「キリロム工科大学は、もともとは日本の学生さんのためにデザインしたものなんです」そう驚くべきことを語るのは、Forbesジャパンや日経電子版にも取り上げられ、今カンボジアで最も注目されている経営者、猪塚武氏。プノンペンから車で2時間の場所で『カンボジアのシリコンバレー』とも噂される、最先端のITを実践で学ぶ大学『キリロム工科大学』を運営している。
しかし、同大学はカンボジア人のための社会貢献的なものではなかったのだろうか?そんな声が聞こえる中、来年度からは日本人の学生も受け入れるという。日本の教育に対する思いとは。世界で戦える日本人になるメリットとは。話を伺った。
キリロム工科大学は、日本の高等教育はどうあるべきかという一つの答えなんです。
学校設立当初は、日本の教育自体が変わらなければいけないという危機感がありました。日本ではこんなに大学が余っていて、全員大学に入れるのに、ほとんどの大学は世界についていけていない。それを正す、実験校としてのキリロム工科大学です。最近、話題になっている『国家戦略特区』。その教育版を国の外に作った感じですね。
我々のモデルは、日本の教育界がまさに教育改革として行いたいと考えている、全寮制でイノベーションに特化した大学です。教育界の有識者の議論の集大成と、キリロム工科大学内でのブレインストーミングで成り立っています。
また、日本では大学へ行っても勉強しないのは普通です。しかしキリロム工科大学では朝から晩まで勉強します。失われるものは青春。ただ代わりに得るものは、卒業する際の圧倒的な技術力と高い初任給、そして共に寮生活で切磋琢磨した学友との人的ネットワーク。つまり、世界へ飛び立てる切符ですね。
キリロム工科大学の開始から3年たち、確かな実績ができました。現在スポンサーは11社、マッチング面談後に学生のレベルの高さに刺激を受け追加で奨学金を出してくれるスポンサー企業も出てきています。そこで、来年の4月から日本人の学生を受け入れ、インターナショナルスクールの第一歩を踏み出します。現在は、カンボジアの学生だけなので、日常会話はクメール語です。しかし、日本の学生が入学し、共同生活を行うことで、日本人もカンボジア人も英語が格段に上手くなるでしょう。
入試には、一般入試と推薦入試がありますが、日本の提携校との推薦入試をすでにスタートしています。また、日本人の入学時期は4月で(カンボジア人が11月入学)、日本人はカンボジア人よりも圧倒的に英語ができないため、その間は英語の勉強を行います。
例えば、想像してほしいんですが、日本の学生が高校を卒業し、英語でITを学んで、アメリカのシリコンバレーで働けたらいいですよね。でも無理なんです。なぜかというと高校まで英語きちんと学んでないからです。キリロム工科大学は、語学スクールが学校の中に組み込まれています。入学当時は英語ができなくても。4年間カリキュラムを受けていれば、語学学校に通う必要がなく、英語が自然とできるようになります。
また、日本の大学でもITを教えられる人はいますけど、ITを英語で教えられる人はいません。キリロム工科大学の先生はインド人、アメリカ人、フィリピン人で、授業は完全に英語で行われます。
日本には文部科学省の基準があるので、大学は学科の定員をむやみに増やせません。そのため、日本のベンチャー企業は常にエンジニア不足です。また、エンジニアを採用しても日本語しかできないため、世界中のエンジニアとコラボレーションすることはできません。完全に時代についていけてないですよね。
もう1つの特徴は、日本ですごく賢い人がいてもスタンフォード大学にいけません。なぜならば、お金が高いからです。キリロム工科大学は、生活費を入れて4年間で約500万円程度。日本で一番学費が安いのは琉球大学ですが、我々には卒業時の奨学金があるので、これを受け取れば琉球大学より安いです。生活費は、寮費と食費に加えてプノンペンまでの往復が年間18回。月に1回は、プノンペンのイオンモールに買い出しにいくようなイメージですね。
