intergation

 カンボジアにおけるウェブ開発やシステム開発といったIT関連サービスは、その技術力を身につけ始めたカンボジア人若手ITエンジニアが増えて来たことから、サービス事業者数は増え始めてはいるものの、日本レベルの要求水準を満たすITサービス業者はまだ数少ない、というのが現状である。

 ウェブサービス開発やスマホ用アプリ開発など、比較的軽めの開発に対応できる技術を備えたカンボジア人の数は着実に増えつつある。しかし個人もしくは少数チームによる個人事業主程度の業者が多く、またIT知識・技術には長けてはいるが、納期や品質などに関する顧客とのコミュニケーション能力がまだ未熟であるケースが多い。日本を含む外国企業からの発注に対し、しっかりと顧客要求と議論して向き合える窓口(ブリッジ・エンジニア)がいる業者でないと、受注はしたものの顧客期待を満たせずトラブルにつながるケースも散見される。日本で言う所の「SIer(システム・インテグレー タ)」と呼べるようなレベル・規模の事業会社は、カンボジアにはまだまだ育っていないというのが現状だ。

 カンボジアに進出している日系IT企業に関しては、ITとはいえその事業内容としてはPCを使った単調作業(シンプルな入力業務やマウスのクリックだけで対応可能な業務など)を低賃金のカンボジア人を多数採用して処理する事でコストメリットを図るビジネスがいまだ主流となっているが、一部のIT企業ではカンボジア人スタッフにより高度な開発やデザインに取り組む指導・育成をしているケースも散見されるようになっている。



 優秀なIT人材は確実に育ちつつある一方、そのIT人材がなかなかカンボジアIT産業に根付かない傾向もある。独自のルートで優秀なカンボジア人IT人材を集め、スマートフォンアプリやウェブシステム開発などを行うJCITの髙虎男氏は、「カンボジア国内の優秀なIT人材を輩出するのは一定以上の教育水準を誇り情報通信学部がしっかりしている大学。その大学生が、卒業後にカンボジア国内で勤めず、アメリカや欧州への海外留学を選択するケースが非常に多く見られるようになってきています。優秀なIT人材を青田刈りする奨学金制度が充実してきた事、海外留学中にIT系のアルバイトでそれなりに稼げる事例が増えてきた事、あたりがその主要因。

 また、留学から戻ってきたIT人材は、大規模なシステム開発に関われる銀行等の金融機関のシステム部門に就職するか、大学教授の道を選ぶ傾向が増え、IT企業に勤めたり起業したりするケースがまだまだ少ないのが実情です」と語る。優秀な大学卒業生や海外留学から帰国した人材は 、ITに関するかなり高い基礎能力とビジネスレベルの英語能力をほぼ全員が備えている。カンボジアで何らかITシステム開発を行いたい場合は、優秀なカンボジア人IT人材をしっかり押さえてマネジメントしているIT業者に出会える事が肝要だが、まだまだその数は少ないようだ。
123 カンボジアのHR・コンサル①へ続く


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