【建築・内装】
(119 カンボジアの建築・内装①から続き)
カンボジアは高い経済発展を背景に、強い購買力を持ち始めた人々がまず最初に求めるものは良い家だ。プノンペン市郊外では、特にボレイと呼ばれる住宅街の開発が数多く進んでいる。住みやすい環境に恵まれ、買い手が土地所有権利を持てる点が人気だが、全てのボレイが計画的に建設され、同じ価格で売られている訳ではなく、選ぶうえで留意点もある。
地元富裕層に人気のあるボレイ、オーキデヴィラのキエウ・サシリップ氏は、「なかには土地のほとんどが細かく分割されており、緑やレジャースペースがほとんど無いボレイもあります。ボレイは土地を個々で所有しているため、追加改修などが雑然と行われ、ボレイの全体的な雰囲気を壊してしまうなど、何が起こるかほとんど制御できません。また多くの購入者は保守や修繕費用を出したがらず、道路や公園のような供用スペースが置き去りになりかねません」とボレイの留意点を語る。しかし、できるだけ良いボレイを選ぶ方法として、同氏は、「まずデベロッパーの評判と実績を調査し、場所がニーズや条件に合うか。デザインや供用スペースや設備の見取り図から、どのようにメンテナンスするのかを確認します。大事なのは、売買契約書を理解し、全ての条項と内部条件、特に支払条件が最適かを確認することです。あなたが支払う価格は、あなたが得る価値です。支払う価格よりもあなたが得られる価値が高いものを選んでほしいです」と付け加えた。
住宅街の開発に日系企業からの参入も活発化しており、サービスアパート等を運営するタマホームカンボジアのマネージングダイレクター、上田武範氏は、「カンボジアでは住宅街を造って販売する分譲型をやりたいです。中間層から富裕層の間くらいの月1,500ドル以上を稼いでいる人をターゲットに、7万ドルから最大15万ドルくらいで買えるものを目指します。また、日本の次世代住宅のようにハイスペックにしていきたいです。最近できた住宅でも設備が乏しいので、どんどん提案してきたいです。またソーラーパネルも良いですね。日射量が日本の1.5倍程あり発電効率が良いので、電気代の高いカンボジアでは喜んでもらえると思うんです」と抱負を語る。
一方でコンドミニアムを購入するカンボジア人の多くは、学校や空港、市内中心部へ簡単にアクセスでき、素晴らしい景観や設備を持つ、都会的で世界基準のライフスタイルを楽しみたいと思っており、もちろんそのほとんどが、キャピタルゲインや賃貸収入目的も含まれる。オーキデヴィラの場合、ボレイ内のコンドミニアムの9割以上の購入者が、若くて知識を持ち、海外を知っている現地人だという。
センチュリー21・メコンのチレク氏は、「カンボジアの高齢者の習慣や文化では土地を持ちたがり、コンドミニアムに住むことを好みません。コンドミニアムがそれぞれ分かれた居住スペースを持っていることすら理解していない人もいます。コンドミニアムを買う地元の人のほとんどは投資が目的です。コンドミニアムに住むことを好む外国人に貸すためです。しかし3年後には若い世代が文化の変化を受け入れてコンドミニアムに住むようになるでしょう」と語った。
国土整備・都市化・建設省の調査によると、プノンペンの2015年6月の建設業界の人件費は、設計者と建築士は日給15~20ドル程度、作業主任者も日給15~20ドル程度、熟練労働者で日給8~9ドル程度、非熟練労働者は日給5~7.5ドルで雇われており、前年に比べてわずかながら上昇している。建設業で労働力が不足している理由として、カンボジア国内の建設ラッシュと、より高い賃金を求め労働者がタイなどへの流出が挙げられる。
VトラストのCEO、クイ・ヴァット氏は、「国内でスキルを身に付けることができれば国内で高い賃金を望めるようになるので、国外へ労働者が逃げるというのも減るのではないかと思います。賃金上昇も必要ですが、まずはスキルアップが必要ではないでしょうか」と語る。また、10年以上の実績を持つ内装会社、イエローツリーインテリアのバーニー・ダーキン氏も、「ワーカーの質はまだまだ問題があると思います。今プノンペンでは多くの建設が進んでいるのと関係し、現場経験が無いもしくは少ないワーカーが来るケースが多く、ワーカーの質は以前と変わらないと言えます」と語る。
電気技師、配管工や溶接工などの職種をカンボジアで採ることは非常に困難であり、また多くの場合は想定より技術レベルが低く、英語での円滑な意思疎通が困難である場合が多い。熟練労働者は圧倒的に不足しており、品質や仕上げに関しては許容できるレベルにはほど遠く、一定の品質を求める場合は時間と資金を用意しなければならない。
建物を建設する場合、様々な手続きが必要だが、その中で最も困難なのが国土整備・都市化・建設省の建設許可だ。困難な理由として手続きが非常に遅いことがあげられる。また、所管法令等の改正箇所が当局職員に周知徹底されておらず、窓口で受理されても稟議中に申請内容の不備を指摘されて申請をし直すという状況を繰り返すため非効率的でもある。
既にプノンペンで2棟コンドミニアム建設の実績があり、さらにプノンペン中心街に都市型高層タワーコンドミニアムを建設するタニチュウ・アセットメントの谷俊二氏は、「役所との建設許可ライセンス関係が非常に難しいことですね。建設するために必要なのは、まずはソンサック(地域)へこの場所で工事を始めますという許可です。1ヶ月半くらいの審査期間で了解を得ると、工事等に着手することができますが、今度はどんな建物を建てるか、日本でいう建築確認が必要です。これは大きさによってプノンペン市だけの許可で良いものや、高層マンションのように延べ床面積が3千㎡以上の場合は国土整備・都市化・建設省に許可が必要です。カンボジアは日本の昭和43年までの姿と似ていますね。日本はそのころまで都市計画法がなく、容積率の規程は昭和47年施行からでした。カンボジアもどんどんルールができていますが、そのことが上層部の人間しか知らされていないこともあり、後になってから注意を受けるなど、なかなか申請が通るには時間がかかります。でも経験を積ませてもらったおかげで建設申請業務のノウハウを得ることが私たちはできました」と申請の苦労を経験しながらも前向きに気持ちを切り替える余裕が垣間見れた。
(121 カンボジアの建築・内装③へ続く)