しかも、500万円のうち、きちんと卒業すればインターンシップの対価として250万円ほど減額され、さらに我々のスポンサー企業に就職すると全額戻ってきます。採用する企業側としては、素養があれば、学生の親がお金持ちかは関係ないわけです。
ちなみに、カンボジア人の学生は、学費も生活費もすべて奨学金で賄われています。しかし、我々のスポンサー制度で学校に通うと、奨学金を出してくれるスポンサー企業に就職する必要があります。また、カンボジアの法律で、我々が斡旋できる国は、日本・タイ・マレーシアに限られています。しかし、日本学生支援機構の奨学金を受けると、スポンサー企業に就職すれば奨学金が戻ってきますし、自分の努力次第では、シンガポールでもアメリカでもどこの企業にも就職できます。ただし、両親が日本の非居住者だと、学生支援機構の奨学金を受け入れられません。そういう方にはカンボジアモデルの全額奨学金を考えています。
もう1つ大きな変化として、先生が家族で来ることを想定した受け皿として、日本で小学生向け進学塾として有名な花まる学習会さんと一緒にインナーナショナル小学校を作ることになりました。先生が世界中から集まるため、せっかくだから家族で来てほしい。花まる学習会さんは日本全国で教室を展開し、小学校とも連携している有名進学塾です。
初年度は30人の入学を予定していますが、すぐに定員になりそうなほど好評を頂いています。世界中から人々は集まりますが、もちろん日本人のお子さんも対象です。特に、現在プノンペンにお住まいで、ただ中学は有名な進学校を受験したい。そう言う場合には最適ですね。両親と一緒に来た場合、両親に仕事を提供できますし、小学生1人で来る場合は、花まる寮もあります。小学校の全寮制もヨーロッパには多いです。
この小学校は、日本語もきちんと学べるインターナショナルスクールです。そのため、お子さんを多国籍・マルチリンガルにしようと思ったら、失敗して無国籍になったということがありません。もちろん、小学校でもITを学びますよ。英語と日本語とITと遊び。また、学費は年間40万円をきるので、ほかのインターナショナルスクールよりも安価です。こちらは、9月入学です。
キリロム工科大学の学生寮は、今流行りの言葉を使うと『クラウドファンディング』モデルで成り立っています。学生寮は投資家やスポンサー企業によって建てられます。学生寮として、1つの建物に4名入室すると、利回り8~10%です。現在、利回り目的で寮を買う人は少なく、純粋にキリロム工科大学や学生を応援したいという気持ちの方が多いです。ただ、カンボジアの定期預金がドル建てで5%程度なので、利回りがより低かったら応援してくれる人も少なかったかもしれません。キリロム工科大学は大きなプロジェクトなので、学生寮に投資をして下さる方が増えると学校はどんどん大きくなります。購入者の方の中には、こちらに来ると学生たちと交流をされる方も多いですね。
学生は、奨学金で学費と生活費を賄い、加えてインターンシップを行うことで経済的価値を生み出しています。いわばアルバイトをしながら、大学に通う。まさに苦学生ですよね(笑)。ただキリロムの場合、そのアルバイトが授業と密接に紐づいています。企業としては、どんな人を採用したいかというと、仕事ができる人です。先生が学生を評価するのではなく、インターンシップにより、成果を納品することで評価される。実際にインターンシップも数多く動いています。スポンサー企業にとっても、学生にとっても、まさにドリームスクールなんです。
早稲田大学理工学研究科を卒業後、東京工業大学で修士を取得。アクセンチュアを経て1998年に株式会社デジタルフォレスト社を設立。WEBアクセス解析の分野で日本シェアトップまで育て2009年にNTTコミュニケーション社に事業売却。
2011年12月よりA2A Town (Cambodia) Co., Ltd.を設立。高原リゾート、大学、産業クラスターを含む「リゾート学園都市vKirirom」を経営する。世界的な起業家組織EO(Entrepreneurs’ Organization)の日本支部会長、アジアの理事も務めている。
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