2016/12/012
(前回の続き)
――カンボジアの医療環境について教えてください。カンボジアの医療従事者のレベルについてどう思いますか
林祥史(以下、林) 最近はどんどん良くなってきています。やはり医師や医療者が大量に虐殺された、1970年代のポル・ポト派の内戦の影響が今も色濃く残っていました。諸説ありますが、生き残った医師は46人しかいなかったという説もあります。学校や病院も全部壊されて機能しなくなりました。それが40年前ですが、一度そうなると、専門職ですのでなかなか十分に整っていかないというのが現状です。日本から見るとまだまだ教育・知識・経験面で様々なものが不足しています。
そんな中、カンボジアの先生はみなさんモチベーションが高く、海外留学などで実績を積んで帰ってきた先生もいますので、現状はそういった先生が少しづつ質を上げていっているという状況です。
――カンボジアの医療教育はどのような体制なのでしょうか
林 医師や看護師の国家試験ができたのが、ここ2、3年です。それまでは医学部を出たら医師になれて、看護学校を卒業すれば看護師になれるという状況でしたので、資格の部分での質の担保などは甘かったと思います。
医師になってからの専門教育はここ10年くらいで少しづつ整ってきたという段階で、脳外科の専門医教育は3年前に始まったばかりです。4年間のコースなので、カンボジア人の脳外科専門医はまだ一人もいません。今脳外科で働いている先生は18人カンボジアにいますが、みなさん留学して帰ってきた先生たちです。WHOなどそれぞれの専門の世界機構が支援して成り立っているので、ようやく整備され始めてきたという段階です。数も圧倒的に足りません。全部署の医師数も、病院数も、教育もまだまだ追いついていませんね。
私たちも積極的に大学と提携し、実習病院として医学生や看護学生などの医療の専門学生を受け入れる予定です。
――プノンペンの医療アクセスは、外国人にとって良いと言えるのでしょうか
林 外資系の病院という意味では我々が初めてではなく、タイやベトナムの病院もありますし、クリニックであれば日本も含めて色々あるので、保険を持っていたりお金を払えるならば、軽い病気の場合にも病院に行けないということはないでしょう。
ただ重症だったり緊急の場合は日本とは全く異なり、きちんと見られる病院は無いでしょう。特に外傷の場合は救急車で運んでほしいところですが、救急搬送制度もしっかりしておらず、救急車が走っていても全然避けてくれないし渋滞も酷いです。現地の人も救急車を呼ばずに自分の車で行きたい病院へ行きます。そういった意味では、不十分といえば不十分ですね。
交通事故の場合は、国の救急を呼ぶというのがルールとしては一応あります。けれどそれ以外の場合でしたら、救急病院は各自救急車を持っていますので、番号に問い合わせて来てもらうか、自分で来てもらうというのが現状です。国の救急は119番で来てくれますが有料で、ドライバーによっては値上がりする場合もあるようです。脳卒中についてですが、日本だと救急ですぐ治療して助かることもあります。こちらでは、脳卒中を専門的に見る病院は我々が初めてです。
――脳卒中にはどういった人がなりやすいのですか
林 高齢の方がなりやすいですが、高血圧や糖尿病などの持病がある人は注意が必要です。以前も偉い人が脳卒中になって、急いでシンガポールまで運ばれて手術してリハビリして帰ってきたということがありました。その方はたまたまシンガポールまで行く余裕があったのでしょうが、ほとんどの場合は行くまでに亡くなってしまったりします。つまり、お金があるから助かるというわけでもなく、カンボジアには医療が足りないということです。
――そういう点で、海外搬送件数を減らすことに貢献できるのですね
林 そうですね。海外搬送は誰にもメリットがありません。患者さんからしても交通代の他に海外の方がもちろん治療費が高いですし、国としても税金など全て海外に流れるので、国内で診察できないというのは損失です。医療者も、カンボジアの病院に患者さんが来てくれないと経験ができず育ちません。教育という意味でも、カンボジアの偉い方々は我々の病院を応援してくれています。(取材日2016年8月)
(次回へ続く)