【金融・保険】
(072 カンボジアの法律・税務・会計③から続き)
カンボジア国内では米ドルとカンボジア通貨のリエルが流通しており、経済取引の大半がドル決済である。通貨リエルへの信頼が十分でないだけでなく、外国為替に関する規制がほとんどないこともドル化促進の要因の一つと考えられる。世界で10数行しかないAA格付けを持つ国際的金融機関、ANZを親会社にもつANZロイヤル銀行のグラン・ナッキー氏は、「カンボジアでのビジネスは、ほぼ完全な米ドル経済です。リエルは税金の支払いや両替の手段として使われていますが、取引量の5%ほどしかありません。ですから、現在は金融業界や支払手段においては米ドルが問題なく使えます」と語る。為替変動は投資の際の大きなリスクとなり得るが、カンボジアではそのリスクが低くなるため、米ドル基準の経済は、投資家にとって安定的だと言えるが、一方で中央銀行のいわゆる「最後の貸し手」として機能などに制限を与えることにも繋がり、行き過ぎたドル化はカンボジア経済に長所と短所を供していることを認識しておきたい。
なお、地方における少額な取引の場合にはリエルを利用することが多く、盆や正月前はカンボジア人の多くが地方に帰省し一時的にリエルの需要が高まることから、ドル安リエル高になる傾向がある。
近年、為替市場のリエル相場は1ドル当たり4,000~4,100リエルと安定的に推移している。市中銀行や両替商ではその日の変動レートで通貨交換がなされるが、実際にドル建ての少額取引をリエルで支払う場合、便宜上、1ドル当たり4,000リエルか、取引先が個別に定める固定レートで計算され、もっぱら現金による直払いがなされる。しかし、法人のように取引額が高額になる場合などは小切手が比較的頻繁に利用される。
ANZロイヤル銀行の山口紗世氏は、「カンボジアは、まだ多くの決済で現金と小切手が使用されています。法人口座でも多くのお客様は小切手振出ができる口座をご利用されます。ただこの小切手がきれる口座は、日本でいういわゆる当座預金口座と全く同じものではありません。日本で行われるような審査や当座預金開設約定といったものはありませんし、小切手を切らずに現金引き出しが可能です。また、利子はつきません。」と述べている。
カンボジア中央銀行(NBC)のチェア・チャント総裁のリーダーシップにより、近年のカンボジア銀行業界は急速に発展している。今年末のASEAN経済統合を控え、国内35の商業銀行は更なる変化に向け競争力を高めている。カンボジア人による銀行の利用促進対策やビジネスにおける融資商品の利用促進、公教育における銀行システムの紹介、更にはカンボジアリエルの利用促進など、中央銀行のたゆみない努力により銀行サービスの周知徹底と利用拡大に繋がっている。
カンボジア最大の銀行としてマーケットリーダーの地位を維持しているアクレダ銀行のイン・チャンニー氏は、「カンボジアは人口や国の規模に対しての金融機関数は多いと感じています。2014年は業界全体で対前年比28%増と強い成長でしたが、当行は対前年比35%増でした。経済的にも政治的にも安定しており、アジア開発銀行による今後数年のGDP成長見通しも良いので、しばらくは安定すると見られています」とカンボジアの堅実な成長について述べた。また同氏は、「新たな国に参入するときは経済、社会、政治の安定をまず見るべきです。あとは投資貸付があるか。資本取引もドル建てなので安心できます。カンボジアは地理的に今後ASEANの中心に成長し得ると感じています。近隣諸国は独自通貨ですし、外国企業向けの投資貸付が無いところも多いです。当行は外国人による預金残高も多いので、外国企業向けの投資貸付が実現できるのです」と続けた。
また、マレーシアに親会社を持ち、カンボジアの外資銀行で最大の資本規模であるカンボジア・パブリック銀行のパン・イン・トン氏は、「所得比率の上昇、高学歴者の増加で顧客の見識も高まっており、要求も細かくなっているため、銀行の選択にも厳しくなっているように思います。銀行を選ぶ時はその銀行の資本力と実績や顧客サービスの評価、さらに革新的な金融商品の有無が基準にされています」と語っている。
カンボジア中央銀行の発表資料によると、商業銀行35行のうち総資産額上位4行(アクレダ銀行、カナディア銀行、カンボジア・パブリック銀行、ANZロイヤル銀行)で市場シェアの4割を占めている。また、市中には銀行の支店やATMを多数見つけることができるとともに、本来は貸し付けが主たる業務であるマイクロファイナンス機関の中にも預金業務のライセンスを持つ機関も複数あるため、競争が激化していることが伺える。
ここ数年の金融業界の状態について、ANZロイヤル銀行のナッキー氏は、「競合が増え、価格競争が激しくなるに従い、商業銀行が以前のように利益を出すことは難しくなりましたが、利用者にとっては良い状況になったと言えると思います。手数料や利息が下がり、サービスの効率が上がり、質も良くなりました」と語っている。
(074 カンボジアの金融・保険②へ続く)