2025年6月1日から、シンガポールはカンボジアを非伝統的労働市場(Non-Traditional Source, NTS)リストに追加し、一部の業種・職種でカンボジア人労働者の雇用を可能にする。これはシンガポール人材省(Ministry of Manpower)の決定によるもので、同国の労働力のスキル向上と強化を目的としている。
現在、NTSリストに含まれる国はバングラデシュ、インド、ミャンマー、フィリピン、スリランカ、タイであり、対象となる業界は建設、海事造船、プロセス産業、特定の製造業およびサービス業である。2025年9月1日には、NTS対象職種として「インド料理レストランの料理人」の代わりに「大型車両運転手」「製造業オペレーター」「料理人」が追加される予定である。
NTS労働者を雇用する企業は、NTS職種に限り、外国人労働者比率を全労働者の8%以内に抑える必要がある。また、雇用する労働者には最低月額2,000ドルの固定給与を支払う義務があり、就労許可証に記載された職種のみに従事させることが求められる。
カンボジア人のシンガポールでの労働市場参入
シンガポールではすでに、カンボジア人が家政婦(メイド)として合法的に働くことが認められている。カンボジア政府は2014年に家政婦派遣を一時禁止したが、2017年にシンガポール政府との合意により再開され、適切な手続きを経ればカンボジア人メイドの雇用は合法となった。
現在、カンボジア人メイドは、フィリピンやインドネシア出身の家政婦よりも比較的安価な労働力として注目されており、シンガポール国内のエージェントが積極的にカンボジア人メイドの紹介を行っている。雇用主には、外国人労働者税(Foreign Worker Levy)として月額約300シンガポールドル(2人以上の雇用で450シンガポールドル)が課せられる。
シンガポールの労働力不足の背景
シンガポールは出生率の低下と高齢化による深刻な労働力不足に直面している。同国の合計特殊出生率(TFR)は2023年に0.97と過去最低を記録し、人口の自然減少が続いている。さらに、若年層の労働力供給が減少し、高齢者の増加によって経済全体の生産性が低下する懸念が高まっている。
こうした状況を受け、シンガポール政府は外国人労働者の受け入れを拡大する方針を打ち出している。特に、建設業や製造業などの肉体労働を伴う職種では、地元の労働者が敬遠する傾向が強く、外国人労働者に依存せざるを得ない状況が続いている。ローレンス・ウォン(Lawrence Wong)首相は、経済成長を維持するためには、外国人労働者の受け入れを継続しなければならないと強調している。
カンボジア人労働者の需要増加
シンガポールでは従来、バングラデシュやインド、ミャンマーなどからの労働者が主流であったが、新たにカンボジアをNTSリストに追加することで、多様な労働力を確保し、依存国の偏りを減らす狙いがある。カンボジアは若年人口が多く、東南アジア諸国の中でも労働力供給国としての重要性が高まっている。
また、カンボジア人海外労働者による本国送金額は昨年約29億5,000万ドルに達し、約138万人が海外で働いている。カンボジア人労働者の需要は東南アジアおよび東アジアで拡大しており、タイ、韓国、シンガポール、日本などでの雇用が増加している。