【運輸・物流】
内陸国であるカンボジでは、陸路、海路、空路、水路それぞれの運搬手配が可能となり、状況に応じた使い分けができる。海路であれば、まずはシハヌークビル港経由が主要ルートとの一つとして挙げられる。国内唯一の深海港で、日本の支援により整備され、カンボジア全体の物量の60%を扱う重要港でもある。又、河川港であるプノンペン港は、5mの水深や川幅等の関係で寄港可能な船舶サイズの制限はあるものの、メコン河を経由してベトナムのホーチミン港やカイメップ・チーバイ港への内陸水運航路としての重要度が増している。
空路での主要港はプノンペン国際空港とシェムリアップ国際空港の2空港である。この他に八つの地方空港があるが、シハヌークビル空港以外の地方空港は整備状況からも実用的ではない。また、いずれの空港からも日本への直行便は就航されず、日本へはタイ、シンガポール、ベトナム、マレーシア、香港、台湾などでの乗り継ぎ便での手配となる。現状、フレイター(貨物専用輸送機)の定期就航も無いため、航空各社が各々のフライトで利用する機体によって、一般貨物の積載可能サイズが変わってくる。 昨今の物量増加に伴い、航空貨物のスペース確保が難しくなってきているが、某日系大手航空会社がプノンペンに航空貨物を専門に取り扱う会社事務所を開設し、既存他社フライトとのカーゴスペース提携就航を開始。独自のフレイター就航も視野に入れ、物量が増してきている航空貨物の取り扱い開始を狙う。
陸路としては、タイ側からであれば、ポイペトかコッコン経由、ベトナム側からはバベット経由、及び、国道1号線のネアックルン橋の開通でプノンペンとホーチミンを結ぶ経路が活発化され、物量が一気に増えると予想される。また、日本政府が南部経済回廊整備を引き続き支援しており、無償支給のネアックルン橋を始め、2020年までには国道5号線を改修し、全4車線化となる予定。
他に、プノンペン・ポイペト(タイ国境)を結ぶ北線、プノンペン・シハヌークビルを結ぶ南線を有する鉄道路線も存在するが、実際に利用可能な付随施設もまだ十分では無く、線路の整備状況から運航速度も極めて遅く、現状では一般貨物の輸送手段としての現実的な選択肢には入らないだろう。
日本政府はカンボジアの国土開発・隣国との流通経路の一層の支援を強化するため、高速道路網の整備等の案件化や物流の活性化を通じた投資促進を支援する事を表明しているが、道路、港湾、空港、鉄道、それぞれの経路も含め、未だ発展途上であるため、利用環境に対するさらなる改善が待たれる。
カンボジアは後発開発途上国として輸出に対する特恵を与えられている。GSP(特恵関税制度)※1 もその一つで、ドライポート内に検品所を持つ大森&トーマス・ロジスティックサービスの菊谷周平氏は、「日本で製品を輸入する際に特恵関税率を使用し、多くの商品を免税で輸入できる事が、カンボジアが注目されている理由の一つです。関税、人件費などを含め、トータルコストを見たときに、近隣諸国と比較してコストメリットが出るという考えの下で各社が進出してきています」と語る。
カンボジア独自の制度として、輸出入手続きに関税とは別にカムコントロール※2 に貨物検査料を支払い、手続きをする必要がある。物流業界で30年の経験を持つトーマスインターナショナル・サービスのクリストファー・トーマス氏は「関税は財務省が管理している一方で、カムコントロールは商業省が管理しています。このような二重の管理があらゆるものに適応されている事でコストもかさみます。これがカンボジアの一番の特徴です。カンボジアの市場では、近い将来のうちに税関事務所による輸出関税の一括取り扱いを期待する声が高まっています」と語る。また、海外24拠点を持つ鴻池運輸プノンペン駐在員事務所の高林洋平氏も「二重行政になっている税関とカムコントロールが一番の問題です。通関料にも関わってくるため、トータルの物流コストを高める大きな要因となっています」と述べた。
この問題は日・カンボジア官民合同会議※3 でも一昨年より継続的に取り上げられてげられている。商業省担当官の公式説明では、輸出は繊維製品、輸入は特定品目のみがカムコントロールの貨物検査の対象となり、ASYCUDAシステム※4 によってハイリスクと評価された物についてのみコントロールを行うとの事。しかし、実際には輸出入される全貨物に対し検査料がかかっているのが現状である。日本側の要求する該当品目リストの掲示が未だにされておらず、問題が長引いているのが現状。この背景には、管轄省庁が異なる事による利権問題も絡み、簡単には改善されそうもないポイントではある。総合的に見るとカンボジア側のデメリットどころか新規ビジネスの参入障害にもなり得るため、早急なカンボジア政府の対応に期待したい。