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2014年11月21日
カンボジア進出ガイド

【不動産】

006 カンボジアの不動産②(2014年9月発刊 ISSUE01より)

商業物件の賃貸

 消費者関連ビジネスの場合、業種や目的により賃貸に適するエリアは相違するが、周囲環境の目まぐるしい変化により、町の動線の変化を予想することは難しい。欧米系外国人クライアントを多く持つインディペンデント・プロパティ・サービス(IPS)のデイビット・マーフィー氏は、「ニッチビジネスの場合、多少中心から外れてもその独自なサービスを求めて人は動きます。そのため中心一等地でなくてもボンケンコン(BBK)3、トゥールトンポン(TTP)でも良いでしょう。5分、10分をかけてでもお客様が訪れるからです。しかし一般的な小売やサービス業ならボンケンコン1やリバーサイド、あるいは隣接する地区にいる必要があります。そこに全てが集まっているからです。まずは自社の目的と、その業種の中心地区がどこであるのかを理解すること。なぜならカンボジアの場合は業種によって地区別に集約される現象が多くみられるからです」と言う。

 入居に際して改装費用が多額な場合は、予算やデポジット、契約期間などを勘案して契約することが肝要となる。また、良い物件はすぐに賃貸市場から無くなるため、スピードも重要だ。IPSのマーフィー氏は、「近年は多くの物件の契約年数上限が5年に引き下げられました。例えば改装などで多額をかける場合、5年という期間は決して長いとは言えません。回収するのに10年かかるかもしれませんし、もしそうだとしたらそのような契約が可能な物件の選択肢はかなり狭くなります。それらすべてを勘案したうえで選びます。特にプノンペンでは希望の全てを満たすものは少ないかもしれません。希望のように利用できるか、契約条件やデポジットは納得できるものか、改装中はレントフリーにできるか。もし答えがイエスならすぐ契約するべきです。プノンペンの不動産業界の流れはとても速く、特にNGOなど国外の関係機関での調整に時間がかかる団体でよく見られるのが、全ての審査を通るころにはその該当物件が無いことがよくあります。物件の契約に関してはスピードが重要ですね」とアドバイスした。

住宅の賃貸

 カンボジアの住居形態は、サービスアパート、コンドミニアム、ヴィラ(一軒家)、プテアロベーン(フラット)などがある。コンドミニアムは24時間警備なだけでなく、プールやジム、クリーニングサービスなど、ハード面だけでなく、ソフト面も充実している物件が多い。
 住居として外国人に人気の高いエリアは、ボンケンコン1。プノンペンの富裕層エリアといわれており、カフェ激戦区となっている。次いで、その周辺のボントラバエク(BT)、トゥールトンポン(TTP)、ボンケンコン(BKK)2、3、トンレバサック(TB)、プノンペンタワー裏の人気が高い。ボントラバエクやトンレバサック南部は新興住宅地で比較的新しい建物が多く、日本人が増えているエリアだ。また、ここに日本食屋などが並ぶ「絆ストリート」もあり今後注目のエリアである。立地的にPPSEZに勤務している方が多く住んでいるトゥールコークも高級住宅街として知られているが、設備の割に価格が抑えられた物件が多い。レオパレス21の小林氏は、「住居探しのポイントとしては、何を重視するのか最後までぶれずに探すことです。物件をいくつも見ていると当初の目的からずれてしまうことがあります。最後まで自分が何を重視したいかを考えることが大事です」とアドバイスしている。セキュリティや治安など、重視する点を考慮し、現地をしっかりと見たうえで検討したい。

不動産の購入

 カンボジアでは憲法第44条において、外国人または企業が土地を所有することはできないと明記されているが、例外として土地を購入するためには、クメール資本51%以上の合弁会社により購入する等の条件がある。まず、購入する土地を選定する上で、売手の持っている書類がハードタイトルかソフトタイトルかを確認する必要がある。
 JICA国際協力専門員、磯井美葉氏は、報告書「カンボジアの不動産登記について」内で、権利証について以下のように記述している。

 Systematic RegistrationおよびSporadic Registrationにより発行された権利証または占有権証明書等は、実務上ハードタイトルと呼ばれる。
 これに対して、ソフトタイトルと呼ばれるものも流通している。これには登記手続の前提としてコミューンチーフ※1 が占有状態を証明した書類、Sporadic Registrationの「受理書」など、いくつかの種類があるようである。
 地籍局に登記されていない土地について、これらのソフトタイトルを相手に交付することによって、担保を設定したり、所有権を移転したりする慣行があるようだが、複数の人が同じ土地について権利を主張する等、不安定、不確実なものであり、紛争の原因ともなっている。
 所有権が認定され、登記がされた後に所有権移転等によって変更登記を行う際は、登記簿の記載を変更するとともに、旧所有者が手元に保有する権利証等を地籍局に提出し、権利証等にも登記簿と同様に変更の記載をすることになっている。



 一方で、コンドミニアムなどを小規模のオフィススペースとして区分所有する方法もある。コンドミニアムは当初は建築者の名義で所有権が登記され、分譲されると新しい所有者の名義が登記されるとともに、各戸の所有者に対しハードタイトルが発行される。これらは、コンドミニアムなどの区分所有建物を建築する場合の義務とされている。区分所有建物の登記について、磯貝氏は同報告書内で以下のように記述している。

これらの登記簿の作成の申請は、区分所有建物を建築する場合の義務とされているが、必ずしも行われていない場合があり、プノンペン市内でも、権利証(ハードタイトル)のないコンドミニアムが売り出されている例があるようである。



IPSのマーフィー氏は、「会社として物件を購入する場合、所有権を考えたほうがいいですね。権利証等がない物件の場合、有効な所有権の取り決めをする必要があります。正式に登記された会社の場合、ランドホールディングカンパニーを設立して土地を登記します。これだけではリスクが高いので議決権を51%以上にする必要がありますね。こうすればローカルパートナーの名義が含まれたとしても会社の判断に口出しをすることが不可能となります。次に長期リースというものがあります。50年+50年の契約になるのですが、正直最近はほとんど見られません。さらにこれは人気の高い方法で特に住宅で多いのですが、ノミニー※2 制度を利用するものです。カンボジア人の友人もしくはノミニーの扱いのある会社もしくは弁護士や不動産会社を通して設定します。あなたの資金で、しかし名義はカンボジア人のものになります。そこに100%の不動産抵当権を付けることにより、抵当の除外もしくは満額支払いがない限りは第三者に売り渡すことができないのです。このような手法で土地を守ります。ですからまずはどのシステムなら納得できるか決める。何に必要なのか、投機目的の購入なのか、ロケーションありきなのか、ハイエンド物件を探しているのか、長期の投資を考えるならば、住宅と商業物件の両方を検討する必要があります。まずは自身のニーズを考えること、次に信頼できる代理店を探すことです」と語った。



※1 コミューンチーフ: カンボジアの地方行政には、州、郡、コミューンという三つの行政区分がある。コミューンは人口1万5千人から2万人の規模をもつ行政体で、コミューンの下には村がある。一つのコミューンにつき8~10の村がある。
※2 ノミニー: 合法的にプライバシーを保護することができる。法人登記時にオーナーの個人情報を使うことなく登記することが可能。


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