【運輸・物流】
内陸国であるカンボジアは、陸路、海路、空路、水路それぞれの運搬手配が可能であり、状況に応じた使い分けができる。更に、国内の経済発展や人口増加に対する需要をかなえるため、運送手段は拡大の一途を見せている。海路であれば、シアヌークビル港が国内唯一の深海港で、日本の支援により整備された、カンボジア全体の物量の約60%を扱う重要港だ。2016年5月末までにはJICAのプロジェクトにより、経営改善・港湾オペレーションの効率化も図られ、港湾の競争力強化と物流機能の向上に繋がった。また湾を通過するコンテナの増加を受け、JICAの支援で2022年までにコンテナターミナルを拡張予定だ。河川港であるプノンペン港は、寄港可能な船舶サイズに制限はあるものの、メコン河を経由してベトナムのホーチミン港やカイメップ・チーバイ港への内陸水運航路として重要である。
空路での主要港はプノンペン国際空港とシェムリアップ国際空港の2空港である。プノンペン国際空港についてはANAによる成田からの直行便はできたものの、フレイター(貨物専用輸送機)の定期就航は未だ無いため、航空各社の機体によって一般貨物の積載可能サイズも異なり、日本向け航空貨物便の利便性の向上が今後も期待される。国内ではアンコール航空が今年3月に、国内初となるプノンペンからシェムリアップ、シアヌークビルへの国内貨物サービスを開始し、毎日4便で運航している。
陸路では、タイ側からであれば、ポイペトもしくはコッコン経由、ベトナム側からはバベット経由が現状での主要ルートとなる。2015年4月に開通した国道1号線無償支給のネアックルン橋(つばさ橋)を始め、日本政府はベトナム・カンボジア・タイを結ぶ南部経済回廊整備を支援しており、カンボジアの基幹道路である国道5号線も2020年までに改修、全4車線化する予定だ。プノンペンとバベット間、プノンペンとホーチミン間の高速道路建設も計画され、現在JICAによる調査が行われている。
鉄道はプノンペン・ポイペト(タイ国境)を結ぶ北線、プノンペン・シアヌークビルを結ぶ南線が存在する。更にカンボジアのバンテアイミエンチェイ州とタイのサケーオ県とを結ぶ鉄道路線が昨年度末に開通。鉄道輸送が有効に運用されれば、物流コストの削減により製品の市場価格が下がり、さらに輸送量も大幅に増加すると期待されるが、運行速度や関連施設の充実度の関係で、一般貨物の輸送手段としての選択肢には入らないのが現状だ。
カンボジアは世界銀行の分類により低所得国から低・中所得国へと”格上げ”されたものの、引き続き国連からは後発開発途上国として分類されており、GSP(一般特恵関税制度)によって輸出に対する特恵を受けている。これにより日本で製品を輸入する際に特恵関税率が使用され、一般特恵3540品目の他に2200品目を無税務枠で輸入できることも、カンボジアが注目されている理由の一つだ。関税や人件費を含むトータルコストを見たときに、近隣諸国と比較してコストメリットが出るという考えの下で進出する企業も多い。
カンボジアのもう一つの大きな特徴としてドライポート※1 が挙げられる。トーマスインターナショナル・サービスのゼネラルマネージャー、クリストファー・トーマス氏は、「基本的にドライポートには、広大な土地、倉庫、税関機能があります。他の国であれば、どの土地にも倉庫を建てられますし、そこからの輸出が可能です。カンボジアでは輸出をするためには二つの手段しかありません。一つ目は関税手続きを工場で行うこと、もうひとつはドライポートで行うことで、輸出に関する一連の業務が可能な場所というような意味しかないんです」と、語る。工場側でドライポートを経由せずに直接輸出手配できるような環境になる日も待たれる。
※1 ドライポート: 貨物の集配、通関業務、保管等を行う施設。税関機能も有している。プノンペン港はメコン河沿いの河川港で市街地に有るため、工場周辺に多数作られている。