【不動産】
(076 カンボジアの金融&保険④から続き)
2009年、世界同時不況がカンボジア全体の地価に影響を与え、ゴールドタワー42に代表されるいくつかのプロジェクトの建設が停滞または遅延した。2010年から再びカンボジアのGDPは増加したものの、地価は依然として下落傾向にあったが、2012年初頭から徐々に回復している。ボナリアルティの調査によれば、2012年の第3、4四半期には、プノンペンの住宅地で10~15%、商業エリアで10~16%増加し、2013年の第1四半期は、前年同期比で10~20%増加した。韓国、中国などの外国人投資家の投資行動がプノンペンはもちろん、カンボジアの不動産価格に対して重大な影響力を有しており、2014年にはプノンペンの主要なエリアで世界同時不況前の地価を超えるまでにいたっている。ローカル系不動産会社Vトラストのクイ・ヴァット氏は、「不動産業界は全体的に回復の兆候が見られます。都市部と地方の両方でアパートやオフィススペースの価格は15%~20%上昇しています。世界金融危機の間に下落した地価は、2010年初頭から都市部を中心として外資に牽引される形で回復し始めました」と語った。
プノンペン市内では、チャムカーモーン区のトゥールトンポン(TTP)とプサーダムコー(PDR)の地価が値上がりしている。この地域は、カラオケクラブやビアガーデンのような騒々しい娯楽施設があるにも関わらず、インフラ整備や新しいマンションやアパート建設の伸びにより、最大で30%高くなる現状も起きている。Vトラストのクイ氏は、「ボンケンコンの地価高騰がトゥールトンポンやプサーダムコーへの逃避に繋がっています。トゥールコークより中央に近く、より手頃な価格なのが魅力です」と述べた。
1997年創業のローカル系不動産会社CPLのチェイン・ケイン氏は、「ドーンペン区やトゥールトンポン(TTP)、トゥールコーク区、トゥーススバイプレイ(TSP) といった場所も直ぐにボンケンコンに追いつくでしょう」と将来の地価を予測した。
カンボジア経済及び不動産市場の安定的な成長を反映し、プノンペンのオフィス賃料は上昇している。ナイトフランクが発表している、アジア太平洋地域の主要な賃貸オフィスの指標では、2014年第4四半期の対前年同期伸び率の平均率が2.9%であるのに対し、プノンペンの一等地のオフィス賃料は実に26.8%増と大幅に上昇している。強い経済成長に投資しようとしている外国企業からの着実な需要を背景に、同年前期と比較しても3.2%増加している。
1993年創業の国際的な不動産会社、CBREのジェームス・パデン氏は、「オフィス物件の賃貸価格は今年に入ってから上昇が続いています。グレードB、C物件の需要が高まっているのも一因です。昨年はヴァタナックキャピタルの完成でグレードA物件の供給が一気に拡大したため、グレードB、Cに比べると価格上昇は落ち着いており、平均平米単価は28ドルとなっています。直近四半期では、高グレード物件への借り換えも積極的であることが見受けられます。今年の初めにホンコンランドより、開発面積18,500㎡の高グレードオフィススペースと13,000㎡の商業モールから形成される旗艦プロジェクトの発表がされたばかりです。既に本プロジェクトは多くの注目を浴びており、完成とともに人気が出るのではないでしょうか」と言う。
ナイトフランクの調査によると、2015年上期におけるカンボジアのオフィスビルの平均賃料は14ドル/㎡。2015年上半期のオフィスビルの平均入居率は44%と2014年下半期から3%減少した。
代表的なオフィスビルは2011年竣工のプノンペンタワー、2009年竣工のカナディアタワー、前述のヴァタナックキャピタルタワーなど。その他に、長屋に似たプテアロベーン(フラット)と呼ばれる住宅の一室や、一軒家をオフィスとして賃貸している企業もある。デポジット(保証金)は1~3か月が一般的である。
オフィスビルを賃貸する場合、駐車場が確保されているかどうかは注意すべきである。有名なオフィスビルでさえ駐車場不足により、オフィス周辺に別途借りなければならない場合がある。
業種・業態によって、オフィスをステイタスとして捉えるケースもあれば、固定費という面で捉えるケースもあり、何をメインに考えるかで選択する物件も変わる。いずれにせよ平米単価が平均相場かどうかという点や、水回りなどその物件を実際に入居した際の使い心地、接客に適したものであるかどうかなどを考慮して選定することとなる。
消費者関連ビジネスの場合、業種や目的により賃貸に適するエリアは相違するが、周囲環境の目まぐるしい変化により、街の動線の変化を予想することは難しい。
入居に際して改装費用が多額な場合は、予算やデポジット、契約期間などを勘案して契約することが肝要となる。また、良い物件はすぐに賃貸市場から無くなるため、スピードも重要だ。欧米系外国人クライアントを多く持つインディペンデント・プロパティ・サービス(IPS)のデイビット・マーフィー氏は、「近年は多くの物件の契約年数上限が5年に引き下げられました。例えば改装などで多額をかける場合、5年という期間は決して長いとは言えません。回収するのに10年かかるかもしれませんし、もしそうだとしたらそのような契約が可能な物件の選択肢はかなり狭くなります。それらすべてを勘案したうえで選びます。特にプノンペンでは希望の全てを満たすものは少ないかもしれません。希望のように利用できるか、契約条件やデポジットは納得できるものか、改装中はレントフリーにできるか。もし答えがイエスならすぐ契約するべきです。プノンペンの不動産業界の流れはとても速く、特にNGOなど国外の関係機関での調整に時間がかかる団体でよく見られるのが、全ての審査を通るころにはその該当物件が無いことがよくあります。物件の契約に関してはスピードが重要ですね」とアドバイスする。
いくつかの小売業が中心街で自社ブランドを出店しており、CBREの2015年第2四半期の調査によると、メインストリートの一つであるシハヌーク通り沿いの月額賃料は平米単価20~30ドルであった。
一方で初の国際基準モールとなったイオンモールも開店1年を迎え、現在も100%の入居率を保持しており、この成功の恩恵を受ける形で中心街全体の商業スペースは空室率22%と、昨年同期の25%から改善している。このほか、トンレサップ川とメコン川が交わる川に囲まれた場所に立地するソカホテル・プノンペンには現時点で小売向けに1,020㎡の賃貸スペースを提供しており、2016年にはマレーシア系のパークソンがプノンペン空港近くに「パークソン・シティセンターモール」を出店し57,000㎡を提供、シンガポール系のオクスリーの複合施設「ブリッジ」は2017年までに24,000㎡を小売向けに提供するなど、2017年末までに214,520㎡から455,348㎡と大幅増加する見込みだ。また、2018年にはイオンモール2号店の出店も続いている。
(078 カンボジアの不動産②へ続く)