カンボジアに進出する日系企業のための
B2Bガイドブック WEB版

2015年11月9日
カンボジア進出ガイド

【運輸・物流】

090 カンボジアの運輸・物流①(2015年10月発刊 ISSUE03より)

陸海空 Transport by land, sea and air

089 カンボジアのマーケティング・メディア③から続き
 内陸国であるカンボジでは、陸路、海路、空路、水路それぞれの運搬手配が可能となり、状況に応じた使い分けができる。海路であれば、まずはシハヌークビル港経由が主要ルートとして挙げられる。国内唯一の深海港で、日本の支援により整備され、カンボジア全体の物量の60%を扱う重要港でもある。河川港であるプノンペン港は、寄港可能な船舶サイズの制限はあるものの、メコン河を経由してベトナムのホーチミン港やカイメップ・チーバイ港への内陸水運航路として重要性を増している。

 空路での主要港はプノンペン国際空港とシェムリアップ国際空港の2空港である。いずれの空港からも日本への直行便は就航されず、日本へはタイ、シンガポール、ベトナム、マレーシア、香港、台湾などでの乗り継ぎ便での手配となる。現状、フレイター(貨物専用輸送機)の定期就航も無いため、航空各社が各々のフライトで利用する機体によって、一般貨物の積載可能サイズが変わってくる。

 陸路としては、タイ側からであれば、ポイペトかコッコン経由、ベトナム側からはバベット経由が現状での主要ルートとなるが、国道1号線のネアックルン橋の開通でプノンペンとホーチミンを結ぶ物量が増えると予想される。また、日本政府が南部経済回廊整備を支援しており、無償支給のネアックルン橋を始め、2020年までには国道5号線を改修し、全4車線化となる予定。

 他に、プノンペン・ポイペト(タイ国境)を結ぶ北線、プノンペン・シハヌークビルを結ぶ南線を有する鉄道路線も存在するが、線路の整備状況から運航速度も極めて遅く、現状では一般貨物の輸送手段としての選択肢には入らないだろう。

 日本政府はカンボジアの国土開発・隣国とのコネクティビティの一層の支援を強化するため、高速道路網の整備等の案件化や物流の活性化を通じた投資促進を支援する事を表明しているが、道路、港湾、空港、鉄道、それぞれの経路も含め、未だ発展途上であるため、利用環境に対するさらなる改善が待たれる。

特恵関税制度 Generalized System of Preferences

 カンボジアは後発開発途上国として輸出に対する特恵を与えられている。GSP(特恵関税制度)※1 もその一つで、日本で製品を輸入する際に特恵関税率を使用し、多くの商品を免税で輸入できる事がカンボジアの注目されている理由の一つだ。関税、人件費などを含め、トータルコストを見たときに、近隣諸国と比較してコストメリットが出るという考えの下で各社が進出している。

関税とカムコントロール CAMCONTROL and Customs Duty

 カンボジア独自の制度として、輸出入手続きに関税とは別にカムコントロール※2 に貨物検査料を支払い、手続きをする必要がある。物流業界で30年の経験を持つトーマスインターナショナル・サービスのゼネラル・マネージャー、クリストファー・トーマス氏は、「関税は財務省が管理している一方で、カムコントロールは商業省が管理しています。このような二重の管理があらゆるものに適応されている事でコストもかさみます。これがカンボジアの一番の特徴です」と語る。海外24拠点を持つ鴻池運輸プノンペン駐在員事務所の高林洋平氏も、「二重行政になっている税関とカムコントロールが一番の問題です。通関料にも関わってくるため、トータルの物流コストを高める大きな要因となっています」と述べる。



 一方、世界37カ国に拠点を持ち、カンボジアには2007年に進出した韓国系物流会社、パントス・ロジスティクスのキム・ソンモ氏は、「税関内部の仕組みや法自体が明確ではないため、明確な判断を出してくれないケースが非常に多いので、その都度税関に問い合わせをしなければならない状況です。したがって、税関法等に対する十分な知識があり、不明確な部分に対しては税関と話し合うことができ、何かしらの解答を出せる能力が必要となります。この一連のプロセスをきちんと理解、実行できれば余分なコストはかかりません」と語る。

 この問題は日・カンボジア官民合同会議※3 でも去年より継続的に取り上げられてげられている。商業省担当官の公式説明では、輸出は繊維製品、輸入は特定品目のみがカムコントロールの貨物検査の対象となり、ASYCUDAシステム※4 によってハイリスクと評価された物についてのみコントロールを行うとの事。しかし、実際には輸出入される全貨物に対し検査料がかかっているのが現状である。この背景には、管轄省庁が異なる事による利権問題も絡み、簡単には改善されそうもない問題ではある。総合的に見るとカンボジア側のデメリットどころか新規ビジネスの参入障害にもなり得るが、2015年7月の官民合同会議でも特に進展は見られず、迅速なカンボジア政府の対応が待たれる。
091 カンボジアの運輸・物流②へ続く



※1 一般特恵関税制度(GSP: Generalized System of Preferences):開発途上国・地域を原産地とする一定の農水産品、鉱工業産品に対し、一般の関税率よりも低い税率(特恵税率)を適用、あるいは無税にすることによって、開発途上国・地域の輸出所得の増大、工業化の促進と経済発展を支援するという先進国による国際的途上国支援制度。

※2 カムコントロール(CAMCONTROL): 商業省傘下の輸出入貨物検査機関。貨物検査は税関とカムコントロールが個別に行う。

※3 日・カンボジア官民合同会議: 在カンボジア日本国大使館とカンボジア日本人商工会の会員企業が共同でカンボジア政府に対し、投資環境改善提案を行う官民合同会議。日本からカンボジアへの投資促進を話し合う場として 2009年より定期的に開催されている。

※4 ASYCUDAシステム: Automated SYstem for CUstoms DAtaの略で、UNCTAD(国連貿易開発会議)が開発した電子税関システム。


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