(c)Ippei Tsuruga
マイクロファイナンスは貧困層の所得水準の引き上げに効果なし
カンボジアの現地紙プノンペンポストが、研究機関による「ショッキング」な調査結果を伝えた。これは、国際的な研究者ネットワーク「経済政策パートナーシップ(Partnership for Economic Policy: PEF)」が実施した調査で、カンボジア国内の11村を対象にマイクロファイナンス金融機関(MFI)から融資を受けた世帯と、受けなかった世帯の所得を比較したもの。その結果、両グループの所得にほとんど差が認められなかったようだ。
具体的には、農外自営業収入(農業以外の自営業を営む人々の収入)に関しては、低所得者層は借り入れによるメリットを生かすことができなかった。これは、低所得者層がMFIから小額融資を受け、農業以外のビジネスをスタートすることがいかに難しいかを示しているようだ。
さらに同紙が有識者のコメントとして伝えたところによると、「担保として土地の登記証明を提示できない低所得者層が優遇金利で借り入れることは難しく、相対的に不利な条件で借り入れざるを得ない」ようだ。
マイクロファイナンスが貧困削減政策の全てではない
PEFのホームページを探してみたが、該当する調査結果はまだダウンロードできないようだ。詳細はレポートの公開を待つ必要があるが、その際にいくつか確認したいポイントがある。
まず、この記事だけではサンプル対象地域がわからないため、調査結果がどの地域に対する政策提言なのか。もし、カンボジア国内全域を網羅する政策提言なのであれば、サンプル方法が理にかなっているか。
また、記事中の有識者も指摘しているように、マイクロファイナンスが全ての貧困層にとって良いものではなく、必ずしも利益を享受できない者もいるだろう。担保にするアセットが無い人が優遇金利で借り入れることは、マイクロファイナンスの仕組みからして難しく、借り入れて起業したところで全員がうまくいくわけでもない。マーケットメカニズムの中で、成功する人もいれば失敗する人もいる。
マイクロファイナンスを根拠もなく擁護するわけではないが、大切なことは金融セクターがマイクロファイナンスというツールを使って貧困層に「一つの選択肢」を提供しているということだ。一方、社会保障や雇用政策を通じた貧困リスクの低減は、政府の役割として重要であることは疑う余地もない。
マイクロファイナンスが貧困層にとって効果がないのであれば、貧困層に対する政府の役割は相対的に大きくなり、融資を有効活用できる低・中所得層をマイクロファイナンスが後押しすればよい。今回のレポートの提言を受けてMFIは落胆も憤慨もする必要はない。むしろ、どの所得階層・地域をターゲットにするのが最も効果的なのかを検討する材料として有効利用できればよいと思う。
外部リンク