アジア開発銀行(ADB)は、2024年発行の『カンボジア経済多様化』(Cambodia’s Economic Diversification)において、カンボジアが2030年までに上位中所得国(upper-middle income status)になるためには、人材開発が重要であると指摘した。特に、国内の教育および職業訓練の改善が経済成長の鍵となると強調している。
報告書によれば、2014年版以降、カンボジアの労働力は一定の進展を見せたものの、他の東南アジア製造拠点と比較して労働生産性が依然として低い状況にある。ただし、若年層が多い人口構成により、カンボジアは新たな経済機会に対応できる豊富な労働力を有しているとされる。2021年の労働力人口は約910万人に達し、労働力参加率は83.7%であった(カンボジア国家統計局調べ)。
主要雇用セクターとしては、農業が引き続き最大であり、2022年時点で国民の75%が農村部に居住していることが影響している。しかし、農業の占める割合は2010年の55%から2021年には39%に減少しており、製造業、特に衣料品製造業が近年の新たな雇用機会の主導的役割を果たしている。製造業における雇用は2010年の16%から2021年には25%に増加した。一方、サービス業の雇用も2010年の29%から2021年にかけて増加している。
しかし、新型コロナウイルス感染症の影響で、観光業やサービス業といった新興産業の雇用は大きな打撃を受けたとされる。また、労働市場は労働力の供給量に問題はないが、その質に課題があると指摘されている。多くの労働者が農業や非正規サービス業に従事し、生産性や収入が限定されている状況が続いている。
報告書は、産業生産の拡大と経済多様化を実現するためには、教育や職業訓練の全国的な改善が必要であると提言している。また、「構造転換の新たな段階」として、既存のサプライチェーン内で付加価値の高い商品を生産するためのセクター内の専門化が必要だと述べている。この転換には、政府の政策改革だけでなく、民間セクターが主体的に世界の製造サプライチェーンへの新しい関与を創出することが求められるとした。