【飲食・観光】
カンボジア政府は2018年、620万人の観光客を誘致すると発表し、カンボジアの観光旅行者は増加の一途を辿っている。2018年の1月から9月にかけてカンボジアを訪れた観光客は、430万人に達し、前年同期と比較して11.8%の増加となった。なかでも140万人の中国人がカンボジアを訪れ71%も激増した。
また、忘れてはいけないのがカンボジア人による国内旅行の増加だ。カンボジア人の海外旅行は10%増え、140万人に達し、多くのカンボジア人が気軽に国内、海外旅行を楽しめるようになってきている。
カンボジア観光省プロモーションマーケティング部の西村清志郎氏は、「カンボジア人による国内旅行者数は毎年上昇しており、連休などのタイミングでは宿泊施設不足などの問題も起こっています。またローカル向けの新しいリゾート開発や観光地開発も増加しており、中には環境問題を引き起こしているケースやオーバーツーリズムとなっているケースも見受けられます。今では彼らの所得が上がることによって、カンボジア全体の観光業の流れが変わり、そのため、現在閉鎖されているカンボジア各地の空港も再稼働し、近い将来、気軽に地方都市に行き来できるようなインフラができてくると思います」と語る。
観光客の旅行先の一番人気はアンコールワット遺跡群だ。アンコールワットは、2017年に続きトリップアドイザーの「2017人気世界遺産ランキング」で1位に選出され、その人気は衰えない。2018年1月から9月にかけ、190万人以上の人々がアンコールワット遺跡群を訪れており、観光客の約半数が訪れる。前年同時期と比べ8.5%の増加だ。これに伴いシェムリアップの寺院のチケット収入は、1億790万ドルに達し、対前年比72.5%の伸びだった。
観光客の残り半数の向かう先はカジノやシアヌークビルだ。プノンペンで唯一のカジノホテル、ナガワールドカジノでは、2017年の中国人訪問客数は前年比40%増、VIP顧客によるカジノの賭け金は142%増の211億ドルとなり、カンボジアの2016年のGDP(200億2000万ドル)の値を上回った。
プレアシアヌーク州は、2018年の上半期、130万人以上の観光客が訪れ、内訳は約100万人が国内観光客、29万782人が外国人観光客、そのうちの8万4664人が中国人観光客だった。
これは、観光ビザの緩和、中国語話者のガイドやスタッフの増加、中国語での道路標識表示など、中国人観光客の増加に対応する国家戦略が功を奏したと言えよう。しかし、利益を生む中国人観光客の恩恵を受ける一方、2018年1月から9月にかけ、近隣諸国からの観光客(ベトナム98万4000人、ラオス98万4000人、タイ23万9000人)は減少した。
また、2000年代初頭に多数を占めた欧米人観光客をターゲットにした人気飲食店の不振など、急速な観光客の変化に苦労する声も聞かれており、中国の強大な共産主義体制をバックにしたホスピタリティ業界への進出など、中国への一極集中に懸念を見せる有識者がいることも事実だ。プレアシアヌーク州のビーチは、かつては、世界の最も美しいビーチのひとつとされていたが、近年の中国系企業の開発プロジェクトにより、その状態が保てなくなっている。結果として、シアヌークビルへの中国人観光客、投資家の流入は、観光産業に悪影響を及ぼしている模様だ。
ホテルがカンボジアのホスピタリティ業界に重要な役割を果たしている。観光省によると2018年9月現在、カンボジアには現在800以上のホテルがあり、合計で46000を超える客室があるが、外国人観光客や国内観光客の増加に直面するため、今後10年間で少なくとも10万部屋が必要になると予測している。
またここ数年は、ビジネス旅行客の増加により2017年にはハイエンドホテルへの訪問者が増加し、世界的なホテルチェーンによる進出が目立つ。2018年2月にはローズウッドホテルズ&リゾーツによる5つ星ホテル、ローズウッド・プノンペンがプノンペンにオープンし、マリオット・インターナショナルがシアヌークビル沿岸に、2022年の完成を目指して388室の5つ星ホテルを建設すると発表した。
ホスピタリティ人材の育成に定評があるプノンペンのブティックホテル、サン&ムーンホテルのクロイ・リティ―氏は、ホテル業界の動向について、「近年は観光客とビジネスマンに分けられます。観光客は中心地の近くのホテルを探し、ホテルのレビューに大きく左右されます。そしてホテルのサービス、施設に大きな期待を持っています。ビジネスマンのほとんどは平日に宿泊します。彼らは高速インターネットなどの設備に重きを置き、出張の頻度が高いため、観光客に比べてよりホテル選びにこだわりが見られます」と語った。
政府は、毎年同国を訪れる約500万人の観光客の質と衛生を確保する努力の一環として、国内2000軒以上のレストランに営業許可証を発行しており、シェムリアップとプノンペンでは特に高品質のレストラン需要が増えており、2018年以降もその傾向は続く見込みだ。
カンボジアレストラン協会顧問のクオーチ・ソクリー氏は、「認可された飲食店の大半はプノンペンに位置し、他地域では高品質のレストランがない。この分野を開発する機会がまだまだたくさんある」と語る。
急成長する飲食業界の動向について、日本食品の卸業として老舗のダイシン・トレーディングの小池聡氏は、「日本食が以前と比べてカンボジアで広まっていると明確に実感しています。特にこの1年では、イオンモール第2号店がオープンしたことの影響が非常に大きいと感じています。プノンペン店と同様に日本食文化の発信基地になっており、モール内に10軒前後の日本食取り扱い店が開店しました。イオンスーパーにおいてもブッフェ形式で安価に日本食を楽しめるなど、多くのカンボジア人が気軽に手に取れる大きなきっかけになっていると考えます」と語る。
また、同氏は、「日本食のファンは非常に多く、提供の形が多様化して身近になって行く傾向はあるものの、未だ日本食は高級なものだという認識の方が大多数である現状です。日系店舗の更なる新規参入などにより中間所得層を含む皆様にとってより身近なものになって行く事を期待します。そのサポートが私共の役目だと考えています」と付け加えた。
生鮮食品を得意とする日系卸業ロカフード&ビバレッジの塩入伸雄氏は、「日本とカンボジア間を結ぶ直行便は時間帯サービスともに非常に便利な一方、他国のように複数の航空会社が路線を提供し競合している訳ではないので、航空運賃がタイ間やシンガポール間に比べて割高です。また、輸入に際し現地側での負担も少なくないため、それらが価格を上げる主な要因となっています。当社では各飲食店様のご要望をできる限り取りまとめて「量」を確保し、物流コストを相対的に下げる努力を実施しています」と食材の仕入れのコスト高について言及した。