2018年7月23日
――外国人の多様化を受けて、医療の現場では、どのような変化が起きていますか
野々村秀明(以下、野々村) サンインターナショナルクリニック(以下SIC)がプノンペンで開業して4年が経過し、私が常勤医になってまだ1年半ですので、長いスパンでの評価はできていませんが、カンボジアの医療事情に関してかなり理解が深まりました。
日本で暮らしていると充実した公的医療保険制度がありますから、医療機関にはいつでも比較的安価にアクセスできるイメージがあります。ただ海外では医療費を負担する制度が異なったり、海外旅行傷害保険に未加入であったりすると、医療機関を受診するのに躊躇するかもしれません。
最近、当クリニックでも日本人以外の患者さんが増えてきましたが、体調が悪くなった時の受診動機・タイミングは国籍・医療保険の有無などにより異なります。ギリギリまで我慢することで症状が悪化し、逆に治療期間が長くなり、トータルの治療費が増加してしまうことも考えられます。
また、日本人の患者さんでも十数%は診療費をカバーする保険に未加入もしくは、クレジットカード付帯の海外傷害保険が適用できないケースも見られます。さらに緊急時の連絡先も分からない個人旅行者や、感染症のワクチン未接種の長期滞在者も多いことから、もしかしたら以前よりも無防備な状態で海外に渡航する人が増えてきているのかもしれません。
――一方で、変わらない部分もあると思います。どのような事ですか
野々村 やはり依然としてカンボジアにおいては、医療全般に関する情報不足があるのではないでしょうか。発展途上国に長期滞在する外国人は健康上の訴えが多いにもかかわらず、あまり医療機関を受診していないという調査報告があります。これはおそらくカンボジアでも言えることで、患者さんは受診したくても、自分の症状に合った医療機関や専門医を見つけられていないのかもしれません。しかも診療内容に満足していない可能性もあります。私たち医療関係者は病院間連携を取りながら、カンボジアに滞在する患者さんのニーズに合った情報を定期的にアップデートする必要性を感じています。
―――今年のカンボジアのデング熱の感染症数は、昨年同時期の症例数350人を2倍以上上回る800人以上となり、ピークシーズンはまだ続くと予想されています。貴クリニックではいかがでしょうか。また、防止策はありますか。症状が出てしまった場合の対処策は何かありますか
野々村 はい。今年2月にプノンペンポストが報じていたように、カンボジア保健省は2018年にデング熱が急増する可能性を警告しています。これは、デング熱は通常5~6年周期で急増するデータがあり、実際、今年になってプノンペン市内でも感染例が多く報告されているためです。また、特に蚊が発生しやすい雨季には患者数が増加しますので、今後、在留邦人も十分な注意が必要です。ちなみに、SICでも1月にドイツからの旅行者1名にデング熱と診断しています。
デング熱の症状ですが、突然の高熱・頭痛・関節痛・筋肉痛・倦怠感などで、解熱時には全身に発疹が現れることもあります。一般的な風邪症状と似ていますが、デング熱の場合、喉の痛みや咳といった呼吸器症状はあまりないようです。また、時には症状がほとんど出ないことがあるため、デング熱にかかったことに気づかないケースもあります。そのため、デング熱の2回目の感染、つまり別タイプのデングウイルスに再び感染した場合には重症化する恐れがありますから、私たちは重症化のサインを見逃さないように努めています。
次に、デング熱対策ですが、インフルエンザと違ってワクチン接種は実施されていません。ご存知の通りデング熱は蚊に媒介されるウイルス感染症ですから、場所・時間帯を問わず、蚊に刺されないことが重要です。さらに自宅周辺では蚊を発生させないために、小さな水たまりを放置しないように気をつけてください。
――カンボジアは先進国と比較し、まだまだ不衛生な場所は多いです。どういった点で気をつけたら良いでしょうか
野々村 SICで日本人旅行者や在住者の診察をしていると、急性上気道炎・気管支炎などの呼吸器疾患と急性胃腸炎・下痢症などの消化器疾患が7割以上を占めています。そして次に皮膚疾患・アレルギー疾患などが続いています。これらを見ると、やはり日本とカンボジアの生活環境の違いから体調を崩される方が多いようです。
私の実感として、カンボジア在住歴の短い人ほど、大気汚染による咽頭痛や不衛生な飲食による下痢症などを患う傾向にあるようです。特に若い人は自分の健康を過信することなく、現地の生活に慣れるまでは少々コスト高でも安全で清潔な生活環境を整えることが大切だと思います。