【運輸・物流】
内陸国であるカンボジアは、陸路、海路、空路、水路それぞれの運搬手配が可能であり、状況に応じた使い分けができる。海路であれば、シハヌークビル港経由が主要ルートとして挙げられる。国内唯一の深海港で、日本の支援により整備された、カンボジア全体の物量の約60%を扱う重要港だ。2016年5月末までにはJICAのプロジェクトにより、経営改善・港湾オペレーションの効率化も図られ、港湾の競争力強化と物流機能の向上に繋がった。河川港であるプノンペン港は、寄港可能な船舶サイズに制限はあるものの、メコン河を経由してベトナムのホーチミン港やカイメップ・チーバイ港への内陸水運航路として重要である。貨物船交通量の急増に伴い、プノンペン港湾公社の貨物港拡張計画の前倒しが2016年3月に発表された。
空路での主要港はプノンペン国 際空港とシェムリアップ国際空港の2空港である。プノンペン国際空港については、2016年9月1日からANAにより、日本との唯一の直行便が成田から就航した。シェムリアップ国際空港への直行便はいまだ未就航だ。ANAの直行便はできたものの、フレイター(貨物専用輸送機)の定期就航はいまだ無いため、航空各社が各々のフライトで利用する機体によって一般貨物の積載可能サイズも異なり、日本向け航空貨物便の利便性の向上が今後も期待される。
陸路では、タイ側からであれば、ポイペトもしくはコッコン経由、ベトナム側からはバベット経由が現状での主要ルートとなるが、日本の協力によって2015年4月に開通した国道1号線のネアックルン橋(通称つばさ橋)も、プノンペンとホーチミンを結ぶ物量増加に貢献するなど、ベトナム・カンボジア・タイを結ぶ南部経済回廊の要所となっている。無償支給のネアックルン橋を始めとして、日本政府は南部経済回廊整備を支援しており、カンボジアの基幹道路である国道5号線も2020年までに改修、全4車線化する予定だ。
他に、カンボジアのバンテアイミエンチェイ州とタイのサケーオ県とを結ぶ鉄道路線が開通予定である。プノンペン・ポイペト(タイ国境)を結ぶ北線、プノンペン・シアヌークビルを結ぶ南線も存在する。鉄道輸送が有効に運用されれば、物流コストの削減により製品の市場価格が下がり、さらに輸送量も大幅に増加すると期待されるが、運行速度や関連施設の充実度の関係で、一般貨物の輸送手段としての選択肢には入らないのが現状だ。
カンボジアは世界銀行の分類により低所得国から低・中所得国へと”格上げ”されたものの、引き続き国連からは後発開発途上国として分類されており、GSP(一般特恵関税制度)※1 によって輸出に対する特恵を受けている。これにより日本で製品を輸入する際に特恵関税率が使用され、一般特恵3540品目の他に2200品目を無税務枠で輸入できることも、カンボジアが注目されている理由の一つだ。
一般特恵のみが適用されている中国とベトナムと比較すると、カンボジアが有利になる品目は主要生産品である衣料品や履物など、多岐にわたる。関税や人件費を含むトータルコストを見たときに、近隣諸国と比較してコストメリットが出るという考えの下で進出する企業も多い。
カンボジア独自の制度として、輸出入手続きの際に関税とは別にカムコントロール※2へ貨物検査料を支払い、手続きをする必要がある。2014年4月より流通・卸事業を開始し、食品や酒類、特に冷凍冷蔵食料品のラインナップに力を入れている、S.E.A.T.S.の峯島浩輔氏は、「カンボジアの物流コストが他国と比較して割高と言われる理由として、コストが余分に発生していることが言えると思います。例えば、製品の輸入には財務省管轄の税関と商業省管轄のカムコントロールという2つの関所を通すことが必要であり、追加の費用が発生しています」と語る。
物流業界で30年以上の経験を持つトーマスインターナショナル・サービスのゼネラル・マネージャー、クリストファー・トーマス氏も、「関税は財務省が管理している一方で、カムコントロールは業省が管理しています。このような二重の管理があらゆるものに適応されている事でコストもかさみます」と語る。
この問題は日・カンボジア官民合同会議※3でも2015年より継続的に取り上げられている。商業省担当官の公式説明では、輸出は繊維製品、輸入は特定品目のみがカムコントロールの貨物検査の対象となり、ASYCUDAシステム※4によってハイリスクと評価された物についてのみ検査を行うとのこと。しかし、実際には輸出入される全貨物に対し検査料がかかっているのが現状である。背景には管轄省庁が異なる事による利権問題も絡み、簡単には改善されそうもない問題だ。2015年7月、2016年3月・10月にも開催された官民合同会議でもカムコントロール料金の撤廃や、検査対象リストの見直しが提案されたものの特に進展は見られず、カンボジア政府の対応が待たれる。