カンボジア北西部、タイとの陸路国境の街ポイペト。古くよりタイとカンボジアをつなぐ交通の要衝として多くの多くの人が旅や行商のために行き交い、大量の物資が流通する陸路交易の交錯点として長く栄えてきた。一方、タイ国境とカンボジア国境に挟まれた「不思議な空間」にはいくつものカジノホテルやレストランが林立し、カンボジア領に属しながらも実質タイ経済に占拠された猥雑な歓楽街の様相も呈する。
カジノと国境交易で栄えてきた混沌の街ポイペトが今、「タイ+1」を狙う製造業にとっての新たな生産拠点として脚光を浴び始めており、その原動力となっているのは日系製造業の果敢な進出だ。清濁合わせ飲む陸路国境のカオスからアジアの工場として脱皮できるのか、今その過渡期にあるポイペトの現状に迫る。
サンコーは現在フェーズ1(販売面積21ヘクタール)が稼働中で、入居および入居予約済みの企業でほぼ半分が埋まっている。今後予定されている第2フェーズは販売面積32ヘクタールであり、合計面積は53ヘクタールを予定している(商業地区まで含めた総開発予定面積は83ヘクタール)。豊通テクノパークはフェーズ1のうち4ヘクタールをおさえており、主に自動車関連部品メーカーにサブリースする形の賃貸工場を運営している。
今後さらにサンコーへの誘致活動を続け、入居合意企業が増えれば、さらに追加で場所をおさえる形で拡張していく方針だ。つまりトヨタグループ企業や関連取引先企業に対するサンコーの営業活動を実質的に豊通テクノパークが担っている形となる。実際、豊通テクノパークの賃貸工場の第一期建屋には既に5社の企業の入居が決まっており、これは現サンコー入居企業の6割超を占める。第一期は残り1区画を残すのみとなっており、入居企業の誘致は堅調に推移している。
豊通テクノパークが入居企業に提供するサービスは、サンコーの賃貸工場での製造業を潤滑に運営するために必要な一切の業務の代行サポートだ。賃貸工場スペースの確保から現地法人設立登記、労働者確保・教育・派遣、さらには共用キャンティーンでの給食提供までと、企業が諸面倒事やストレスに苛まれることなく工場操業を続けられるための下支え機能を担っている。
通関コストが不透明なまま高止まりしている現状への打開策にも手を打っている。豊通テクノパークは2017年に入り自ら通関ライセンスを取得。エージェントに頼らず独自で通関手続を行える資格を得ている。現実問題としてエージェントと通関職員との蜜月関係が蔓延る現状では、資格を得たからとはいえ即座にブラックボックスに切り込めるとは限らない。しかし徐々に間合いを詰めながら内情に踏み込んで行き、適正コストによるあるべき通関手続に近づけることもできるはずだ。
このように日系企業が国境貿易の深部にまで大きく踏み込んでいくことはポイペト国境貿易実務の透明化、健全化におおいに奏功するに違いない。
また、代表的な日系SEZとして知られるPPSEZも、昨年カンボジア証券市場に上場して調達した資金を元手にポイペトに新たなSEZを開発することを公式発表している。敷地はサンコーの第2フェーズ用地に隣接したエリアで総開発面積60ヘクタールを予定。 サンコーの第2フェーズ予定地まで含めると、ポイペトに合計143ヘクタールの日系SEZが誕生することになる。
ポイペトの輸出入取扱量は急増を続けており、特にタイ側のアランヤプラテートでは通関待ちの貨物トラックが慢性的に長蛇の列を作る状況となっている。この事態緩和のため2018年には現在の国境とは別の場所にトラック専用ゲートが設置される予定で、タイ側ではそのゲートに至る片側3車線のバイパスを現在造成中だ。カンボジア側ではそのゲートに至る国道58号線の延長工事が行われ、この国道はまさにPPSEZ予定地の横を通る予定となっている。
サンコー及びPPSEZからトラック専用ゲートへのアクセスは極めて良い状況になるはずで、入居企業のロジスティクコストのさらなる低減につながることだろう。
ASEAN経済共同体(AEC)が2015年12月末に発足し、その後期待された程のスピードは感じられないまでも、ASEAN域内でのヒト・モノ・カネの移動の自由度は着実に増して行くはずだ。そのASEAN域内をつなぐ主要幹線道路計画の中で、ポイペトはホーチン=プノンペン=バンコクをつなぐ南部経済回廊の要衝に位置することになる。
日系SEZおよび製造業が先行して進出し、活発な入居企業誘致活動のみならず国境貿易実務の透明化にまで尽力している現在のポイペト。日系進出企業の貢献によってポイペトが従前の混沌とした伏魔殿から精緻に整備された陸路国境の要衝へと進化していくことを期待したい。
なお、本稿に記載させて頂いたポイペトの現状に関する内容は全て、本稿執筆時現在およびその前後一定の期間内において筆者本人が実際に経験・確認した事実に基づいている。しかし今まさに激動の変貌期にあるポイペトにおいては、これらの事実情報の陳腐化も極めて早いはずだ。本稿をきっかけにポイペトに興味を持って頂いた読者の方々には、本稿情報を過度にあてにすることなく、ポイペト現地に実際に赴き、その時々の「今」を体感して頂くことを強くお勧めしたい。
昨今その存在意義そのものが厳しく問われている日本の農協は、戦前から戦後、そして高度経済成長時代、日本の農業発展に大きく貢献した農業組織でした。GDPの3割を占めるカンボジア農業の現況は、まさに農協を必要としていた当時の日本の農業の姿と重なります。
JCGroupは2008年創業以来の主要事業であるカンボジア農業に日本の知見・ノウハウを導入、「古き良き日本型農協」の機能をカンボジアに実現させ「Made by JC(Japan & Cambodia)」によるカンボジア農業の産業化に貢献することを目指しています。
http://jcgroup.asia/
早稲田大学政経学部経済学科を卒業後、日本の大手監査法人、戦略コンサルティング兼ベンチャーキャピタル(一部上場企業 執行役員)を経て、2008年カンボジアにて「JCグループ」を創業。日本公認会計士・米国ワシントン州公認会計士。
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