年末年始は日本に帰省された方も多いのではないでしょうか。最近クリニックには、日本からカンボジアに戻った後に体調を崩してしまった患者さんの受診が増えています。そのほとんどが「風邪」です。
風邪予防の基本として、「うがい」「手洗い」「規則正しい生活」などが昔から言われていますが、今回は風邪予防に関する知見をご紹介します。ちょっと意外な事実もあるかもしれません。
排気ガス・砂埃あふれるカンボジアで生活していると、帰宅後にはうがいをしたくなります。しかし、この喉の奥までガラガラするうがいは日本人特有の生活習慣のようで、古くは平安時代から行われてきたそうです。風邪の予防手段としてのうがいは、有効性に科学的根拠がないという意見もありましたが、京都大学のグループが十数年前にその予防効果を実証しています。その中で興味深かったことは、「水でうがい」をすることで風邪の発症率を40%低下させましたが、「ヨード液(イソジン)でうがい」をしてもあまり風邪の予防効果が得られなかったということです。これは、うがい薬が喉の常在菌や粘膜に何らかの障害を与え、ウイルスの侵入を許したのではないかと考えられています。
さらに、浜松医科大学のグループは「緑茶によるうがい」は風邪の発症率を7割近くも低下させると報告しています。しかしながら、インフルエンザに対する予防効果は科学的に証明されていません。これはインフルエンザウイルスがいったん気道に付着すると20分ほどで細胞内に取り込まれ増殖していくため、うがいでは間に合わないとされているからです。
一方、手洗いが呼吸器感染症や感染性胃腸炎の予防に重要であることは疑う余地がありません。しかし、その方法により予防効果に差が出ます。水だけの手洗いでは、石けんを使用した手洗いに比べ、手についたウイルスや細菌を十分に洗い落とせません。さらに、アルコール手指消毒剤を使用した方が石けん手洗いよりも優れた除菌効果を発揮します。その際、アルコール消毒には手の汚れを落とす効果がないため、明らかに手が汚れている場合は、まず石けんで手を洗い、完全に乾かした上でアルコール消毒をするようにしてください。ただし、ノロウイルスなどアルコールでは殺菌できないものもあるため注意が必要です。
そして、石けんに関しては、2016年9月に米食品医薬品局(FDA)が「抗菌石けんは通常の石けんより抗菌効果がある科学的根拠がない、健康に悪影響を及ぼすリスクがある」と19種類の抗菌剤の販売を禁止しています。それを受け、日本の厚生労働省も国内で製造販売する業者に対して薬用石けんの切り替えを要請しています。商品名は誰でも知っている薬用石けんです。したがって、殺菌性の強い石けんに頼るのではなく、時間をかけた丁寧な石けん手洗いが何よりも大切です。
あと、生活面での興味深いデータとして、米カリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究グループは、「1日の睡眠時間が6時間以下の人は、7時間以上の人より4倍も風邪をひきやすい」との調査結果を報告しています。2015年の厚生労働省の調査によると、日本の成人の39.5%は睡眠時間が6時間以下のようですので、カンボジアでも健康管理のため生活習慣に気を配る必要がありそうです。