【運輸・物流】
内陸国であるカンボジアは、陸路、海路、空路、水路それぞれの運搬手配が可能であり、更に、国内の経済発展や人口増加に対する需要をかなえるため、運送手段は拡大の一途を見せている。公共事業運輸省は、国内の物流インフラの拡大に関連した法案策定に向け、国際協力機関(JICA)や世界銀行と議論しており、特にコスト削減と輸送効率の向上を目指している。カンボジアは、過去15年間で物流部門の法規制の改革は進展がみられるものの課題は多く残っている。
また、物流・運輸業界においても電子化の動きが顕著で、カンボジアの大手新聞会社ポストメディアが、オーストラリアに本社を置く物流・流通の管理ソリューションサプライヤーと提携した。人工知能(AI)ロジスティクスと流通管理ソフトウェアを採用する予定で、配送の固定費削減やリアルタイムでの追跡が可能になるとしている。国内外への宅配便サービスを展開し、また国内の各地域には配達員を置くCLエアエクスプレスのアリス・チェン氏は、「新たな電子サービスとして、当社では宅配便追跡システムを導入しています。これにより利用客は貨物の状況をWebサイト上で確認することができます。オンライン販売がさらに増加すれば、ビジネスチャンスも増えるでしょう」と語る。今後一層、電子化を取り入れた多様な事業展開が期待される。
商業省によると、カンボジアの輸出額は2017年初めの9ヵ月間で、前年同期比17%増の77億ドルに急増した。うち、縫製業だけで49億ドルを占め、これは、関税の引き下げや免除により市場参入の機会が増えたことによる。カンボジア最大の市場であるEUは5.9%増の30億ドル、日本は25.8%増の5億3400万ドル、米国はカンボジアの政情悪化を懸念していたものの、5.6%増の22億8000万ドルとなり引き続き楽観的な兆候を見せた。しかし、米国との政治的関係は良好でなく、米国輸出については過去数年間でみると徐々に低下している。
そんな中、今年4月には米国の一般特恵関税制度(GSP)の延長が認められ、カンボジア輸出業者へは朗報となった。カンボジアは世界銀行の分類により低所得国から低・中所得国へと”格上げ”されたものの、引き続き国連からは後発開発途上国として分類されており、GSP(一般特恵関税制度)に加え、先進各国からの特別特恵関税制度により輸出に対する特恵を受けている。一般特恵のみが適用されている中国とベトナムと比較すると、カンボジアが有利になる品目は主要生産品である衣料品や履物など、多岐にわたる。関税や人件費を含むトータルコストを見たときに、近隣諸国と比較してコストメリットが出るという考えの下で進出する企業も多い。
世界最大のコンテナ船社・デンマーク企業のマースクラインを親会社に持ち、1992年にカンボジア法人を設立以来、トップを走り続けるマースクラインのトン・パン氏は、「昨今の物流コストの削減、汚職排除は、カンボジアの輸出製品をより競争力のあるものにし、常にカンボジア経済にプラスの影響を与えると考えています。昨年は、カンボジア政府のおかげで、インフラ整備の改善、非正規費用の廃止、物流費の調整など、多くの進歩が見られました。しかし、ASEAN諸国と比較して、カンボジアは依然として競争力があまり高くない。競争力を高めるため、港湾の生産性の向上、港湾・内陸部のインフラ整備、代理店システムの複雑さの軽減、物流手数料の調整、効率税関申告制度の強化に取り組むことが重要だ」と、今後の業界の発展について語った。
改善が図られる物流業界でも、政府が特に重要視しているのが、港湾と内陸水路輸送の開発だ。カンボジアの主要海路といえば、国内唯一の深海港シアヌークビル自治港が挙げられ、カンボジア全体の物量の約60%を扱う重要港だ。JICAの支援で2022年までにコンテナターミナルを拡張予定であり、新たに貨物輸送施設を備えると見られる。
一方、河川港であるプノンペン自治港は、メコン河経由でベトナムのホーチミン港やカイメップ・チーバイ港を結ぶ内陸水運航路として重要であり、コンテナ数は年々大幅に増加し、2017年の港を通過する貨物は前年比14%増の275万トンに、コンテナ数は22%増の18万4805TEUに到達した。
海運業界について、マースクラインのトン氏は、「2016年は過去最低の運賃率の記録や、当時世界ランク7位だった大手韓国海運企業、韓進海運の破産などがあり、合併や統合が加速しています」と、目まぐるしい変化について話す。
そんな中、水路輸送は他輸送経路に比べ安価だという利点から、カンボジアでも新しい取り組みが誕生している。公共事業運輸省は、メコン川沿いの内陸部に韓国国際協力団(KOICA)と共に港湾網を建設する計画を明らかにしており、また交通渋滞緩和と人材輸送のため、メコン川での水上タクシーサービスを開始した。水上タクシーは、プノンペン北部のプレイノフからカンダール州のタクマオまで25キロメートルの区間を5つの駅、所要時間35分で運行する。60名定員のボートが3~6つ使用され、就航当初は公共事業運輸省の管理下に置かれるが、その後プノンペン都に引き渡される予定だという。