【IT・通信】
(081 カンボジアの建築・内装③から続き)
カンボジアの携帯通信市場は小さいながらも急拡大を続けており、競争環境も苛烈な状況が続いている。カンボジア郵便電気通信省の発表によると、2014年6月末時点で携帯電話契約数は2,000万件を突破。総人口約の1.3倍以上だ。 この急成長市場をめぐり多くの通信キャリアが参入してきたが、2013年から合従連衡の波が一気に押し寄せている。
2013年初頭には8社存在した通信キャリアだが、同年1月~3月までの間にタイとカンボジア政府との合弁キャリアであるエムフォンの経営破綻(モビテルが吸収)とハローアクシアタ及びラテルスの経営統合(スマートアクシアタ)が起こり2社減少、その後新規参入1社が加わって2013年末には合計7社となり、2015年3月には業界4位のビーラインが1位のメットフォンに買収される事がリリースされた。 2015年4月現在の3強と言えば、ベトナム系キャリアであるヴィッテル(Vittel)を母体とするメットフォン(加入者数約740万、シェア約45%)、マレーシア系キャリアであるアクシアタを母体とするスマート(契約者数約470万、シェア約30%)、カンボジア有力財閥ロイヤルグループとルクセンブルグ系MCIの共同出資によるセルカード(契約者数約310万、シェア約20%)があげられる。
新興勢力である中華系キャリアも勢強い。Cootelブランドを展開する中国の信威通信産業グループは世界的に採用事例の少ないMcWiLL方式に対応した端末の販売を手掛ける。端末のラインナップはスマートフォン、タブレット、フィーチャーフォン、据置型電話、データ通信専用端末まで揃え、カンボジアでは通信サービスから端末の開発・販売まですべて同グループでてがけている。ExcellブランドのGT-TELLを買収してカンボジアの移動体通信事業に参入したシンガポール系South East Asia Telecomグループは2015年7月からSEATELブランドとして4G LTEサービスの提供を開始。カンボジア初のVoice Over LTE(VoLTE)による通信方式を導入するという。
小さな市場で競争が激化するなか、各通信キャリアは進化する顧客ニーズの取り込みに必死の様相だ。2009年4月に8番目の通信キャリアとしてスタートし、その後積極的なM&Aにより業界2位にまで駆け上がったスマートアクシアタのトーマス・ハント氏は、「我々の業界は常に投資が必要で顧客の変わるニーズに対応する必要があります。最近は2Gだけの提供では生き残れませんし、4Gだけの提供でも生き残れません。近年は通話やSMSよりもLINEやフェイスブック等データネットワークの需要がどんどん増えているので会社としては顧客の要求に応える必要があるのです」と語っている。また同氏は、「弊社はデータネットワークの投資に力を入れてきました。4Gの導入もしました。それ以外ではスマートミュージック等のエンターテインメントコンテンツや保険のサービスを開始しました。保険はこの1年で加入者が10万人となりました。基本的なテレコムサービス提供以外にコンテンツを増やす努力をしているところです」と続けた。
インターネット環境も良好だ。主要市内の主な飲食店やホテルでは無料WiFiが当然のように設置され、ほぼどこでも当たり前のように高速インターネットが利用できる。
インターネットサービスプロバイダー(ISP)の競争も苛烈だ。データ通信サービスが自由化された2002年以降、新規参入は増え続け、2015年初頭時点で許認可を受けたISPは39社にのぼるが、実際にサービス提供しているのは15社程度と言われる。
業務用ISPに特化し法人顧客基盤を拡大しているイージーコムのポール・ブランシュ・ホルゲン氏は、「テレコミュニケーション業界は健全なペースで発展していると感じます。カンボジア人も新たなサービスやテクノロジーに素早く適応しています。例えばEzecomでは今年の初めにカンボジア初となるクラウドマネジメントシステム、ibizCloudをビジネスユーザ向けにリリースしました」。また自社でも毎年投資しているという海底ケーブルについては「MCT(マレーシア・カンボジア・タイ)海底ケーブルプロジェクトでは当社もパートナーを勤めますが、シンガポールで9月に開催された2015年海底ケーブルネットワーク世界会議をもって正式に締結されました。この完成はその接続域とこれまで以上の選択肢の拡大が、通信業界にとって大きく流れを変えるものになると思います」と語っている。
