2018年12月17日
――自己紹介をお願いします
留守卓也(以下、留守) サンインターナショナルクリニックに勤めています、留守と申します。専門は耳鼻咽喉科です。日本ではそれ以外の資格もとっていますが、基本的には耳鼻咽喉科の専門家としてカンボジアに来ています。
――カンボジアで医療に従事するきっかけはなんでしょうか
留守 だいたい四年くらい前になりますが、ジャパンハートという日本人が運営しているボランティア組織に属しているタイの友人に誘われたのがきっかけです。日本での仕事を維持したまま、こちらで医療貢献ができるということでジャパンハート・カンボジアに属しており、現在はカンボジアに年に数回ぐらい来ています。ミャンマーやラオスでのボランティアの場合は、移動時間にかなり割かないとならないので、日本でも仕事をしている私にとってはなかなか難しいところがあります。時間があれば行きたいのですが。
―――カンボジアの医療の現状は教えてください
留守 カンボジアはNPOの活動が盛んな国なので、いろんな国の医師が入っています。一般医療は内戦の時に途絶えましたものの、現在ではローカルの医師も出てきています。ただ専門医療の教育までには至っていない状況です。カンボジアは今、医学が学べる施設もあり、ローカルの医療人材が育ってきていますが、専門医療の教育が無いです。脂がのっている四十歳代後半以降の例えば大学教授やベテランクラスの医療従事者などがごそっと抜けているイメージですね。
プノンペンは都市化が進んでいるので、病気の質が変わってきています。途上国特有の感染症としてマラリアやデング熱という病気は、都市部では改善されている一方で、それに変わって、先進国でもかかるアレルギー性疾患や慢性的な病気が増えています。
両方に対応するたけの医療のパワーが無いというか、プノンペンでは先進国でしか見られない病気にかかる患者もいるので、幅が広すぎて追いついていません。外国人の患者もたくさんいらっしゃいますが、このクリニックに来る方の病気は、日本でも普通にみられる病気です。よく言われているのですが、衛生状態がよくなると今度はアレルギー疾患が増えます。私がカンボジアと関わってからの四年間の間に病気の質が変わっています。外国から来た医師、医療関係者、もちろん国内の医療関係者もそうですが、それを理解する必要があります。
――カンボジアへ来る前、来た後に留意しておくことはなんでしょう
留守 感染症対策ですね。日本肝炎やA型肝炎、もちろん狂犬病とかもそうですし、あと子供の時に摂取したワクチンの効果が薄れている可能性もあります。まずはワクチンだと思います。
感染症や風土病に対する対策はもちろん大事ですが、食生活が大きく影響されますので、やはり肥満対策は必要なんじゃないでしょうか。カンボジア人は痩せている方が多いですが、外国人は太る方が多い気がします。日本での食生活とだいぶ違いますので、気をつけたほうが良いですね。ときどき健康診断をしておいた方がいいと思います。
――プノンペンの薬局、薬は大丈夫でしょうか
留守 薬局が乱立していますが、現地の人に聞くと、良い薬局、悪い薬局を分けているようです。ちゃんとした薬を出してくれているかどうか、保存状態が悪い薬局もあります。偽薬については、カンボジア自体ソーシャルネットワークが大好きで口コミが強いので、そこまで心配しなくても良いと思います。むしろ、一般の方でも自由に薬が買える状況ですから、いらない薬まで飲んでいることはあります。例えば抗生物質は普通ひとつで十分なのですが、何種類も飲んでいたりして普通では考えられないことがあります。
これは、病院での治療が高額であるのと、医療がまだ信頼されてないということの裏返しです。医者の選択について基準がわからないので、医師が外国人であることが一つの差別化になっています。そのため、現地で治療を受けず、ベトナムやタイの病院へすぐ行ってしまいます。
セルフメディケーションは、薬局が信頼できないと意味がありませんので、信頼できる薬局かどうかという情報が必要になるでしょうね。
――将来のカンボジアの医療について一言お願いします
留守 ボランティアとして医療活動を始めたわけですが、一方で経営的側面も大事だと思います。依存的で援助が普通になってきているなか、医療は確かにある程度お金がかかるので援助が必要だと思いますが、一定の地域に医療サービスを継続的に提供していくためには経営的側面が必要だからです。
また、日本的なブランドが強く求められ、医療の信頼性というところでカンボジアの国民が悩んでいる中、日本人が提供してくれる医療が信頼の証になっていることを考えたら、日本を大事に考えてくれる人たちのために、医療を続けていくことは大事だと思います。