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法務・税務・会計

2017年12月05日

東京コンサルティングファームの熊谷氏が語る、現在のカンボジアの会計環境について

世界27か国に拠点を持つ会計事務所、東京コンサルティングファーム。専門的な会計や税務の知識をもとに、カンボジアの日系企業の経営サポートを行う。そんな東京コンサルティングファームの駐在日本人会計士、熊谷恵佑氏(写真左)がカンボジアの会計事情について語る第二弾。


 みなさん、こんにちは。東京コンサルティングファームの熊谷です。今回は、現在のカンボジアの会計環境についてお伝えしたいと思います。

 前回、会計には3つの種類があって、「財務会計」「管理会計」「税務会計」があるという点をお伝えいたしました。しかしながら、カンボジアでは、この3つが同じような重要性を以て、浸透しているかといえば、そういうわけではありません。
 
 一言でいえば、「税務会計重視の会計環境」といえます。その点について、これからご説明させていただきたいと思います。

☆税務会計重視の会計環境とはどのようなものか

 これには色々な要素があると思います。簡単に言えば、会計を税務署に提出する書類という認識が強い状況を、税務会計重視の会計環境ということができると思います。

 カンボジアでは、なぜこのような状況が起きているのでしょうか。3つの視点を設定して考えてみましょう。

・制度的な問題
 まずは、制度面で考えてみましょう。カンボジアにおいて、開示の適正性を担保する日本の会社法のような規定はありません。ですから、債権者や株主保護などは念頭においておらず、決算書は会社の状態を適切に表す必要性に乏しい状況となります。つまり、決算書は税金を算出するための単なる根拠資料という位置づけにしかならないということです。ほとんどの会社は税法の規制しか受けることがないため(監査対象はものすごく少数割合)、税法に準拠することを考えますし、税金をどれだけ少なくするかという観点が最重要課題ということになると思います。

・資源的な問題
 カンボジアは、一般的にはまだまだ所得が低い国であると言われていますし、その割には意外と物価が高いとも言われ、なかなか利益が出にくい環境ともいわれています。ですから、多くの会社で利益を出すことに苦労しているという状況が散見されます。そのような環境の中では、必然的に会計など管理機能にかかるコストを削減したいという会社の思惑がでますので、会計周りの管理に費用などを割かない傾向が出てきます。そうなると、法的に規制されている税法のみの対策にとらわれることになり、「財務会計」「管理会計」に関しては手薄になるといえると思います。

・言語・文化的な問題
 カンボジアは、日本にとっては異国であり、言語的、文化的に違いがある国といえます。したがって、そこから出るコスト、つまり言語・文化的差異があるゆえに、余計にかかるコストも考慮しなければなりません。特に日本は単一民族の国でもあることから、外国語でのコミュニケーションに慣れていないケースが非常に多くあります。ですから、日系企業は、その問題にまずは対処しなければならず、必然的に会計にかかるコストは後回しにしてしまうという傾向があります。

 これら3つの要因を考慮してみました。こうして考えてみると、カンボジアにおいて、日系企業がコスト認識をしなければならない事柄が多くあり、財務会計・管理会計の分野までなかなか踏み込めていない実情が見えてくるように思います。

 しかしながら、ここでみなさんにお伝えしたいことがあります。それは、やはり会計を財務会計、管理会計として用いなければ、宝の持ち腐れになってしまう可能性が非常に高いということです。

☆現状のカンボジアの会計状況 どこがもったいない?

 カンボジアにおいて、会計ソフトとして良く使われている「クイックブックス」というソフトがあります。多くの日系企業でそれを使用していますが、このソフト、非常に会社の状況が見にくいソフトであると思います。したがって、この形式で出していると、会社の状況を決算書から読み取るという作業が、非常にストレスがかかり、会社の状況を把握する前の段階、作成しただけで終わってしまうというパターンが往々にして存在すると思います。

 また、税務会計重視の会計で回していると、決算書は会社の収益性を適切に反映しない基準で作成することも許容されることから、やはり、会社の状況を決算書から把握し、即座に意思決定を行い、改善するというこのプロセスがうまく機能しないことになります。

 もちろん、管理会計も弱いですから、経営者が管理するための情報も上がってこず、そのためにそれに付随した改善プロセスもうまく機能しないということになります。

 すなわち、財務会計・管理会計が弱い会計というものは、会社の状況を的確に把握することができず、適切に改善することができないという点が最大のデメリットなのです。会計は数少ない会社の状況を客観的、数値的に知り得る価値の高いデータです。これほどコンパクトに会社の状態がまとめられた資料はありません。ぜひともこの会計を有用に用いて、自社の経営をより良いものにしていきましょう。会計と経営は相互に密接にリンクしており、切っても切り離せない関係であるのです。

☆今後のカンボジアの会計環境の展望

 現状のカンボジアの会計環境は、今までお伝えしてきましたように、会計制度自体が未成熟であり、「税金を申告するための会計」という意味合いが非常に強い状況となっています。

 本来なら、債権者、株主保護のために決算書が適切に会社状況を反映するような規定が存在し、それに伴って、監査役や内部監査、外部監査のようなその規定を担保するような制度が伴っているのが理想的であるといえるでしょう。しかし、カンボジアに関しては、一応はIFRS(国際会計基準)に準拠する旨は規定されていますが、実際のところ、運用面での規定が弱く、監査役という制度もないですし、外部監査が義務付けられているケースも非常に限られています。それは上場企業の数が極端に少ない(5社程度)ということも関係が大いにあります。

 しかしながら、経済的発展が進んでいるのも事実であり、今後、カンボジアの資本市場もますます活性化されていくことでしょう。それに伴い、株主や投資家を保護するために会社情報の透明化の需要はますます増えることになり、会計の適切な開示を目的とし、様々な規定が整備されていくことでしょう。また、会計監査の対象も増えていくことと思います。それに伴い、会社は「税務会計」だけではなく、「財務会計」「管理会計」を重視せざるを得なくなると思います。それは確かに、会社にとって負担になるという側面もありますが、会社の情報を適時に取得し、適切に分析を行い、意思決定をするという会計の本来の役割の価値に焦点を当てることができる一層の契機になると思います。ぜひ、今から、会計のそのような役割に着目し、戦略を持った経営を行っていただければと思います。

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