日系企業として初となるISPラインセンスを取得したNTTコミュニケーションズプノンペンオフィスの宮崎一氏も、カンボジアのISP市場は先進的でありながら競争環境は厳しいと語る。「通信設備の普及が近年急速に進んだため、比較的新しい設備・技術が導入された事も特徴として挙げられます。例えば、企業向け通信ではほとんどのアクセス回線が光ファイバー化されており、タイではまだ半数以上が銅線のアクセス回線を使っているのとは対照的です」。
とはいえ顧客にとって重要な“ネットへの繋がりやすさ”は事業者によって大きな質の違いがあるようだ。同氏によると「似かよったプランに見えても、実際使用してみなければスピードがどれぐらい出るかわかりません。何メガというようなプランを契約しても、それはオフィスや自宅から最寄りの通信局までの速度であって、そこから先のネットワークの設備によって速度は変わってきます」。数多くのISP事業者からどれかを選択する場合、しっかりと設備とトラブル時のメンナンスサポートが備わっているかどうかを推し量る必要がありそうだ。
カンボジアにおけるウェブサービス開発やシステム開発といったIT関連サービスはいまだ黎明期の段階と言える。
日本で言うところの「SIer(システム・インテグレー タ)」と呼べるようなレベル・規模の事業会社は、カンボジア現地資本では現状ほぼ皆無だ。ウェブ関連でいえば、法人ではなくITに詳しい個人が数名の小規模でホームページ制作等のサービスをやっている程度。システム開発でいうとオラクル系を担ぐシステムベンダーもいたりマイクロソフトも支店を構えていたりするが、現地カンボジア人ができる事はローカル営業と簡単なハードウェアの納入・設置程度であり、少し難しい開発系になってくるとインドやマレーシアあたりから外国人エンジニアが極めて高い人月単価とともに派遣されてくる。カンボジアに進出している日系IT企業も、ITとはいえその事業内容としてはPCを使った単調作業(シンプルな入力業務やマウスのクリックだけで対応可能な業務など)を低賃金のカンボジア人を多数採用して処理する事でコストメリットを図るビジネスが多く、進出メリットの源泉は製造業のそれとあまり変わらない。
そんなIT黎明期のカンボジアでも、優秀なIT人材はまだ少数とはいえ確実に育ちつつあり、高度な開発もこなせるIT企業も産声を上げ始めた。独自のルートで優秀なカンボジア人IT人材を集め、スマートフォンアプリやウェブシステム開発などを行うJCITの髙虎男氏はこう語る。「自社内の業務システムを開発する場合であっても、対外的なウェブサイト構築やウェブマーケティングを行う場合であっても、使用者や利用者がカンボジア人である場合、日本企業として求めるクオリティを維持しながら如何に現地向けに最適化(ローカライズ)するかが極めて重要になります。社内業務システムを開発するにしても実際にそのシステムを使うのは現地スタッフでありインターフェイスが彼等にとって分かりやすいものである必要があります。現地消費者に向けた対外サイトやウェブマーケティングであればなおの事、言語や好み・感覚も含めたローカライズは必須です。日本人とカンボジア人の感覚をIT用語でどうすり合わせられるか、その巧拙が開発後の運営の段階で結果の良し悪しを大きく左右します」。
まだ数は少ないが、カンボジア人の中でも優秀な大学卒業生や海外留学から戻って来た人材は ITに関してかなり高い基礎能力を持っておりほぼ全員がビジネスレベルの英語を使いこなすと言う。優秀なカンボジア人IT人材をいかに集めマネジメントするか、もしくはそういう人材を擁するパートナーに巡り会えるか、IT成否の要諦となりそうだ。
(083 カンボジアのHR・コンサル①へ続く)