カンボジア貿易成長、数字の裏にある構造的要因とは
DHLの最新報告書『DHL Trade Atlas 2025』において、カンボジアは世界8位の貿易量成長率を記録した。特筆すべきは、新興国・後発開発途上国(LDCs)の中でもカンボジアが最上位である点である。2019〜2024年の年平均成長率は6%、そして2024〜2029年には9%へ加速する見込みである。
だが、この急成長は何に起因するのか。レポートでは明確な言及はないが、カンボジア経済の中核を担う縫製産業、靴・衣料品の輸出が貿易量の増加に大きく貢献していることは明らかである。特に、米国・EU市場への輸出が全体の7割を超えることから、これら先進国の消費回復と需要の安定が追い風になった可能性がある。また、中国からの生産拠点シフト(チャイナプラスワン戦略)によって、カンボジアへの投資流入が加速した点も見逃せない。
一方、DHLレポートではASEAN地域全体が今後の貿易成長エンジンであるとされ、特に東南アジアでは南アジア、サブサハラ・アフリカと並び、世界平均(3.1%)を大きく上回る5〜6%の成長が期待されている。
米中の低迷、世界経済に与える影響
注目すべきは、米国(108位)と中国(109位)という貿易大国がランキング下位に沈んでいる事実である。これは、両国の市場成熟と、米中貿易摩擦に代表される地政学的リスクによる成長率の鈍化が影響している。特に米国では、2024年にトランプ大統領が再選されたことにより、45%の対中関税案を含む新たな保護主義政策の可能性が高まり、企業側も慎重な姿勢を取らざるを得ない状況にある。
とはいえ、レポートは「貿易成長の鈍化はあっても、貿易量そのものが減少する長期的な傾向は見られない」とし、世界貿易が持つ回復力を強調している。
今後のリスクと展望
カンボジアにとって、貿易成長は雇用創出や外貨獲得の柱だが、一方で輸出品目の多様性欠如、インフラ未整備、電力不足といった構造的課題も抱えている。今後の持続的成長には、高付加価値産業への転換やFTA(自由貿易協定)の活用拡大、物流インフラの近代化が不可欠である。
また、地政学的リスクの高まりや先進国市場の成長鈍化に備え、多角的な貿易パートナーシップの形成が求められる。カンボジアが現在の勢いを維持するには、数字だけでは測れない制度的基盤の強化とイノベーションが鍵となる。