プノンペンにあるウィングのキオスクでモバイル決済で現金を送金する男性(引用:Jens Welding Ollgaard/カンボジアデイリー)
2009年の登場後「ウィング(Wing)」はほぼ独壇場でその市場に君臨しており、国内数千箇所の送金所の開設を進め、モバイルユーザーに広く浸透してきたが、今年に入り多数の競合他社の参入により競争という課題に直面している。ここ6カ月で「SmartLuy」、メットフォン(Metfone)の「eMoney」、そしてタイから「トゥルーマネー(True Money)」、マイクロファイナンスを営むAMK社の「Mobile Money Transfer」が相次いで参入し、ウィングの独占市場に挑戦している。
カンボジアでモバイルマネー送金に人気がある理由は、最近公表された調査(NGO Open Institute調査)によると労働人口(15歳~65歳)の94%が携帯電話を所有していることと、多くの人が未だ銀行口座を持っていないことによるとみられる。モバイルマネー送金は各地にあるキオスクへ現金を預け、その代りにもらえる暗証番号を受取人にSMSで送信し、受取人が端末と暗証番号を最寄りのキオスクに提示することでものの数分で現金を受け取れる仕組みである。
「どこにも出向かずに離れた家族に送金できるのが便利で、銀行よりも手軽です」と、調査を行ったOpen Instituteのハビエル・ソラ氏は述べた。Cellcard社のCEOのイアン・ワトソン氏は成長している市場なので、各社の新規参入によりウィングの顧客が大幅に減ることはないとしている。
「皆さん簡単にモバイルマネーシステムの構築ができるとお考えのようですがウィングもここまで来るのに5年以上かかっています」と述べ、同社は精力的に取扱所を増やす予定を公表しており今後2年間でその数は1,500以上になる見込みとしている。また、「新規参入会社の利用者からきちんと現金を引き出せなかったという話も聞きます。柔軟で信頼できるネットワーク構築の重要さがここに出ると思います」とも指摘している。ウィングは展開力では最大となっているが、新規参入各社は早くも価格競争に突入し顧客獲得に励んでいる。
「以前はウィングの利用者が圧倒的でしたが最近はeMoneyの利用者も増えてきています。理由は手数料がウィングの半額近いからです」と都内で取扱所を営むウィチェッカ・ラン氏は話し、「4か月前の取り扱い開始時には知名度もなく一日5人から10人程度の利用者でしたが、今は20~40人ほどになりました」と続けた。プノンペン都内では各種モバイルマネーの取扱所も増え、ウィングの隣にeMoneyというのも良くある事だが、同じ会社の場合、半径200メートル以内に取扱所が無いという要件があるという。
モバイル送金市場の人気の高まりを受け、世界各地の中央銀行や国際金融公社(IFC)は詐欺や資金洗浄に利用される可能性もあると注意を促している。カンボジア内でもウィングの取扱所に他人に成りすまして現金をだまし取ろうとした者の逮捕が出てきているという。カンボジア中央銀行(NBC)のチェア・セレイ総局長は、長くモバイル送金市場の監視を行っており、伸びる市場の中で利用者の金融リスクを減らすためにも近く規制を導入する見込みだとメール取材の返信で述べている。「消費者教育が追い付いていないので詐欺やなりすまし等の問題も出てきています。来月から特に地方の人々や都市部の若者をターゲットに、金融(モバイル送金含む)に関する知識の啓発活動を行っていく予定です」と述べた。
競争が高まるにつれ顧客の取り合いだけではなく取扱所の競争も高まるのではないかと国内にてフリーでデジタル金融サービスのコンサルタントを行うリー・アン・ピットキャッセリー氏は指摘する。「カンボジアのモバイル送金市場がどこまで維持できるか。なぜならほぼ同じサービスを複数の会社が提供しているのですから。顧客のニーズの中でもニッチなものを見つけて他社と差をつけてくる会社が出てくるかが見物ですね」と同氏は述べた。
.
本記事は翻訳・翻案権の許諾を得て掲載しております。